ステフ①
朝の騒ぎの後で、とりあえず今日もアンデッド狩りに行こうと割り当てられた部屋で準備をしていたらアルとステフが来た。
「うん? 2人でどうしたの?」
俺はそう聞いたがもちろんアルの後ろにはランスがいるし、ほかの騎士たちもゾロゾロと部屋に入ってくる。
殿下となれば、いつでもどこでも護衛がついてくる。それは友達のところに遊びに来るときだって変わらないから『空き地で野球やろうぜ』って日曜夜のご長寿アニメの眼鏡くんのノリでは来れないのだ。
俺もこの状況にはだいぶ慣れたけど、アルは大変だね。
俺がそう思ってアルを見ていたらアルが神妙な顔で「あのさ」と言う。
「ステフが勇者やめるって」
「いやいや、なにその『ステフ部活やめるってよ』的なノリは? 勇者ってさ、そんな簡単にやめれるの?」
「もちろん簡単じゃないよ」
「そうなんだ、それで?」
「うん、このままステフが勇者をやめると、ポチとブラックドッグ家がまずい立場になるからさ」
「えっ! なんで?」
「だって、ポチがそそのかしたからステフが勇者をやめるって話になっているんだよ。このままだと王宮のポチに対する認識は勇者をやめるように勇者をそそのかしたゴブリンってことになるよ」
アルがそう言うので、俺が「ゲェ」と言ってからランスを見るとランスはゆっくりとうなずく。
なにそのあたりまえだ的なうなずきは?
「いやいやいや、違うよ。俺は『こんな小さいのに勇者なんて宿命を無理やり背負わされてステフがかわいそうだなぁ』と思っただけで、別に勇者をやめるようにそそのかしたわけじゃないよ」
「あんな言いかたしてて、それは無理があるんじゃない?」
アルが楽しげに首をかしげた。
待て待て待て、笑い事じゃないよね? コレ?
「えっと、ステフ?」
俺がステフを見るとうつむいたステフが「私、勇者やめる」と言う。
あはは、なにソレ? ねぇ、それって「トウモコロシ」って言い間違えちゃうあの子みたいだよ。
いや、ほんわかしている場合じゃないだろ? 下手しなくても死ぬよ。だって、仮に国王が許しても、うちの奥様がこんな状況を許さないからね。
だいたい、あれほど『やらかすな、端の方で大人しくしてろ』って言われてきたのにいろいろやらかし過ぎた。
やばいよ、やばいよ。
よし、まずはステフに思いとどまってもらおう。要は部活をやめると言い出した友達を止める感じだろ? もちろん俺はやったことないけど、まぁ、なんとなくわかるよ。
最後にステフが『勇者がしたいです』って泣けばいいんだろ? 本当は勇者やりたいくせにスッチーも素直じゃないんだよ。まったく。
まぁ、この程度は余裕、意味分かんないけど余裕だよ。きっと。
「ステフは今までがんばってきたんだから、ここでやめちゃうのはもったいないんじゃない? ゴブリンの戯言なんかに左右されないほうがいいと思うよ」
俺がそう言うとステフは「嫌」と言って、タマが「アニキ、それはないっす」と呆れる。
「ない?」
「ないっす」
「そう、じゃあ」
俺はタマにうなずくと再びステフを見た。
「ステフが大変なのはわかるから俺もこんなことは言いたくないんだけど、ステフが勇者をやめると困る人たちがいっぱいいると思うよ」
「例えば誰?」
「えっと、例えば、俺とか、それから俺とか、そんでもって俺とか?」
「全部ポチじゃん」
「うん、だって今ステフに辞められると俺がすごい困るんだよ。だからさ、とりあえず続けてくれない? 熱りが冷めたらやめてもいいからさ」
俺がそう言うと、ステフは『えっ?』って顔して、アルが「おいおい」と苦笑いを浮かべる。
「それはダメでしょ? ポチ」
「えっ? ダメ?」
「いやいや、驚くのはこっちだから、どうしてポチはそれで大丈夫だと思えるの?」
