リッチ②
ボワァとリッチーが闇をまとった瞬間に、俺が「下がれ!」と叫んで、俺たち3人は後ろに大きく跳ぶ。だけど、ジローがリッチーが放った黒い塊に吹き飛ばされた。
「ジロォォォォォォ!」
着地と同時にタマは火をまとって『ファイヤーボール』を浮遊させる。
ドォン!
飛んでくる黒い塊と『ファイヤーボール』の1つがぶつかり合って破裂した。
タマが「グッ」と声をもらして『ファイヤーボール』を連射すると、飛んで来る黒い塊とバンバンと当たって均衡を保つ。
「タマ、大丈夫?」
「大丈夫っす。今のうちにジローを」
「わかった」
俺が「ジロー、大丈夫?」と駆け寄ると、ジローは「フガフガ」と鼻を鳴らして笑ったが、派手に吹き飛ばされていたから大丈夫じゃないね。
直撃を受けた場所は火傷したようにただれて、血が出ていた。
俺はカバンから出したポーションをかけて、ジローの傷が治っていくのを確かめる。
「ジロー、大丈夫?」
「フガ、ありがとう、アニキ」
ジローがほほえむので、その頭をなでてからタマを見る。
「本気でやらないとこっちが殺される」
「でも、どうしてっすか? なんでリッチーさんがこんなことを?」
「わからない」
俺はそう言って首を横に振る。
リッチーの考えはわからないだけど、本気でやらないとやられるのは間違いない。
迷っている場合じゃないね。
俺はシミターを抜いて、タマの『ファイヤーボール』に近づけた。ボッとシミターが火をまとったので、俺はリッチーに向かって走り出す。
飛んで来る黒い塊を斬ると塊は霧散した。
すると、リッチーが「やるじゃないか」と笑って、それから黒い塊を俺とタマに飛ばしながら地面に手をつく。
「おぞましき悪魔よ。地の底より怨嗟の手を伸ばし、愚かなる神の下僕に闇を、我が敵を縛りつけよ『ウンブラ・マヌス』」
リッチーが詠唱を終えると、シャーッと地面からいくつもの黒い手が伸びる。俺がそれを避けて、ブワッとシミターを振るうと、黒い手を火が打ち払った。
次々に避けては斬る。すると、俺の握るシミターにまとわりついていた火が黒く変わった。
うん?
「なんだと!」
リッチーが叫ぶ。
「なにコレ?」
俺がシミターを振るいながら首をかしげると、リッチーはカタカタカタカタと笑った。
「それは『インフェルノ』悪魔を焼く火だよ」
「『インフェルノ』」
「いいぞ、君は本当にいいよ。ポチ」
「うん?」
リッチーがまとう闇が一層深くなると「フガァァァ」と言ったジローがリッチーを弾き飛ばした。
ドォン!
リッチーが森に飛び込んで、木々が周囲に弾け飛ぶ。
そこにタマの『ファイヤーボール』が次々に叩き込まれたと、バンバンと弾けて周囲の木に火が移る。黒い煙が立ち登り始めたが、リッチーが「甘い!」と跳び起きて『ファイヤーボール』ごと周囲の火を吹き飛ばした。
黒い闇をまとうリッチーが俺たちを見て「本気で来い!」と叫ぶ。
「殺す気で来ないなら俺がお前たちを殺す!」
「なっ、なんで?!」
「冥府の門の話は聞いたのだろ? 冥府の門には門番がいる。そんな決意では門番を倒すことなんてできないぞ」
「それはわかるけど、それでなんでリッチーを殺す気でやれって話になるのさ?」
俺が聞くとリッチーは「どうした?」と首をかしげた。
「『どうした?』じゃないだろ? ちゃんと説明してよ」
「俺を倒すこともできないのか? では俺がタマを殺すぞ」
俺がギッとにらむと、リッチーはカタカタ笑う。
「ほら、どうした? 愛する者のためなら、世界を敵に回せるのだろう? その覚悟を俺に見せてみろ!」
ニヤリと笑ったリッチーが両手を前に出した。
「おぞましき悪魔よ。地獄より深き闇、魂が救われることなき闇に、愚かなる神の下僕を引きずりこめ『デスペリア・アルカ』」
俺たちの足下の地面にブワッと闇が広がると、俺たちは跳び上がったけと、タマが黒いキューブに包まれた。
「タマ!」
「どうする? 時間がないぞ!」
「この野郎!」
俺は着地と同時に地面を蹴った。
魔力でグゥーンと加速してリッチーに迫る。リッチーが飛ばして来た黒い塊を斬り裂いて、リッチーに迫ると俺の足元から黒い手がバァーッと飛び出して来た。
一番初めに伸びてきた手をシミターの腹で弾きながら飛び上がって、シミターで斬り裂きながらそれらもすべて避ける。
リッチーが後ろに下がりながら飛ばして来た黒い塊も弾いて、俺は再び着地と同時に前に出て、逃げるリッチーに追いすがった。
グッと歯を食いしばる。
心臓はドクドクと脈をうって『タマが闇に包まれてどのぐらい経った』と俺を煽る。
ドガドガと黒い塊が体をかするが、気にせずに前に出た。
「捨て身か? それではなにも救えぬぞ」
「うるさい、黙れ!」
俺が叫んだとき「フガァァァァァァ!」とジローがリッチーに突っ込んだ。
「グゥ」
リッチーの体勢が崩れた瞬間に、俺のシミターがリッチーの首に届いた。と思ったのだが、黒い塊を腹に受けて、俺の体が大きく後ろに吹っ飛ぶ。
「甘いな」
「フンガァァァァァァ!」
ジローが再び体当たりをしたが、リッチーは「そればかりか?」とひらりと避けて、ジローの脇腹に黒い塊を打ち込んだ。
「やめろぉぉぉぉぉぉ」
ガゴッと音がして、ジローが「ケブゥ」と血を吐いた。
「ジロー!」
ドスンとジローがその場で横倒しに倒れると、リッチーは俺を見た。
「ほら、お前の覚悟が足りないからジローも死ぬぞ」
「きさまぁぁぁぁぁぁ!」
俺がそう叫ぶと、シミターがまとう黒い火がボワッと燃え上がる。
そこからもリッチーの攻撃を避けて、俺はシミターを振り続けた。だけど、リッチーに俺の攻撃は届かない。
リッチーが俺の胸に手をおいた。
「まだ、ダメだな」
そう呟いた瞬間に俺は後ろに大きく吹き飛ばされた。




