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勇者②

 ひんやりとした夜風がゆらゆらと揺れる松明を煽って、松明がバチッと怒る。闇に包まれた静かな中庭、見上げると気の早い星がキラキラと輝く。


「1番を取りたがる奴ってのは、どうしてあんなに自己主張が強いのかな」


「うん? なんのことだ?」


「いや、一番星って自己主張強すぎだと思わない?」


 俺が聞くとランスは「どこがだ?」と空を見上げた。


「あのほかの人たちに足並み合わせるつもりがないところがだよ」


 俺がそう言ってランスを見ると、ランスは「お前と一緒じゃないか」と笑う。


「そう?」


「あぁ、ゴブリンで1番になるつもりなんだろ?」


「うーん、そんなつもりはないけど、きっとならないとなにも守れやしないだろうね」


「そうなんだろうな」


 ランスが構えて俺も構えると、アルは黙っていたけど、ギルが「本当にやるのか?」と聞いてきた。でも、俺もランスも答えなかった。


 見にきたタマとジローも大人しく座って真っ直ぐに俺を見ていた。


 松明がバチッと爆ぜた瞬間にランスと俺は飛び出した。


 ブォン! ブォン!


 ランスのロングソードが空を斬る。俺はそれを避けた。


 見えている、このまえ軌道も見たからランスの太刀筋もわかっている。だから魔力を使わなくてもギリギリ避けられなくはない。だけど。


 ブン、ブン、ブォン!


 さらに繰り出されるロングソードを避けた。


 違うな。これじゃない。


 ブン! ブン! パシュ!


 浅く斬られたが、さっきよりいい。


 だけど、まだなにかが違う。


「ゴブリンにこうも簡単に避けられると、ポチはほかのゴブリンとは違うとわかっていても悔しいな」


 ランスかそう言って笑うので、俺は「それだ!」と叫ぶ。


「なっ? どうした?」


「いや、ありがとう、ランス。俺の中にある違和感の正体がわかったよ」


「違和感?」


「うん」


 うなずいた俺は足を大きく開いて前傾姿勢になった。


「なんの真似だ?」


「俺がゴブリンだってことを忘れていたよ」


 そうだよね。俺は人族じゃないんだから、ジェムの、人族の動きを真似てもダメだったんだ。


 ゴブリンはゴブリンらしく。


 背が低い奴は低い奴なりの、力がない奴はない奴なりの、戦いかたってのがあるんだよ。


 俺はどう背伸びしたって、ゴブリンなんだからね。


「行くぞ!」


「うん」


 ブォン! ブォン! ブォン!


 俺は飛んだり、屈んだりしながら、ランスのロングソードを避けた。


 カッ、カッ、キィィィィィィ!


 シミターでランスのロングソードを受け止めて弾いた。体を低くして地面スレスレを獣のように駆け回り、飛び上がってロングソードを叩きつけられればシミターで受け止めて、飛ばされればクルクルと回って着地する。


「それが本当の戦いかたってことか?」


「どうだろうね、だけど、こっちのがなんとなくしっくりくるよ」


 俺がそう答えると、ランスは「フフッ」と笑った。


 そこからもランスの猛攻を避け続けた。ときどきかすり、そして、何度も受け止めて吹き飛ばされた。


 だけど、傷が増えるたびに俺は笑った。


 もっとだ。もっと、もっと。


 すると「そのゴブリンさんは面白いね」と小さな女の子が中庭に来た。


 うん?