「だって、よく時間が解決してくれるって言うじゃん。時間をおけばステフも気が変わるかもしれないし、変わらなくてもとりあえず俺のせいではなくなるかなぁ? なんて」
俺が「テヘッ」と笑うと、アルは「『テヘッ』じゃないよ」と頭を抱えた。
「だいたい、この場合は時間ではどうにもならないと思うけど?」
「そう?」
「そう!」
アルがそう言うので、俺は「仕方ないなぁ」と言って頭をかいた。
「それで? どうしたらステフは勇者を続けてくれるの?」
「ポチが私の友達になって」
「いやいや、それとこれとは話が別だろ?」
「別じゃない」
「いや、別だよな? どう考えても」
「別じゃないもん!」
ステフがまた涙を溜めて上目遣いで俺を見るので、俺は「あのな」と言う。
「俺は無理だけど、本当に友達が欲しいならあのいきなりの手合わせとかやめたほうがいいよ。あんなので分かり合えるのは『魁』の人たちとか『押忍』の人たちとか、そういう『男』を『漢』っと書く戦闘民族たちの話だから。まずは話をしながら距離を詰めたほうがいいと思う」
「だって、その子の強さがわからないと困るんだもん」
「はぁ?」
俺が首をかしげると、ステフは「ポチたちはそのうちに私とSランクの魔物を倒しに行くの」と言った。
「おい! なに言ってんだ」
「大陸の西で暴れているSランクを倒しに行くんだよ」
「西?」
「うん」
「ポチたちってのは、俺とタマとジローか?」
「うん」
おいおい、ステフも入れて4人で西を目指すとか、経典をもらいに行く例のやつかよ。いやいや、その孫さんも俺には無理だって、シミターは伸びたりしないし、毛で分身体を生み出したりもできない、もちろん俺は雲も呼べないからね。
いやいや、ちょっと待てよ。よく考えたらこの場合、俺は孫さんじゃないな。どちらかと言えばタマが坊さんで、ジローが猪さんで、ステフが孫さんだな。つまり俺は、インテリ眼鏡枠じゃないか?!
ふむふむ、神とやらもようやくわかったようだな。
そうだよ、俺はそっち! 適当にわちゃわちゃやって騒ぎを起こしてタマに怒られたり、強敵が出てきたらいい感じにやられてステフのお膳立て!
フッフッフッ、それで勇者パーティとしてチヤホヤされるなら悪くないのか? いや、それも悪くないだろう。
「それで? そのうちってのはいつごろだ?」
「わかんない」
「わっ、わかんない?」
「わかんない」
「それはすぐってこともありえるのか?」
「うん」
「おい! ふざけんなよ」
「だって……」
「『だって』じゃねぇだろ!?」
おいおい、相手はSランクなんだろ? そんなのを相手にするのは無理、絶対に無理。だって、俺たちはまだBランクだよ。
「まずは強い友達を3人見つけないと旅立てないんだよ」
「はぁ?」
「だから強い友達を」
「いやいや、聞こえてたよ。そうじゃなくて、仲間を3人見つけて旅立つとか竜族倒しちゃうよクエスト3かよ」
「竜族じゃないよ、Sランクはミノタウロスだよ」
「まさかの牛魔王!?」
「牛魔王?」
「いや、そこはツッコミを入れないで、デリケートだから」
俺がそう言うとステフは「うん?」と首をかしげる。
「それにしても幼女が勇者で自力で仲間を見つけて旅立つとか無茶苦茶だな、この国は。ほかにいないのか? 大人の勇者は?」
「いたよ」
「いたって、なんで過去形?」
「お父さんが勇者なの」
「えっ? もしかして、父さんは帰って来ないのか?」
「うん、お父さんがSランクを倒しに行ったまま帰って来ないから私が行くんだよ」
「王様が代わりにステフに行けって言ったのか?」
「うん」
「いやいや、マジか?」
どこまで竜族倒しちゃうよクエスト3なんだよ。だいたい王様は鬼か? 勇者が帰って来ないから娘に行けとかないだろ? ステフの母親の気持ち考えたことあるんか?
