ステフとリッチー
ステフと友達になったあとでリッチーがいる森にいつも通りに狩りに来たのだが……。
なんなん? ソレ?
ついてきたステフが風をまとって地面スレスレを両手を広げながら飛ぶような勢いで「キィーン」と走っていくと、Dランクのアイアンスケルトンとグールはもちろんのこと、Cランクのシルバースケルトンとカダベルも風に巻き上げられながら空高く打ち上げられる。
おいおい「キィーン」って、お前はア◯レちゃんか? んちゃか?
俺が首を少しかしげながら、盛大に打ち上げられたアンデッドたちを見上げていたら、隣に並んで見ていたタマが「桁が違いすぎる」と呟いた。
「いやいや、タマとジローも充分チートだから安心していいよ」
「でも、アニキ、アレは?」
「うん、仕方ないよ。ステフはSランクなんだし」
「でも、ステフ様の近くだけでなく、かなりの範囲でアンデッドたちが巻き上げられているっすよ。どうなっているんすか?」
「うーん」
だよね? やっぱり俺の目の錯覚じゃないよね?
「あの範囲まで風をまとっているってことだろうね」
「シルバースケルトンやカダベルまでも巻き上げるほどの威力の風をあの範囲でまとっているってことですか?」
「うん、たぶん」
「いやいやいや、意味わかんないっすよ。あんなの勝てるわけない」
タマが目を見開くので、俺は「でも」と続けた。
「タマは属性の相性がいいはずだよ」
「属性っすか?」
「うん、どうやらステフは風の加護持ちみたいだからね。タマは火だから相性がいいんだ。火は風に強く、風は土に、土は水に、そして、水は火に強い」
タマが「そうなんすね」とうなずくと、ジローが「フガフガ」と鼻を鳴らす。
「負けられない」
「そうっすね」
タマとジローがステフが撃ち漏らしたアンデッドたちを倒しに行ったので、俺はオーティス商会のみんなに混じって端の方から解体を始めることにした。
やっぱりなんか、俺だけサボっているみたいで申し訳ない気もするが適材適所だね。
さっそく『解体しようかなぁ』と思ったら目の色を変えたオーティス商会の従業員に後ろから羽交締めにされた。
「なに?」
「何度も言ってますよね? 解体は私たちに任せてポチ様は休んでいてください」
「嫌だ」
「なんでですか?」
「今ですら後ろめたいのに、俺だけサボってるなんて無理!」
俺がそう答えると、オーティス商会の従業員は「はぁ」とため息を吐く。
「大将は、後ろでドカンとしていればいいんですよ」
「なに言ってんの? 俺は大将じゃないだろ?」
「「はぁ?」」
「えっ?」
なぜか知らないが、ものすごい勢いで集まってきた従業員たちに囲まれた。
なにコレ? 怖いよ。
「あなたが大将じゃないなら誰が大将なんですか?」
「そりゃあ、勇者だからここはステフだろ?」
「ポチ様は、あんな小さくてかわいい子に責任を押し付けるつもりですか?」
「いやぁ、そんなつもりはないけど」
「じゃあ、どんなつもりですか?」
従業員たちがギュッと一歩近づくので、圧がすごい。
「わかった、わかったって。じゃあ、大将はタマで!」
「「えっ?!」」
「だって、タマの方が俺よりしっかりしているし」
「そっ、そうですね」
「最近は俺を怒るときとか迫力あるし」
「確かに……」
「まあ、大将っていうよりボスっぽいけどね。九尾の狐だし」
「九尾の狐? なんですか、それは?」
オーティス商会の従業員たちが首をかしげると、俺の背後から「ア〜ニ〜キ〜!」と声が聞こえて、バシッと叩かれた。
「タマ?」
「誰がボスなんっすか?」
「えっと」
「大将は一家の大黒柱がやるに決まっているっすよね?」
そう言ったタマが俺の顔を覗き込むので、俺は「うん」とうなずく。
「だから、タマかなぁ? って」
「なに言ってんの? 怒るよ」
「いやいや、もう怒ってるよね?」
「いいからちゃんとして欲しいっす」
俺の足を前足で軽くバシッと叩いたタマが狩りに戻っていくのを見ながら、俺はオーティス商会の従業員たちに「とりあえず表向きは俺が大将で」と言う。
「そうですね」
うん、俺がバラ◯スで、ポチがゾー◯で。
「それにしても、ポチ様はすっかりタマさんの尻に敷かれていますね」
「なんか変わったよな、タマさん」
「そうだよな、このところ益々しっかりしてきたよな」
従業員たちがタマの後ろ姿を見ながらそんなことを言ってうなずき合うと、1人の従業員が「いやいや」と笑う。
「お前たちなに言ってんだ? 結婚したらどこだってあんなものだろ? ポチ様はつがい宣言したんだし、タマさんが変わるのなんて当たり前だろうが」
「「えっ?」」
