勇者と従者と魔王と①
シミターで首を斬られた悪魔が黒い火に燃やされてすべて灰となって消えていくのを確認してから、俺はリッチーが作った闇の結界と対峙した。
「アニキ?」
「タマ、ちょっと離れてて」
「なにをするんすか?」
「うん、結界を斬る」
「えっ?」
驚いたタマが「リッチーさんに呼びかければ、解いてくれるんじゃないんすか?」と言うので、俺は「はめられたから無理」と笑った。
「どういうことっすか?」
「うん、リッチーこそがフォレストが言っていたあの方なんだよ」
「あの方って、嘘っすよね?」
タマがギュッと顔をしかめたので、俺は「嘘じゃないよ」と言う。
「昔の名作ミステリーゲームみたいに助手が犯人だったのだよ。ワト◯ン君」
「えっ?」
「あれ? これだとワ◯ソン君が犯人になっちゃうね。えっとねぇ、協力者が犯人だったパターンだね。あるでしょ? 冒頭で探偵に親切にしてくれた人が犯人だった的なやつ?」
「いつもながら例えがまるでわからないっす」
「そう?」
「そうっすよ」
「まぁ、どちらにしても、あとで本人から直接聞けばわかるよ」
俺はそう言ってシミターを上段に構えた。そして、再び全力で『鬼門開放』をおこない。シミターを振るった。
キィーン!
闇にシミターが弾かれたけど、感触はある。俺は黒い火をまとったシミターをもう一度振り下ろした。
キィーン!
キィーン!
カキィーン!
うーむ、硬い。
「アニキ」
「うん、感触はあるんだけどね」
俺はポリポリと頭をかいてから、少し離れてしゃがみ込んで飛び上がり、クルクルと回転しながら勢いをつけてシミターを結界に叩きつけた。
ガギィ。
ピシッと結界に小さな亀裂が入り、シミターがそこから結界の闇を吸っていく。
「嘘?!」
「行けたみたいだね」
俺はタマに向かって笑って、シミターに闇を吸い取られた結界が解けると、すぐにクレーターを駆け上がる。
そして、膝をついていたステフをかっさらって、リッチーから距離を取ると、リッチーは俺を見て「早かったな」と言った。
「うん、おまたせ」
俺がそう答えると、リッチーはうれしそうに「フフッ」と笑う。
「止めてほしいならさ、こんなことしなければいいのに。馬鹿だね、リッチーは」
「誰が止めてほしいと言った?」
「『止めてくれ』って、心が叫んでいるよ」
俺が首をかしげると、リッチーが「戯言を」と言うので、俺の小脇に抱えられたステフが「なぜなの?」とリッチーに聞いた。
「なぜ? だと、そんなもの、復讐をするために決まっているだろ? 俺の妻と娘を殺したフォレスト家とフォレスト領の領民たちにな」
リッチーはそう言って「それから」と続ける。
「王命だからといつも自分たちを犠牲にするジーンに、俺と同じ気持ちを味わわせてやりたかったのだ」
「同じ気持ち?」
「そうだ」
リッチーがうなずくので、俺が「あそこにあった結界は、ステフをはめるためのものだったんだよ」と続く。
「えっ?」
「相性の悪い火の悪魔を使ってステフを殺すつもりだったんだ」
俺がそう言ってそれから「フォレスト家の地下牢の亡骸はリッチーの妻と娘じゃないんでしょ?」とリッチーに聞く。
「あぁ、違う。妻と娘は俺がジーンについて南方に出たAランクの魔物を倒しに行っているあいだに、フォレスト家に逆らったと濡れ衣を着せられて処刑されていたよ」
「それで? 処刑したフォレスト家と、濡れ衣を着せたり見殺しにしたりしたフォレスト領の領民たちを皆殺しにするためにこんなことをしたの?」
「そうだ」
リッチーがそう言うと、ステフが「そんなことしてなんになるの?」と言う。
「そうだな。だが、フォレスト家にもフォレスト領の領民たちにも復讐できた。あとはステフ、お前を殺せればそれでいい、もう悔いはない」
リッチーがカタカタと笑うので、俺は「嘘だね」と言う。
「嘘ではない」
「じゃあ、なんで俺たちを育てたの?」
「ふん、そんなもの気まぐれだ。フォレスト家を潰すのがあんまりにも簡単で退屈していたからな」
「ステフをはめる罠に俺たちを向かわせたのは?」
俺は顔をしかめた。
「さっきだって俺たちが結界に入るまえに打ち明けようとしたんだろ?」
そう聞いて「リッチー!」と呼びかける。
「そんなことをするほどの愛があるならさ、きっと来世でもリッチーなら奥さんのことを見つけられたと思うよ」
俺がそう言うとリッチーは「グッ」と声をもらした。
「そうかもしれないな……」
リッチーは小さく聞こえないほどの声で呟いて、それからカタカタと笑う。
「たとえ全てが終わったあとで俺の魂が冥府に落とされるのだとしても、俺から妻と娘を奪った者たちがのうのうと生きていくことなど許せるものか!」
リッチーが叫ぶので、俺は「そうだよね」と首肯する。
「勇者と共に守ってきた人々に裏切られたんだ。そりゃあ、怒るよね?」
「ふん、お前になにがわかる?」
「わからないよ。だけどさ、復讐したいって気持ちはなんとなくわかるよ」
「わかるものか! お前は大事なものを失ってないだろ?」
リッチーがタマを見るので、俺は「そうだね」とうなずくと、リッチーはまたカタカタと笑う。
「同情などよせ。お前たちが俺を止めなければ、俺は魔王になるぞ。そして、この世界に暮らす全ての人族を道連れにしてくれる」
リッチーが両手を広げて「ファーファファ」と笑うと、クレーターの中心にある魔法陣が光を放つ。
なので、俺は小脇に抱えていたステフを下ろして、ポーションをかけた。
「リッチーおじさん」
「ステフ、怪我は大丈夫?」
「うん、大丈夫」
「じゃあ、リッチーを倒そうか?」
俺が笑うと、ステフがギュッと顔をしかめた。
「なんでこんなことになったの? だって……」
「ジーンさんのせいじゃないよ」
「でも……」
ステフが言い淀むので、俺は「どうしたの?」と聞く。
「ステフは勇者なんだろ?」
「うん」
「勇者はさ、みんなのためにがんばるんだろ?」
「うん」
「じゃあ、終わりにしてやろう。馬鹿なことを始めてしまったリッチーはきっと俺たちに止めてほしいんだよ」
「ポチ」
「なに?」
俺がステフを見ると、ステフは「ありがとう」とニッコリ笑って立ち上がった。




