勇者と従者と魔王と③
慌てた俺たちがステフに駆け寄る。
「ステフ! ステフ!」
「アニキ、落ち着いて、大丈夫だから。まずはポーションでしょ?」
タマがそう言うので、俺は「そうだな」とうなずいて、すぐにポーションを出してステフに飲ませた。
「大丈夫か? ステフ」
「うん、大丈夫」
「大丈夫なわけあるか!」
俺が怒鳴ると、ステフは「自分で聞いたんでしょ?」とニッコリ笑った。
「とりあえず大丈夫なのか?」
「うん」
俺は「ホッ」と息を吐きだした。
「でもなんで負けたんだ? ステフがリッチーに負けるわけないだろ?」
「うん、倒しても倒しても蘇るから」
「なるほどな」
俺はそううなずいて、ステフが握っていたシミターを返してもらう。
「タマ、火をくれるか?」
「はいっす」
タマが出した『ファイヤーボール』から火をもらいシミターが黒い火をまとう。
「しょうがないから従者(仮)が引導を渡してやろう」
俺がそう言うと、姿を現したリッチーが「ほぉ」と笑った。
「タマとジローと一緒にボコボコにされたのを忘れたのか?」
「いつの話をしてるんだよ、リッチーは近所のおじさん?」
「なんだと!」
リッチーがわざとらしく怒鳴るので、俺は「あのさ」と苦笑いを浮かべる。
「こっちは誰かのせいでこのところ毎日勇者にボコボコにされてたんだよ。お供の魔法使い程度が調子に乗るなよ」
「ゴブリン風情が言うじゃないか?」
リッチーがニヤリと笑うので、俺も笑った。
そして、俺は飛び出す。それにあわせてリッチーが闇の塊を飛ばし、ついでとばかりに足下から黒い手が伸びてきたが、俺は気にせずに全て避けてリッチーに迫る。
闇の塊は直線的だから避けてしまえばどうということはないし、黒い手もすがりついてくるが遅い。
「なっ」
小さく声をもらしたリッチーの首に、俺のシミターが届いた。
ガチッという音と共にリッチーの右手が飛ぶと、リッチーはバックステップで逃げて、俺の足下から大量の黒い手が伸びてきた。
ガギッとシミターの腹で黒い手を叩きながら俺は飛び上がり、伸び上がってくる全ての手をシミターで斬って着地する。
「ポチ、ちょっとはやるようになったじゃないか?」
「近所のおじさんはちょっと鈍ったみたいだよ、リッチー」
「ふん、言ってろ!」
リッチーはそう言ったが、右腕には黒い火がまとわりついている。
「右手を再生しないの?」
「こんなもの治すまでもない」
「そう? 治せないならそう言ったら?」
俺が聞くと、リッチーは自分の右腕にまとわりつく黒い火を見た。
「ゴブリンの王が神からもらった力、悪魔を滅する火『インフェルノ』確かに少し厄介だな」
「少し?」
「あぁ、少しだけだ。お前を倒せば消えるしな」
「倒せるならね」
俺がそう言うと、リッチーは「クククッ」と笑った。
「なぜだ?」
「うん?」
「なぜもっと早く俺たちのまえに現れてくれなかった?」
「リッチー?」
「ゴブリンの王よ、なぜだ?」
「だから、俺はゴブリンの王じゃないって、ブラックドッグ家のアビゲイルの従者ポチ、ただのゴブリンだよ。ちなみに今は勇者ステファニーの従者(仮)でもあるけどね」
俺がそう答えても、リッチーは「違うだろ?」と首を横に振った。
「俺を止めるために神につかわされたのだろ? ではなぜ神は罪のない妻と娘を救ってくださらなかったのだ!? 妻も娘も神を信じていた。毎日祈りを捧げて、俺が帰るたびに『神が守ってくださった』と言っていた」
リッチーが「なぜだ!」と叫ぶので、俺は「はぁ」と息を吐いてから「わからないの?」と答えた。
「神は人族のことなんてなんとも思ってないよ。神にとって人族なんて暇にまかせて作ったおもちゃ箱の中のおもちゃの1つなんだ」
「おもちゃ、だと……」
「うん、だからさ、もしかしたら全部壊れるのは困るのかもしれないけど、少し減ることなんて、ちっとも気にならないんだよ」
「ふざけるなよ、そんなわけ、ないだろ?」
「本当にそう思う?」
俺が首をかしげると、リッチーは首を横に振った。
「馬鹿な、そんな……」
「だってリッチーは、いい人が報われない世の中で、善人が意味もなく殺される世の中で、それでも正しくあろうと生きてきたでしょ? 勇者の仲間として祈るだけの人たちを救うために」
「嘘だろ? 嘘だよな?」
「神は救ってなんかくれないよね? 祈っても、願っても、俺たちの声は神には届かないし、奇跡なんて起きたりしない。だから代わりにリッチーたちが救ってきたんだろ?」
俺はそう言って、ギュッと歯を食いしばる。
「祈ったとしても神は救ってなどくれないから、どんなにつらいことがあったとしても『負けるものか』と生きて、泣きたいことがあったとしても『負けるものか』と笑って、人族は与えられたものだけで生きていくしかないんだよ」
リッチーは「グッ」と声をもらすと「やはり」と言った。
「神のおもちゃなど俺が全て壊してくれよう」
「だからさ、負けるなって」
「なにを言っている?」
リッチーが聞くので俺は「本当はさ、わかっているんだろ?」と聞き返した。
「だっ、黙れ!」
「人族が正しくあろうとするのはさ、神に認められたいからなんかじゃないだろ?」
「ゴブリン風情が知ったような口を聞くな!」
「知らないよ。でも、勇者の従者であったころのリッチーみたいに俺も正しくありたいんだよ。たとえ報われなくても、負けたくないんだ」
リッチーは「ギィ」と歯を食いしばると「では」と笑う。
「ほかの愚かな者たちと同じように、正しくありたいと願いながら死ね」
そう言ったリッチーが繰り出してきた闇の塊を避けて、伸びてくる黒い手も避ける。闇の塊を撃ち出すたびにリッチーが「死ね」「死ね」と叫ぶから胸が締め付けられた。
俺のシミターがリッチーの首を切る瞬間にリッチーは俺に向かって笑う。そして「ポチ、ありがとな」と言った。
ボワッと黒い火がリッチーの頭部と体を包む。
俺はそんなリッチーを見下ろした。
「馬鹿やろう。悪役なら悪役らしく、最後までちゃんと悪役やれよ」