俺を含めたみんながその従業員を見ると、従業員はポリポリと頭をかいた。
「変わらないほうがおかしいって」
「「そうなのかぁ」」
大きくうなずいた従業員たちが、みんな憐れむような目で俺とその従業員を見る。
いやいや、みんな、わかってないね。旦那様曰く、アレもタマの優しさだから。俺を思いやっての行動だから『愛だろ、愛』的なやつだから、きっと。
俺がそう思っていると、振り返ったタマが「遊んでいると日が暮れるっすよ」と言うので、俺たちはみんな揃って「はい」と返事して、それぞれの場所に散っていった。
わかりやしたぜ、おやびん。
そんな感じで狩りと解体があっさりと終わり、4人でバリバリと魔石を食べていたら、いつも通りリッチーが来たけど、もちろんステフを見て固まった。
「ステフ? ステフなのか?」
「うん、リッチーおじさん、ひさしぶり」
「ずっ、ずいぶんと大きくなったな」
「うん、おじさんもずいぶんとスリムになったね」
ステフがそう言うので、思わず魔石を吹き出しそうになった。
「おい、ステフ? そのスリムって表現はありなのか?」
「えっ?」
「骨だよ、リッチーは骨になったんだよ」
「うん」
「いやいやいや『うん』じゃないだろ?」
俺は呆れ顔になってからリッチーを見たが、リッチーは頭蓋骨をポリポリとかいた。
「どうかしたの? リッチー」
「あぁ、ステフが来てくれたのはいいのだが、ステフはちょっと門番と相性が悪いからな」
「えっ?! だけど、ステフはSランクだよ」
俺が聞くと、リッチーは「そうか、となるとランク的にはステフの方が上だからな、倒せなくはないだろうが」と言った。
「だけどさ、リッチーが使っていた魔法は闇だったよね? リッチーって火の加護持ちだったの?」
「うん? あぁ、俺は闇の神様の加護持ちだぞ、だけどな、門番は火の中級悪魔だからな」
「「あれ?」」
俺とタマが首をかしげると、リッチーが「なんだ?」と言う。
「あのさ、リッチーが門番なんじゃないの?」
「あのな、俺が門番だったらとっくにお前たちに倒されてやっているって、そんなことはちょっと考えればわかるだろ? まったく」
「嘘!?」
「嘘じゃねぇ!」
リッチーがそうツッコミを入れるので、俺は「マジかよ」と言いながら「ホッ」と息を吐く。
「なんだよ、それならそうと早く言ってよ。すっかりリッチーを倒さなきゃいけないんだと思って、悩んでいたんだからね」
「アホなのか? 聞かれてもいないものを答えようがないだろ?」
「まぁ、そうか」
俺がうなずくと、リッチーが「はぁ」と息を吐く。
「まあ、せっかくステフが来てくれたんだから、お前はステフに鍛えてもらえ」
「えっ?」
「次期勇者に鍛えてもらえるなんて、こんな機会なかなかないだろ?」
「いやいやいや、そんな機会いらないし。それに、ステフは次期勇者じゃなくて、現勇者らしいよ」
「はぁ? ジーンはどうしたんだ?」
リッチーがそう言いながらステフを見ると、ステフは少しうつむいて「Sランクの魔物を倒しに行ったきり帰ってこない」と答えた。
「嘘だろ? ってか、ベッカは教会の仕事があるし、俺はこんなザマだからな、もしかしてあいつ、ひとりで行ったのか?」
「うん」
ステフがうなずくと、リッチーは「馬鹿やろうが」と吐き捨てた。そして、俺を見る。
「それで? ステフはポチたちを選んだのか?」
「うん」
「そうか、確かにこいつはなかなかだよ」
「いやいやいや『なかなか』じゃないでしょ? 考え直すようにリッチーからも言ってよ」
「いや、お前たちを見て俺は考えを改めた。ずっと謎だったのだが、ピーチ様がなぜ人族ではなくウルフとゴブリンとバードをご自分の仲間に選ばれたのか? わかったよ」
「ピーチ様?」
「あぁ、知っているだろ? お婆様が作られたクッキーをあげることでウルフとゴブリンとバードを手懐けて、この世界ではじめてテイマーとなった姫様だ」
おいおい、いろいろツッコミどころが満載だな。大丈夫なのか? 配管工の髭の兄弟が亀の甲羅投げてきたりしない? 嫌だよ、Sランクの魔物がミノタウロスから大きなワニガメみたいなのに変わってたら。
「よし、ポチはステフに鍛えてもらえ、俺がタマとジローを鍛えてやろう」
「うん?」
俺はそう言って振り返ったが、誰もいないのでもう一度リッチーを見た。
「ポチって誰?」
「お前しかいないだろ?」
「マジか?」
「あぁ、マジだ」
「いやいやいや、無理だって」
俺がステフを見ると、ステフは満面の笑みで「任せて」と言う。
やめてくれる。ステフが物凄く楽しそうだから、なんか余計に不安なんだけど?




