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悪魔①

 その日、俺たちははじめてその森に入った。葉の少ない木々の隙間から日の光りはたくさん差し込んで、明るい中を進む。


「あのさ、リッチー、いくらなんでもこれはひどくない?」


「この先に冥府の門があって毎日あの量のアンデッドが通るんだから、それは仕方ないだろ?」


「わかるけどさ」


 アンデッドたちがギシギシとぶつかり合いながら進んだのだろう、周りの木はみんな傷ついて、岩も削られて、足下の草むららしき物も無残な形で踏み潰されていた。


「冬の森なのはわかるけど、さすがにこれはないよ」


「あぁ、このまま放っておいたら森ではなくなるだろうな」


 リッチーがそう言ったので、俺は首をかしげた。


「そういえばさ、悪魔って火の悪魔なんだよね?」


「あぁ、そうだ」


「なんで森が燃えてないの?」


 俺が聞くと、リッチーは「なに言ってんだ?」と笑う。


「そんなもの、俺が封じ込めているからに決まっているだろ?」


「「えっ?」」


 俺たちが驚くと、リッチーは「なぜ驚く」とさらに笑う。


「もしかして、そのためにリッチーはここにとどまっていたの?」


「あぁ、そうだ」


 リッチーはそう言って「思ったより早く倒せる者が来たけどな」とカタカタ笑った。


 おいおい、マジかよ。勇者パーティのメンバーは自己犠牲の精神がやばすぎるだろ?


「倒せるかな?」


「『倒せるかな?』じゃない、倒せ。そのために俺もステフもお前たちを鍛えたんだからな」


「うん」


「だいたい中級悪魔を倒せないようではお前の持つゴブリン王のシミターが泣くぞ」


 また出たゴブリン王?!


「ねぇ、そのゴブリン王ってそんなに強かったの?」


「あぁ、魔王を退けたと言われているからな。考えられないほどに強かったのだろうな」


 リッチーがそう言うので、俺は「そうだろうね」とうなずく。


「ゴブリンなのに魔王を退けるとか意味わかんないもんね」


「他人事みたいに言うな、お前もステフのお供になるならそのぐらい強くなってもらわないと困る」


「いやいや、それはさすがに無理でしょ?」


 俺が言うと、リッチーは「なに言ってんだ」と笑った。


「だけどまぁ、お前に魔王の相手は無理だろうからな、せめて魔王の周りにいるやつらをおさえておけるぐらいには強くなれ! いいな?」


「ステフが魔王を倒すまで周りの雑魚をおさえておけばいいんだね」


「そうだ」


「わかった。まぁ、それぐらいならがんばるよ」


 俺がうなずくと、リッチーは「そうだ、がんばれ」とカタカタ笑う。


 森の奥に大きなクレーターのような窪地があって、その真ん中に黒くて大きな半球体が鎮座していた。


 いやいや、なにコレ?


「もしかして、これがリッチーの魔法?」


「あぁ、闇の結界魔法だ」


 おいおい、マジかよ。なんなん? この大きさ。


「この中に火の中級悪魔がいる」


 リッチーはそこまで言って、ポリポリと頬をかいた。


「一度入ったら悪魔を倒すまで出せないぞ。わかっているな?」


「うん」


 俺が素直に首肯すると、リッチーは「本当にわかっているのか?」と首をかしげた。


「わかってるよ」


「今ならまだ引き返せるぞ」


「うん?」


「頼んでおいてこんなことを言うのはおかしいかもしれないが、お前たちがわざわざ危ない橋を渡る必要はないんだ」


 リッチーはそう言う。


「どうしたの? 急に」


「あぁ、これは俺の不始末だからな。お前たちに尻拭いさせるのは」


「今さらなに言ってんの? それにさ、俺たちはこの森に王命で来ているんだし、鍛えてくれたリッチーに感謝してるぐらいだよ」


「俺は……」


「あのさ、もういいって、リッチーは俺たちが悪魔を倒して解放された後のことでも考えてなよ。どうせやることないんでしょ? だったらさ、ステフのお供にでもなったら? お供は3人までって決まりもないんでしょ?」


