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勇者①

 ギルに出迎えられたあと、俺はギルと一緒にアルのところに来た。


「ポチ、どうしたの?」


「ちょっと、ランスに相談があって」


「相談?」


「うん」


 俺がうなずくと、アルはランスを見る。壁に張り付いていたランスは「なんだ?」と俺を見た。


「あのさ、稽古つけてくれない?」


「なっ、稽古だと!?」


「うん、俺は弱いから強くして欲しいんだ」


 俺がそう言うと、ランスは「なにを言っている?」と苦笑いを浮かべた。


「お前はルペルペタスだぞ、弱いわけないだろ?」


「いや、弱いよ。リッチーにボコボコにされた」


「「はぁ?」」


 ランスだけでなく、アルとギルも驚いて俺を見るので、俺は「今日さ」と続ける。


「森に入れるか、リッチーが俺たちの腕前を試してくれたんだよ。だけど、3人とも簡単にやられてしまったんだ」


「嘘だろ?」


 ランスが目を見開いて、アルが「やっぱり呼んでよかったね」と頭をかいた。


「呼んだ?」


「うん、もしもポチたちの手に負えないとなったら騎士たちでは無理だからね。勇者を呼んだんだ」


「勇者?! マジか!」


 やっぱりいたんだね、勇者。


 俺が口をポカンと開いてアルを見ていたら、ギルが「アレを呼んだのか?」と言う。


「うん」


「まずいだろ? それは……」


 ギルが言い淀んで俺を見た。


「ポチ、あいつは本気でシャレにならないからな、殺されたくなかったら関わるな、いいな?」


「そんなにやばいの?」


「あぁ、ある意味でランスより融通が利かない」


「嘘でしょ? そんなのもはや人族じゃないじゃん」


「そうだ」


 おいおい、悪・即・斬じゃないよね? 牙突とか撃たれたらすぐに死ねる自信しかないよ。ねぇ?


「マジかよ……」


 俺が言い淀むと、壁際に控えているランスが「おい!」とツッコミを入れてきた。


「うん?」


「お前らは本人のまえでずいぶんと好き勝手言ってくれるな」


「「あっ」」


 俺とギルがシンクロしたあとで、俺が「そういえばいたんだね」と言うと、ランスは「殺す」と言って柄に手をかける。


「ほら、冗談がまるで通じないじゃん」


「なっ!?」


 ランスが怯むと、ギルが「まったくだ」とうなずくので、ランスが「グッ」と声をもらした。


「ランスはせっかくイケメンなんだし、もう少し余裕を持ったら? 人の悪ふざけを笑い飛ばせるぐらいの懐の広さがあれば、きっとモテるよ」


 俺がそう言うと、ギルが俺の肩を抱く。


「ポチ、泣くな。お前にはタマがいるだろ」


「あのさ、泣いてないけど?」


「えっ? マジか?」


「マジだよ、馬鹿にしてんの?」


 俺が聞くとギルが「まあな」と笑うので、俺も「ふざけんなよ」と笑う。


 俺とギルがケラケラと笑っていると、ランスは「はぁ」とため息を吐いた。


「それで、稽古って何がしたいんだ?」


「攻撃のバリエーションを増やしたいから剣を教えてよ」


「なるほどな、でもお前もある程度は使えるだろ?」


「うん、うちの小さな騎士に教わっているからね」


 俺がそう答えると、ランスが「小さな?」と言って、ギルが「ジェムのことだな」と笑う。


「ブラックドッグ家には子供従者がいるんだ」


「なかなかの腕だぞ」


 ギルがそう続くと、ランスが「うーむ」とアゴに手を当てた。


「教えると言ってもなぁ」


「手合わせしてくれればいいよ」


「それはこのまえみたいに、ということか?」


「いや、今度は魔力を使わない」 


 俺がそう言うと、ギルが「おい、本気かよ」と言った。


「うん、本気だよ」


「なんでそんな無謀なことをするんだ。死にたいのか?」


「違うよ。死にたくないからやるんだ」


「はぁ?」


 ギルが眉間にシワを寄せる。


「意味がわかんねぇよ。お前はゴブリンだけど魔力で体を強化しているから頑丈なんだろ? それを使わなければ、ランスに斬り殺されるぞ」


「そうだね。だけど、当たらなければいいんだよ」


「だけどよ、それだって魔力を使って反応速度をあげているんだろ? 使わなければ」


「うん、避けるのは大変だね」


「おいおい、わかってんのにやるって言うのかよ」


 ギルが苦笑いを浮かべると、俺は「俺はさ」と言う。


「レッサーゴブリンって最弱種に生まれたから、避けるのが得意だったんだ。というか、初めは魔物から逃げることしかできなかった」


 俺はそこで「フフッ」と笑う。


「そこから近距離で戦いたくなくて、投石や弓の練習もいっぱいしたよ。だけどね。魔力の使いかたを知り、さらに『魔力循環』を覚えたら、すっかり強くなった気になって魔力に頼り切りになった」


「だけど、魔力だってポチの力だろ? 頼ることのどこが悪いんだよ」


 ギルはそう言って「意味わかんねぇよ」口を尖らせた。


「魔力に頼りすぎるとその強化を越える敵が現れたとき、手も足も出なくなってしまう。今日思い知らされたよ。自分の無力さと思い上がりを」


 俺がそう言うと、ギルが「でもよ」と言って、ランスが「なるほど」とうなずく。


「身を危険にさらすことで、元の感覚を取り戻したいんだな」


「うん、簡単に言えばそういうこと」


 俺がうなずくと、ランスは「はぁ」と息を吐く。


「それで俺に頼むってわけか?」


「うん、ほかの人だと手加減されちゃうからね」


「わざわざ煽ったのも?」


 聞かれた俺がニヤリと笑うと、ランスはガシガシと頭をかいた。


「本当に馬鹿なのか? 利口なのか? わからないやつだな」


「利口に決まってんじゃん」


「どこがだ?」


 ランスが目頭をモミモミするので、俺は「ねっ?」と首をかしげた。するとランスではなく、ギルが「『ねっ?』じゃねぇだろ!」とツッコミを入れる。


 ランスはギルと俺を見ながら「悪いが」と言った。


「本当に手加減するつもりはないぞ」


「うん、真っ直ぐ自分を曲げないのがランスだもんね。それがランスの騎士道だってばにゃ」


「だってばにゃ?」


「いやいや、そこはいろいろと察してね。あんまり調子に乗ると大手出版社が激おこぷんぷん丸で、俺がガチしょんぼり沈殿丸だから」


 俺がそう答えると、ランスは「言っている意味がまるでわからん」と頭を抱えた。

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