「それで、ステフは断れないのか?」
「えっ?」
「『えっ?』じゃねぇだろ? 王命だから断れないのか?」
「うん」
「マジかよ、ステフ。詰んでるな、ソレ?」
「詰んでる?」
「詰んでるだろ? だって『Sランク倒しに行くから私と一緒に来て』って言って誰がついてきてくれるんだよ」
俺がそう言うと、ステフは「うん?」と首をかしげた。
「いるよ、お婆ちゃんが焼いてくれたクッキーをあげると、ウルフと、ゴブリンと、バードがついて来てくれるんだよ」
「なんだよ、ソレ? お前なぁ、クッキーをもらったぐらいで命かけるやつがどこの世界にいるんだよ! いや……」
いたな! もらった団子1つの恩義で命をかけて鬼と戦うやつらが……でもさ、あいつら本気かよ。もうこの際だから親分の旗印は『日本一』じゃなくて『義』とかにしたらいいんじゃないか?
もしくは『魏』かな? そっちの方が強そうだし、この際だからそれをかかげて三国を無双しちゃいなよ。ユーたちやっちゃい……いやいや、落ち着け、俺。
そこはいじったらダメだろ?
リッチーじゃなくて、タッ◯ーが激おこプンプン丸になったらどうする? あそこはファンがマジだから黙ってないよ。ネットとかでポコポコにされる未来しかみえん。
「えっと……」
俺が内心で冷や汗を流すと、ステフが「ポチ?」と聞いてきた。
「そんなものはどうせ物語の中での話だろ?」
俺が聞いてステフがいい笑顔で「うん」とうなずくと、ランスが「子供向けの物語だが、史実に基づいている」と言った。
「マジか?」
「マジだ」
「どうなってんだ? どいつもこいつも義に厚すぎる」
俺が頭を抱えると、アルが「もう諦めなよ」と笑い、ステフが「諦めなよ」と言いながらケラケラと続く。
「うん? おい、もしかしてこれはアルの入れ知恵か?」
「「えっ?」」
「『えっ?』じゃねぇだろ? お前ら!」
俺がそうツッコミを入れると、アルは「なんの話?」と言いながら顔をそらして口をつぼめた。どうやら音が出ていないが口笛のつもりらしい。
「おい、ステフがそんな簡単に勇者をやめるとか言い出すわけないよな? 2人して俺を脅してステフの友達にしようと言う話か?」
「「違うよ」」
「どう違うんだ?」
「だって……」
「『だって』なんだ?」
「ポチが悪いんだよ。素直に私と友達にならないから」
「あのな、何度も言ったよな? 普通のゴブリンに『勇者の友達』という肩書きは荷が勝ちすぎるって」
「でも、アルの友達なんでしょ? 殿下の友達はいいの?」
「いや、それも本当はダメなんだろうけど俺とアルは友達だからな『荷が勝ちすぎるからやっぱり友達をやめる』なんてふざけたことができるわけないだろ?」
俺が聞き返すと、ステフは「そうだね」と嬉しそうな顔をしたあとでランスを見た。
うん?
「ポチ、言いたくはないのだが、お前に残された道はステファニー様の友達となって西に向かうか? 王命で勇者の従者として向かうか? 2つに1つだぞ」
「はぁ? なにその2択。2択の意味ないじゃん」
俺が言うと、ランスが「それは、その」とアルを見るので、アルが「ステフがポチたちを勇者の仲間に選んだんだから仕方ないよ」と言う。
あはは、マジかよ。ゴブリンが勇者の従者とか意味わからなくない?