「そっ、そうだな。お前たちと旅するのも楽しそうだ」


「うん、たぶん楽しいと思うよ。いっぱいカタカタ笑えるから、きっと」


 俺が言うと、リッチーはカタカタと笑う。


「そのためには3人とも無事に戻ってこい。いいな?」


 俺が「うん」とうなずくと、タマとジローも「はいっす」「フガフガ」とうなずく。


「ポチ」


「なに?」


「お前に会えてよかったよ」


「はぁ? いやいやいや、スケルトンにいきなりそんなことを言われても気持ち悪いから」


「おいおい、そんな言いかたはないだろ?」


 肩を落としたふりをしたリッチーがまたカタカタと笑うので、俺も「それは仕方ないよ」と笑う。


「本当に私は行かなくていいの?」


「いいよ、ステフは相性が悪いみたいだし、俺たちの力試しにもなるからね」


「そう」


「心配しなくて大丈夫だって」


「うん」


 うなずいたステフとリッチーに見送られて、俺たちは黒い半球体へと脚を踏み入れた。


 中は焼け野原で、ちょうど真ん中に胡座をかいた悪魔がいた。黒い肌の体はヒョロヒョロと細く。頭部は山羊で、鳥のような足、コウモリみたいな羽に、蛇のような尻尾も生えている。


 なにそのザ・悪魔って見た目は?


「待っていたぞ、よくきたな」


「いやいや、待たなくていいし、なんでボス感だしてんの?」


「いや、それは……」


「こんな焼け野原に閉じ込められといて雰囲気だしてもカッコつかないよ」


「うっ、うるさい!」


 叫んで頭をポリポリとかいた悪魔は、俺をしっかり見てカッと目を見開いて、ギザギザの歯を見せながらうれしそうに笑った。


「面白いゴブリンと聞いていたが、きさまだったのか? ミノムゲタス」


 そう言った悪魔が首をかしげる。


「裏切り者のくせに、まだその焦熱のシミターを使っているのか?」


「うん?」


「なんだ?」


「なんか誤解しているみたいだけど、俺はポチだよ」


「ポチ?」


「うん、しかもまだBランクのルペルペタスだよ」


 俺がそう言うと、悪魔は「クククッ」と笑う。


「ミノムゲタスはどうした?」


「えっと、このシミターの持ち主のこと?」


「あぁ、そうだ」


「たぶんもう死んでいるんじゃないの? 400年も前の話みたいだし」


 俺が答えると、悪魔は再び目を見開いた。

 

「400年? あの日から400年も経ったのか?」


「うん、そうみたいだけど?」


 すると悪魔はギュッと眉間にシワを寄せた。


「許さぬ、許さぬぞ! 人族も、きさまたち裏切り者のゴブリンも皆殺しだ。我が炎で燃やし尽くしてくれよう」


 悪魔が立ち上がりながらボワっと火をまとって、両腕を広げると、火柱が高々と上がって半球体の闇を焦がす。


「ファーファファ」


 悪魔が高笑いを始めたので、俺はタマを見た。


「もう始めちゃってもいいのかな?」


「どうっすかね?」


「一応ね、ラノベとか漫画ではこういう時はとりあえず話を聞くって決まりにはなっているみたいなんだけど」


「そうなんすか? じゃあ、聞いてあげたほうがいいんじゃないっすか?」


「そうだよね。でもさ、長そうじゃない?」


「そうっすね」


 俺たちがそんな風に話しながら見ていると「へっ?」と声をもらして高笑いをやめた悪魔が俺たちを見て「ふっ、ふざけるなよ」と言う。


「いやいや、ちゃんと聞いているよ。許さないんだよね?」


「きっ、きさまぁぁぁぁぁぁ!」


 悪魔が渾身の力で叫ぶので、俺は耳を塞ぐ。


「わかったって、だから叫ばないでよ」


「わかるものか! 我らの恨みがきさまなんぞにわかってたまるか!」


「うん?! なに?!」


 俺がそう叫びながら首をかしげると、悪魔はさらにでかい声で「わかるものか!」と言う。


「うん、確かにわかんないよ! わかんないけど、こういうときはわかるって言ってあげるのが優しさじゃん!」


「グッ、そんな優しさなどいるものか!」


 悪魔がもっと叫ぶと、タマが俺の足をバシッと叩く。


「なに?!」


「耳塞ぎながら叫び合うのやめて!」


「うん?」


 俺と悪魔が耳から手を離すと、タマが「2人して馬鹿じゃないの?」と聞いてくる。


「うん、なんかごめん」


 俺がタマに頭を下げると、悪魔もタマに「すまん」と頭を下げた。


「それで? 恨みってのはなに?」


「うん? 本当に知らぬのか?」


「えっと、知らないよ。400年も前になにがあったのか? なんて」


 俺がそう言うと悪魔は「そうか」と顔をしかめた。

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