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悪魔②

 少し肩を落として頬をポリポリとかいた悪魔は、またその場に胡座をかいて座り、俺たちに「まぁ、座れ」と言う。


「うん?」


「話が長くなるからな、いきなり襲ったりしないから座れ」


「そう? わかった」


 俺がうなずいて、その場に座るとタマが「ちょ、ちょっと」と言う。


「うん?」


「なんで素直に従うの?」


「えっ? だって、いきなり襲わないって言うし」


「いやいや、なんで信じるっすか? 馬鹿なんすか?」


 タマが俺を見ながら首をかしげるので、俺は「大丈夫だって」と笑う。


「ああいうタイプは、正々堂々と正面から戦いたいタイプだから」


 俺が言うとタマは「えっ?」と言って悪魔を見たが、悪魔は「さよう」とうなずく。


「戦いは正面からぶつかってこそだ」


「えっと、なんなんっすか? それは?」


 タマが呆れ顔になって、それから「もう」と言うと俺の隣に座る。


「きさまたちはこの世界の神についてどこまで知っている?」


「えっと、全然知らない」


「はぁ?」


「空の上から俺たちが右往左往するのを見て楽しんでいるやつのことなんて微塵もしらないよ」


「マジか?」


「うん、知ってることと言えば、暇人ってことぐらいかなぁ」


 俺がそう答えると、悪魔は「プファ」吹き出して笑う。


「暇人か?! こいつは傑作だ」


 悪魔は愉快そうにうなずくと続けた。


「この世界には6柱の神がいる。光の神、闇の神、火の神、水の神、土の神、風の神。だがな、本当は1番下に7番目の神がいた」


 悪魔はそこまで言うと、ギュッと顔をしかめた。


「もっとも勤勉な1番下の神は兄弟たちを愛していたが、ほかの神たちによって冥界へと落とされた。そして、その身が黒く汚されて、一緒に落とされた天使たちは悪魔に変わり、子供たちは人族からオーガやゴブリンに姿を変えられた」


「うぇ、それはひどいね。なんで落とされたの? 1番偉い光の神を倒そうとしたとか?」


「違う、なにもしていない」


「はぁ?」


「嫉妬、強欲、傲慢、憤怒、色欲、暴食、神たちが持つこれら6つの罪が1番下の神、無の神を冥界へと落とした」


「ちょっと待って、神が罪を持っているの?」


「そうだ。この世のものは表裏一体。感謝の裏に嫉妬が、寛容さの裏に強欲が、謙虚さの裏に傲慢が、忍耐の裏に憤怒が、純潔の裏に色欲が、節制の裏に暴食が。神たちは美徳と共に罪を持っている」


「なるほどね、その無の神はさしずめ勤勉と怠惰の神ってとこだね」


 俺が聞くと、悪魔は目を見開いて「そうだ」とうなずく。


「じゃあ、冥府に落とされた復讐としてあんたたちは400年まえにこの世に侵攻して来たってこと?」


「違う。400年前に人族によって呼び出されて契約に縛られて戦わされたのだ」


「はぁ? いやいやいや、人族の聖典では冥府から来た魔王によって世界の半分を侵略されたって」


「そうか、そのように記されているのか? だが、その魔王とは冥府とこの世を繋ぐ魔法陣を生み出した人族の魔法使いだ」


「えっ?」


 俺が驚くと、悪魔は「よく考えてみろ」と笑う。


「冥府の門は我らでは開けぬぞ」


 悪魔がそう言って足元を見るので、俺もその魔法陣を見る。


「確かにね。悪魔たちが自力で冥府から侵攻できるなら400年も待たずにまた来るか?」


「そうだ」


「それで、ゴブリンの王が裏切って魔王を殺して、それで冥府の門が閉じたことで、ゴブリンたちを残してみんな冥界に戻されたって感じなの?」


 俺が聞くと、悪魔は「さよう」とうなずく。


「でもさ、それって、そのゴブリンに感謝しないといけないんじゃないの? 悪魔たちはみんな契約の呪縛から解き放たれたんでしょ?」


「違う。魔王に従いこの世界を手に入れた暁には世界の半分を我らにくれると魔王は約束していたのだ」


「おいおい、今度は竜族倒しちゃうよクエスト1かよ」


「うん? なんだ、それは?」


 悪魔が首をかしげるので、俺は「あのさ」と続ける。


「悪魔を冥界から呼び出して、その悪魔たちを契約で操って世界を手に入れようとするようなやつが、そんな約束守ると思ってんの?」


「なっ?!」


「だいたいさ、冥府の門を開くには多くの人族の生贄が必要なんだよ。世界の半分を手に入れたとして、仲間を全てこの世に呼ぶなんて無理じゃん」


「なにが言いたい?」


「世界の半分を手に入れたら、家族や仲間を呼びたくなるんじゃないの?」


 悪魔が「グッ」とへんな声をだすので、俺は「まったく」と笑う。


「それにあんたたちはほとんど働いてないでしょ?」


「なぜそう思う?」


「門番ってさ、オーガやゴブリンたちを呼び出すための魔法陣を守るように契約を結ばされているんじゃない? そして、オーガやゴブリンたちが侵攻して、その度に魔王がその地に冥府の門を開いていく。そんな感じで世界の半分はアンデッドにされたってのが真実なんじゃないの?」


