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リッチ①

 その日も俺たち3人はまたあの森に狩りに行く。1日放っておいて、森からあふれたアンデッドがどこに行っちゃうかわからないもんね。


 そして、タマとジローによってあっという間に狩りが終わる。もはやこんなものは狩りですらない。


 おいおい、進化したからって楽勝すぎるだろ?


「ド◯ル中将は『戦いは数だよ、兄貴』と言ったが、圧倒的な個のまえでは物量など無意味なのだよ」


 俺がそう言って反りかえりながら「ファーファファファ」と笑うと、タマが「アニキ、真面目にやって欲しいっす」と言うので「ごめん」と謝る。


「だってさ、俺の出番がないから暇なんだもん」


「オーティス商会のみんなが解体を始めたっすよ、アニキもがんばって」


 タマがそう言って、ジローも「フガフガ」と応援してくれるので、俺は「仕方ないなぁ」と言う。


 そして「俺の本気を見せちゃうよ」と俺も解体を始めて、そこから目の色を変えているオーティス商会の従業員との競争が始まった。


「ポチ様は、そんなにがんばらなくてもよろしいのではないですか?」


 従業員がテキパキと解体を進めながらそう言うので、俺は「タマにいいところを見せたい」と返す。すると、従業員はこめかみに青筋をたてながら「少し加減をお願いします」と言った。


「なるほど、なるほど、兄さんにも褒められた、この俺の解体の早さに恐れをなしたというわけか?」


「なんなんですか? その馬鹿みたいな早さは?」


「フッフッフッ、コツがあるのだよ、コツが」


 俺がそう言うと、なぜか散らばって解体していた従業員たちが集結して俺を取り囲んだ。


「うん? なに?」


「ポチ様、そのコツとやらを教えてください」


「えっと?」


「どのようにやるのですか? 早く教えてください」


「いやいや、そんなに大した話じゃないよ」


「いいから、さっさと吐きやがれ!」


 ということで、従業員たちにもみくちゃにされたので、仕方ないから教えることになった。


「解体が終わった物を見てもらえばわかるよ」


「えっ?」


「基本的に生き物は骨と皮と筋肉や筋でできているんだ。だから例えば心臓にはりついている魔石を取り出すのも胸は肋骨で覆われているからそこは避けで切り開くんだ」


 俺がそう言うと、従業員たちが全員「マジか?」と言った。


「はい、がんばらないと俺が全部やっちゃうよ」


 ということで、そこからはさらに目の色を変えた従業員たちのスピードが上がった。どんどんと解体が進んで、魔石が取り出されていく。


「アニキ、お疲れっす」


「フガフガ」


「うん、2人ともありがとう」


 魔石の取り出しを終えて、素材を馬車に積み込んだオーティス商会の従業員たちが戻って行くのを見送ってから3人でバリバリと魔石を食べていると、リッチーが来た。


「無事に進化したみたいだな」


「うん」


「それで? 魔法の練習のほうはどうだ?」


 リッチーがそう言うので、俺たちは体の中の『魔力循環』の量を増やす。すると、リッチーは「ほぉ」と笑った。


「なるほど、君たちは期待以上だよ。もうまとえるようになったのか?」


「うん、そうなんだけどさ、これは?」


「あぁ、体の中を循環させている魔力が少し漏れ出ているのさ」


「漏れ出ている?」


 俺が聞くと、リッチーは「そうだ」とうなずく。


「体は完全に密閉された容器じゃないからな。大きな魔力でしっかりと満たされてくると少しずつ漏れ出るんだ。火の加護を持っているタマは火が、土の加護を持っているジローは雷が、そして、ポチは……」