「すっ「ステフ?!」」


 ギルとアルがハモって、アルが「ずいぶんと早かったね」と顔を引きつらせた。


「うん、急いで来たの、私が来たからもう大丈夫だよ。安心してね、アル」


 ニヤリと笑い神微乳の胸をそらしたステフが、俺を見た。


「ランス、それ貸して」


「ステファニー様?」


「私がそのゴブリンと少し遊ぶから」


「ですが、その、ポチはアル様のご友人なので」


 ランスがそう言うとステフは「なに?」と聞く。


「ですから、ポチはアル様の」


「聞こえたよ。だからなに?」


「いえ、失礼しました」


 ランスが頭を下げてロングソードを渡すと、ステフは何度か振って「楽しみ」とケラケラ笑う。


「ゴブリンさんの名前は?」


「ポチです」


「そう、ポチ。魔力も使って本気出さないと秒で死んじゃうかもよ」


 ステフが慣れた感じで、俺にロングソードを突きつけるので、俺は「はぁ」とため息をつく。


 考えたくなかったけど、この子が勇者なんだろうね。


「えっと、お断りします」


「はぁ?」


「いや、だからあなたと手合わせなんて、無理」


 俺がそう言うと、ステフは「なんで?」と小首をかしげた。


「『なんで?』って、勇者とゴブリンの手合わせとか意味わかんないでしょ?」


「そう?」


「うん」


 俺がうなずくと、ステフは「無理」とほほえむ。


「はぁ? いやいやいや」


「いやいやいや」


 ステフは俺の真似をしてケラケラケラと笑う。


「準備しないなら行くよぉ」


「まっ、待て待て待て」


「なんで?」


「『なんで?』じゃねぇだろ!」


 俺がそうツッコミを入れると、ステフはまたケラケラケラと笑う。


 この子にとっては遊びなんだろうけど、マジでいかないと本当に秒で殺されそうだ。俺は体に魔力を循環させた。


 ボワっと俺の体から湯気が立つと、ランスが「なんだよ、それ」と驚く。


「なにを驚いているの? ポチはまだ本気じゃないよ」


 ステフが「ねぇ?」と笑った瞬間だった。


 ガッ、キィィィィィィ!


 速っ。


 俺はそれを受け止めていなしたが、重い。吹っ飛ばされた俺はクルクルと回りながら着地した。


 見た目は幼女なのに、なんて斬撃を繰り出してきやがるんだよ。


 ギィィィィィィ!


 次の斬撃もかろうじていなしたが、金属が削れてランスのロングソードが悲鳴をあげた。


 カッ、カッ、ガァーッ!


 打ち合いで吹っ飛ばされて、さらにくる斬撃を避ける。常に『部分開放』して魔力で動きをサポートしているのに、まるで話にならないから避けるのも間に合わない。


 なんだよ、その速さは? そして、動きが変則すぎる。


 なんとかシミターでいなして避けていると、ステフがケラケラケラと笑い「楽しいね」と言う。


「馬鹿やろう! 楽しいわけあるか! こっちは必死だっての!」


「そうなの?」


 ステフはうなずくと「それだけの元気があるならもう少しギアを上げても大丈夫だね」と言った。


「ちょ、ちょっと待て、無理、無理、無理」


「ポチ、がんばって」


 ブォン! カッ、ドガッ!


「ふっ、ざけんな!」


「まだ元気だね」


 ドゴッ!


 俺が地面を跳ね飛びながら転がる。


 おいおい、チートが過ぎるだろうが、なんとか致命傷を避けるのがやっとだぞ。


 俺がすぐに跳び上がると、俺のいた場所の地面がザザッとえぐれた。


 振り上げられたロングソードでシミターを弾かれる。


 やばい、これは、やばい。


 ステフが振ったロングソードが俺の脇腹に食い込む瞬間に、俺はミスリルナイフでロングソードを受け止めた。


 ガギッ!


 受けきれずにそのままロングソードが俺の脇腹に食い込んで、吹っ飛ばされた。


「グフゥ」


 ドガン!


 俺が壁を少し削って地面に倒れると、大人しく我慢していたタマとジローが「アニキ!」と叫んで、ステフが2人を見た。


「そこにも面白そうなのが2匹いるね」


 ステフがニンマリと笑う。


「お前たちも遊びたいの?」


「やめろ」


「ポチ、なにか言った?」


「やめろって言ってんだ」


「そう、じゃあ。ポチがもう少しがんばって」


 俺が立ち上がると、タマが「もうやめて!」と叫ぶ。


 確かにあちこち痛いね。脇腹も胴当てが切れて血が出ているが、そんなことより肋が何本かいったと思う。気を張ってないと痛みで気絶しそうだ。


「じゃあ、代わりに遊んでくれる?」


「ふざけんなよ!」


「うん?」


 首をかしげたステフの顔を殴り飛ばした。


 俺は「ふぅ」と息を吐く。全身の血管が浮き出て血流が良くなったせいか? 俺の体が赤くなった。


 吹っ飛ばされたステフは「よっこらせ」と勢いをつけて飛び起きると、口元の血を拭って「やるね、ポチ」とケラケラ笑う。

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