 俺が聞くと「クククッ」と悪魔は笑った。


「あぁ、その通りだ」


「だって、あんたたちの恨みは自分の神に裏切られて無の神と一緒に冥府に落とされたことだもんね?」


「なっ、なんのことだ?」


 あからさまにキョドッた悪魔がそう言うので「それで、隠しているつもりなの?」と聞く。


「だってあんたは火の悪魔でしょ?」


 俺がそう言うと、悪魔は目をカッと開いた。


「元々火の加護を持った天使だったんだよね? きっと火の神の指示で無の神を拘束して、そのまま一緒に落とされたんじゃないの?」


 俺が聞くと、悪魔は「フフフッ」と笑う。


「その通りだ」


「復讐したいならさ、空で勝手にやってよ。俺たちには関係ないんだからさ」


「そうは行かぬのだ」


「まぁ、そうだろうね」


 俺は首肯すると立ち上がった。


「どうした? まだ話は終わっておらんぞ」


「悪いんだけど、話はここまでだよ。これ以上時間を稼がれるわけにはいかないんだ」


「ほぉ、気がついたのか?」


「うん、自分のまぬけさにね」


「なるほどな。確かにお前はあの方が言うようにゴブリンにしておくのはもったいないな」


 悪魔がそう言って今度は地面に置いてあった三叉の槍を拾いながら立ち上がるので、俺は「そう?」と首をかしげながらシミターを抜いた。


「だっていろいろヒントくれたじゃん」


「例えば?」


「門番が契約で魔法陣に縛られていることかな?」


「フッフッフッ、では時間稼ぎもこれまでだな」


 俺は「そうだね」と首肯しながら駆け出した。


 悪魔がすぐにボッと炎をまとう。そして、俺のほうに手を突き出すと火球を打ち出した。


 ボワッと熱気が来るので、俺はそれをシミターで斬る。


「無駄だよ。わかっているでしょ?」


 火球の影から突き出された三叉の槍を避けてバックステップしながらそう言うと、悪魔は「なんと」と笑う。


 火球を斬ったシミターはその火を吸い取って黒い火をまとい、俺がシミターをブンと振るうと黒い火が伸びて悪魔に襲いかかる。


「お主もわかっているのだろ? 無駄だ」


 悪魔がそれを避けずに右手でその火を吸収する。しかし、悪魔は「なっ」と声をもらして、飛び退いた。


 その右手が黒い火にまとわりつかれて燃えている。


「なぜだ、我には火の魔法は通じないはずだ」


 そこにタマの『ファイヤーボール』が連弾となって顔に直撃したが、悪魔は気にもしないで受け止めて首をかしげた。


「やはり火の魔法は我には通じんよな」


「うん」


「では、この火はなんだ?」


 自らの右手にまとわりつく黒い火を見つめて、もう1段階ボワッと燃え上がった悪魔が再び俺に対して大きな火球を飛ばしてきたので、俺は再びそれをシミターで斬る。そして、さらに前に出た。


 ブォン!


 俺のシミターを避けて、俺に向かって槍を振るおうとした悪魔の手にタマの『ファイヤーボール』が着弾する。


 ザッシュ!

 

 そのタイミングで俺が身をひるがえしながらさらに振るったシミターが悪魔の胸を浅く斬ると、悪魔は少し顔をしかめて後ろに飛びながら退いて、再び火球をいくつも飛ばしてきた。


「だから、無駄だって」


 俺がそれらを斬りながら笑うと、悪魔が「舐めるなよ」と両手を上げて特大の火球を作った。


「これならどうだ?」


 悪魔はそう笑ったあとで「なっ」と声をもらす。雷をまとった土の棘が、地面からいくつも伸びて悪魔を背後から貫いていた。


「なっ、なんだ、と」


「いつから2人だと思ってたの?」


「なっ?」


 そう言った悪魔が背後を見て、ジローが「フガフガ」と鼻を鳴らすと、悪魔は「どこにいたのだ?」と聞く。


「待ってた」


「ジローは結界に入ってすぐに屈んで、戦闘が始まるのをずっと待ってたんだよ」


「それで、始まると同時に背後に回ったのか?」


「そう」


「さっきの火球の連弾は目眩しか?」


 そう言いながら悪魔がタマを見たので、タマがうなずくと悪魔は「クソ」と声をもらした。


「正面から正々堂々などと言ったのも、そのためか?」


「まあね。だいたい、あんたのほうが格上なんだからさ、俺たちが馬鹿みたいに正面からやり合うわけないでしょ?」


「そうだな」


 悔しそうに悪魔がそう言ったのを聞きながら、俺は水平にシミターを振るった。

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