リッチ③
気がつくと仰向けに倒れていた。どうやらしばらく気絶していたようだ。そして、にじんだ視界に心配そうな顔で俺を見つめているタマが見える。
「アニキ」
「ごめんな、タマ」
「謝ることないっすよ」
「いや、俺は救えなかった」
俺はそう言ってギュッと歯を食いしばる。
「確かにな、俺が門番ならお前たちはみんな死んでたよ」
リッチーがそう言ってカタカタ笑うと、ジローが「フガフガ」と鼻を鳴らす。
「次は負けない」
「普通は次なんてないんだぞ、まったく」
リッチーはそう言うと「まあ、敗因をよく考えろ」と言ってジローの頭をなでた。そして、俺を見下ろす。
「悔しいか?」
「うん」
「泣いてんのか?」
「うん」
「そうか、それなら、お前は強くなれるかもしれねぇな」
リッチーがそう言うので、俺は「本当に?」と聞いた。
「あぁ、諦めたやつってのは、悔しさも感じないし、涙も出ねぇもんだ」
「そうなの?」
「そうだ。そして、世の中の全てのやつが強くなれるってわけじゃねぇけど、馬鹿みたいに強いやつらってのはみんな、嫌になるほど諦めが悪い」
リッチーがカタカタ笑うので、俺は「諦めるわけないよ」と笑って、タマを抱きしめた。
「アニキ」
「うん?」
「大丈夫っすか?」
「うん、大丈夫」
俺がうなずくと、タマは「良かった」と笑う。
「完敗だね。強くなったつもりでいたけど、全然届かなかった。俺は魔力に頼りすぎていたのかもしれない」
「私もっす」
「フガフガ」
俺たちがうなずき合うと、リッチーは「そうだな」と言う。
「だけど、それは仕方ないんじゃないか? 新しく覚えたものに頼りがちになるのは当然だし、実際にそれでなんとかなっているうちに改善するのは難しいだろう?」
「でも、それで死ぬのは悔しいじゃないか」
「まあな。だからまずは、勝つことより生き残ることを考えろ」
リッチーに言われて俺は「そうだね」と首肯する。
いつのまにか忘れていた。まずは生き残ることを、ダメだと思ったら逃げること。生きてさえいれば次がある。
強くなった気になってそんなことも忘れていたんだね。
俺がそう思うと、リッチーは「ポチは技だな」と言った。
「攻撃に緩急がない。しかも頭に血が昇ったポチは連携も取れていなかったから、ジローが魔法を使えなかっただろ?」
俺が「えっ?」とジローを見ると、ジローは「フガフガ」と鼻を鳴らす。
「アニキに当たりそうで怖かった」
「そうか、ごめんな」
俺が謝ると、ジローは「次、ある」とうなずく。
「タマは事態の飲み込みが遅かったのと、腹を括れていなかった。いつまでも俺を敵認定できないからあっという間に捉われて、ポチたちを危険にさらした」
「はいっす」
「お前の中で大事なのはなんだ? 優先順位をしっかりとつけておけ、自分の命、ポチたち、ブラックドッグ家。そうすれば、裏切られてもとっさに大事なものを守ることができる」
リッチーがそう言うと、タマは「アニキっす」と答えるので、リッチーが頭蓋骨をカリカリとかいた。
「まぁ、そうだよな」
「アニキさえ無事ならそれでいいっす」
「ポチはタマを裏切らないだろうからそれで構わないけど、2番目は自分の命にしとけよ」
リッチーがそう言って、ジローを見た。
「ジロー、お前もか?」
「フガフガ」
「ポチとタマが助かればいいと思って、捨て身の体当たりを繰り返したのか?」
「フガ」
ジローがそう言うと、リッチーは「それがお前たちの強さであり、弱さだな」と再びカタカタ笑う。
「お前たちに森はまだ早い。もっと鍛えろ」
「でも、このままにしておいて大丈夫?」
「今更だな」
リッチーはそう言うと、森を指差した。
「あの冥府の門は低ランクしか呼び出せない、しかも森からあふれた分をお前たちが倒しているから問題ない。お前たちは門番を倒すことだけを考えろ」