「うん?」


「なんだろうな? 無属性なのかな?」


「おいおい」


 俺がそうツッコミを入れると、リッチーはカタカタ笑って「仕方ないだろ」と言った。


「ゴブリンの魔法なんて見たことないからな。それにしても、まとっているのは蒸気? 熱なのか?」


 そう言ったリッチーが首をかしげた。


「体はだいぶ軽くなったよ」


 俺がそう言って動きを見せると、リッチーは「すげぇな」と笑う。


「その状態で『部分開放』はしてないんだよな?」


「うん、してないよ」


「マジか?」


「マジだよ」


「いやいや、ゴブリン王ってのが強かったってのはあながち嘘じゃないのかもしれないな」


「えっと? リッチーは嘘だと思ってたの?」


「いや、嘘とまでは思ってなかったが、なにせ400年も前の話だし、昔話ってのはなんでも誇張されるものだ」


「まあ、そうだね」


「なるほど、お前たちなら俺の願いを叶えられるかもしれないな」


 リッチーがうなずくので、俺は「それなんだけどさ」と声をかける。


「リッチーの奥さんと娘さんはね」


「あぁ」


「その、なんと言えばいいか……」


「大丈夫だ、正直に話してくれ」


「うん、それがね。もう亡くなってたよ」


 俺がそう言うと、リッチーはポリポリと頭蓋骨をかいた。


「そうだろうな」


「うん、やっぱり予想はしてたよね」


「「……」」


 少しの沈黙のあとで、リッチーは「あぁ、わかっていた」と小さな声で呟いた。


「それでも、妻と娘が生き残る可能性に賭けて、俺はこの領地の多くの領民を犠牲にしたんだ」


「でも、それは仕方なかったことだろ?」


「さあ、どうかな? ポチはどう思う?」


 リッチーはそう言って地面を見つめた。


「うーん、正しさとかさ、俺にはわからないけど。俺がリッチーの立場なら同じことをしたと思う。だって、愛する者を救えるなら、たとえ世界が敵に回っても救いたいと思うだろ?」


「ポチ」


「それがほんとに少ない確率や可能性でも、それに夢を見てかけてしまうのが人族なんじゃないの?」


「本当にやるのか?」


「いや、たぶんやらない」


 俺がそう答えると、リッチーは「フフッ」と笑う。


「本当にお前はおかしなゴブリンだな。でも、だからこそそこまで進化できたのだろうな」


「まあね」


 俺がうなずくと、リッチーはうつむいたままでカタカタ笑う。


「だからさ、世界がリッチーの敵になっても俺は味方でいるよ」


「私も」


「フガフガ」


 俺たちがうなずくと顔をあげたリッチーは「それがどんな意味なのか、わかって言っているのか?」と聞く。


「俺はこの森の中に冥府の門を開いて、フォレスト子爵領に住んでいた領民をすべてアンデッドにしたんだ。小さな幸せを抱いて懸命に生きていた人たちを生贄にしたんだぞ」


「それはフォレスト子爵に脅されていたからだろ? それにフォレスト子爵は操られていたよ」


「なっ、そうだったのか」


 リッチーが驚くので、俺は「精神支配じゃないかって」と言った。


「なるほどな、奴隷の足枷で魔法が封じられたことでかけられていた魔法にも綻びが出たんだな」


「えっ?」


 俺が驚くと、リッチーは「説明しただろうが」とカタカタ笑う。


「魔法は補助だ。精神支配も対象が抱いている負の感情が負の魔力となっている物を外部から働きかけて増幅させているに過ぎない」


「つまりは、自分が抱いている負の感情でしか操られないってこと?」


「そうだ」


「なるほどね。子爵は自分の家への劣等感と他者からの目や、子供に対する心配などを利用されたってわけだね」


 俺がそう言うと、リッチーは「そういうことだな」とうなずく。


「なるほど、なるほど、精神支配も神微乳好きを巨乳好きには出来ないってわけか」


 俺が何度もうなずくと、タマにベシッと叩かれた。


「うん?」


「『うん?』じゃないっすよね?」


「えっと……」


 俺が目を泳がすと、タマがキッとにらむ。


「すみません」


「わかればいいっす」


 タマがうなずくと、リッチーがまたカタカタと笑う。


「尻に敷かれているな」


「そう?」


「あぁ、でもまあ夫婦ってのは、男が妻の尻に敷かれているぐらいがうまくいくがな」


 リッチーはそう言うと、ポリポリと頬をかいた。


「うん、俺はタマが好きだから、これぐらいなんてことないよ」


 俺がそう言うと、リッチーは「そうか」とうなずく。


「わっ、私も、アニキが好きだから注意したんすよ」


「うん、ありがとう」


 俺がタマの頭をなでると、リッチーは「さてと」と言った。


「じゃあ、そろそろお前たちの力をためしてみるか?」


「なにをするの?」


「手合わせだ。俺がお前たちの力をためしてやろう、かかって来い」


 リッチーはそう言って両手を開くと、カタカタカタと笑った。

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