地下闘技場①
目が覚めると、見慣れない天井がある。
「知らない、天井だ」
いやいやいや、俺は逃げるよ。無理なものは無理だからね。
逃げていいよ、逃げていいよ、逃げていいよ。
ウォォォォォォ!
デンデンデンデン、ドンドン。デンデンデンデン、ドンドン。
うん、暴走しちゃいなよ。暴走しちゃっていいよ。あの狂った王はぶっ飛ばしてもいいでしょ?
俺はそう思ってから首を触る。
そこにあるはずの物がない。ずっとはまっていた従属の首輪は外されて、代わりに左足に奴隷の足枷がはまっていた。
従者の次は奴隷かよ。この世界は忙しいね。
俺がそう思いながら身を起こすと、ギシギシとベットが返事をする。
どうやらここはいわゆる独居房ってやつだね。
鉄の格子がずいぶんと存在感を主張しているが、それ以外はベッドとトイレしかない。
まぁ、ほかのやつと一緒で気を使わないといけないよりひとりのほうがいいね。
そんな風に思いながら鉄格子を見ていたら、兵士に連れられた旦那様が来た。
「ポチ、大丈夫かい?」
俺は「大丈夫です」と答えたが、どうやら言葉がわからないらしい。旦那様は顔を歪めた。
「こんなことになってすまない」
そう言うので、俺は首を横に振った。
うん、旦那様のせいじゃない。どちらかといえば俺が元フォレスト領で調子に乗ったせいだ。
「アビ、だいじ」
「あぁ、アビーは大丈夫だ。かなり泣いたがね、今は落ち着いている」
旦那様が苦笑いを浮かべる。
「こちらのことは気にしなくていい。ポチは生きのびることだけ考えなさい。陛下の気が済めば、きっと、帰してもらえる」
「ぞう」
俺がうなずくと旦那様も「あぁ」とうなずいたが「グッ」と言いながら、泣いた。
「タマ、ジロ、みんあ、たのみ、ます」
「あぁ、わかった。任せてくれ」
旦那様が涙を拭いながらうなずくと、兵士が「そろそろ」と言う。
「ポチ、希望を失ってはダメだよ」
旦那様がそう言うので、俺は「がい」とうなずいて笑って見せた。旦那様が「グッ」と再び涙ぐむと、兵士に連れて行かれた。
とりあえず、ブラックドッグ家とアビーが無事だからよかった。
あとは、俺が生きのびることを考えないとね。
奴隷の足枷は魔法が使えなくなるらしいけど、どうやら『魔力循環』は問題ないらしい。
それに『鬼門開放』もできるみたいだ。
ということは、初めから魔法が使えないゴブリンの俺にとってはなんの足枷にもならないね。
さてと。
俺がそう思うと、兵士が来て鉄格子を開けた。
「出ろ! 飯の時間だ」
俺はうなずいて牢を出た。
地下にある広場には多くの魔物が集められていたが、もちろんみんな俺と同じように奴隷を示す足枷がつけられていている。
全員が闘士ってことかな?
確かに強そうな魔物が多い。中にはミノタウロス、ベアーなんかもいる。
うん? だけどさ、飯の時間って言ってなかったっけ?
俺が首をかしげると、近くにいたオークが襲いかかってきた。
なるほどね。
俺は軽く避けて、指先でオークの首を突いた。
「グフゥ」
血を吐いたオークがドスンと倒れると、次々に魔物たちが襲ってくる。だけど、ステフに比べたらどれも遅いし、もろい。
丸腰でもなんの問題にもならなかった。
俺は相手の攻撃を避けて、代わりに指先で急所を突いていく。
「アタッ、アァタタタタタ、アタァ。お前はもう死んでいる」
俺が『北◯のケン』よろしくそう言いながら突きを入れると、バタバタと魔物たちが倒れた。
「ふん、口ほどにもないな」
いやいや、誰もなにも言ってないよ。
そんな感じで襲ってくる魔物を倒していたら、しばらくして残りは俺とその子だけになった。
柱の影に隠れていたルペルペタス。ほかにもゴブリンがいたんだね。
俺がその子を見ると、その子は両手を上げて「同族なんだ、争うのはやめようよ」と言った。
「うん? それで許されるの?」
「うん、時間が来れば終わるよ」
「そう、わかったよ」
俺はうなずいて、その子に背を向ける。
時間制限があるなら、倒した魔物を早めに食べないといけないからね。
すると背後から襲われたので、俺はそれを避けてその子の首を切った。その子は首を押さえながら「なぜわかったの?」と言う。
「君はそうやって生き延びてきたんだろ? こんな場所じゃ、ただ弱いやつが生き延びられるわけないもんね」
「グッ」
「だけど、君はもう終わりだね」
俺が言うと、その子はその場にバタリと倒れた。
「同族は食べられないんだからさ。争う意味なんてないのに」
俺はそう呟いて、その子の服などを脱がす。血で汚れてしまったが、服と皮の胸当てと籠手を手に入れた。
「なんか倒した相手の防具を剥ぎ取って着るとか、リアルロールプレイング感が嫌だね。どうせならさ、軽快な音楽付きで『ポチは布の服を手に入れた』とか表示が出て、ウインドーからカーソルで選んで装備できたらいいのに」
俺はブツブツと呟いたが、背に腹はかえられない。
なにせ俺が着ている服は背中が大きく破れているし、いきなり連れて来られたから防具も着ていないし、籠手もしてなかった。
着替えが済んだら次はいよいよ倒した魔物たちを食べる。獣型の魔物は肉も食べて、人型は魔石だけ。
それにしても赤髪や赤毛の魔物が多いね。これってさ、もしかして、みんなBランクってことか?
「ふむふむ、これは我がAランクになるのも近いな、ファーファファ」
バリバリと魔石を食べながらそう言っていると、様子を見にきた兵士が俺を見て「嘘だろ?」と言った。
「お前、防具を手に入れたみたいだけどシーカリウスだよな? 武器を持たない新人のゴブリンが、どうやってこの短時間でこの数の魔物を倒したんだ?」
そう聞いてきたので、俺は首をかしげた。
あぁ、武器ね。武器はないのかなぁ?
そう思って倒した人型の魔物たちを調べていたら棍棒や大型の剣、それからダガーがあった。
おぉ、このダガーはいいね。ずいぶんと年季が入っているが、刀身に刻まれた雲のような柄が見事で、かなりの業物だとわかる。
しかも、黒光する金属は鉄やミスリルとかではないような気がする。
「よし、こいつにしよう。テッテレー、ポチはよさげなダガーを手に入れた」
俺はそう言ってそれを天井に向かってかかげてから腰にさげた。
遠くでこちらを見ていた兵士たちが「大丈夫か? あいつ」とか言っている。
だが、気にしてなんかやらないんだからね。