「門番ってさ……」
「なんだ?」
「いや、なんでもない。明日からもがんばるよ」
「あぁ、頼んだぞ」
リッチーはそう言ってまた森の中に戻っていった。俺がしばらくリッチーが消えていった辺りを見ていると、タマが「アニキ?」と声をかけてきた。
「ごめんね。帰ろうか?」
「そうっすね。遅くなったし、心配しているかもしれないっす」
「うん、旦那様が心配していそうだね」
俺がそう答えると、ジローが「フガフガ」と鼻を鳴らす。
「きっと、ソワソワしてる」
「確かにな」
「急いで帰るっす」
そう言ったタマが走り出したので、俺とジローもあとを追う。3人でフォレストの屋敷まで競争した。
「フガフガ」
「速すぎっすよ」
「うん?」
「魔法、ズル」
「そうっすよ」
「うん?」
「「アニキ!」」
2人がシンクロするので、俺が「獅子は兎を狩るにも全力を尽くす」と言うと、タマが「それは、なんっすか?」と笑う。
「『驕ることなくどんなことにも全力であたれ』と言う意味だよ」
「いやいやいや、この場面で魔法を使うのはなしっすよね?」
「フガフガ」
「そう?」
「そうっす!」
「フガフガ!」
俺が首をかしげると2人が詰め寄ってきたので、俺は「そっか、なんかごめん」と謝った。
「じゃあ、アニキの負けってことでいいっすね?」
「うん?」
「いいっすね?」
「うん、わかったよ」
俺がうなずくとタマはニッコリと笑い、ジローは「フガフガ」と鼻を鳴らす。
「負けたアニキは私たちをたくさんなでるっす」
「フガフガ」
「えっと? そんなことでいいの?」
「「いい」っす」
2人が良い笑顔でうなずくと、ギルが「いつまで門のところで遊んでいるんだ? お前たちは?」と来た。
「ただいま」
「おかえり。ってか、なんでお前らはそんなボロボロなんだ?」
「修行してきた」
「修行?」
「うん『オスッ』で有名な孫さんも、修行のたびにボロボロになるでしょ? アレと一緒だよ、俺たちは限界を越えるたびに強くなるんだよ」
「誰だ? 孫さんって?」
「あぁ、そっか、携帯会社のえらい人と間違うよね? そっちじゃなくて、あのZな人」
「Zな人?」
「あぁ、Zって言ってもアニキじゃないよ」
「うん?」
ギルが首をかしげると、タマが「アニキの謎ワードはスルーっすよ」と苦笑いを浮かべた。
「ポチはいつもこんな意味わかんないことばっかり言っているのに、タマの対応力がすごいな」
「そうっすか?」
「そうだろ?」
2人がなぜか俺を見るので、俺は「いやいやいや」と言う。
「それは俺に聞かれてもわからないよ。だけど、タマとジローに見捨てられたらボッチ確定な気はしてる」
「ボッチ?」
「うん、ひとりぼっち」
俺がそう答えると、ギルが「そうだな」とうなずく。
「おい!」
「なんだ?」
「そこは否定しようか?『そんなことないよ。お前は隠れたところで人気だよ』って慰めるところだろが!」
「隠れたところでいいのか?」
「いや、よくない」
「モテたいのか?」
ギルがそう聞くので、俺は「うん」と答えた。
「まぁ、がんばれよ」
「なんだその、無理だろうけどがんばれよ的な応援は?」
「まあ、実際な」
ギルが俺の頭から爪先までを見るので、俺は体を隠しながら「ジロジロ見ないでよ、エッチ」と言った。
「あのな、そんなことばっかり言ってるからモテないんじゃないのか?」
「えっ?」
俺がおどろくと、タマが「アニキはこれ以上モテなくていいっす!」と言った。
「これ以上?」
「わっ、私がいるんだからモテなくていいの!」
そう言ったタマが真っ赤になるので、俺は「そうだね」とうなずく。するとギルが「タマはこんななのどこがいいんだ?」と首をかしげる。
なにソレ? 失礼じゃない?




