タイラとタイナ
自分たちが与えられた部屋に戻ると、タイラとタイナが来た。入り口で「あのぉ」と言っているので、タマが「そんなとこにいないで入ってくるっすよ」と笑う。
恐縮しながら入ってきた2人が、俺を見て「ルペルペタス」と呟くと頭を下げた。
そして、俺のまえに並んで座る。
「それで、どうしたの?」
「はい、アニキに話がありまして」
「うん、なに?」
俺が首をかしげると、タイラが「えっと……」と言い淀むので、俺は「ゆっくりでいいよ」と笑う。
「アニキ、世話になっておいて申し訳ないのですが……」
「うん」
「俺たちはやっぱり」
「そうだね」
俺がうなずくと、タイラとタイナは目を見開いた。
「許してくれるのですか?」
「うん、旦那様はなんて言ってるの?」
「私たちの気持ちを尊重して下さると」
俺は「そう」とほほえむ。
「俺も同じ気持ちだよ」
「でも、いいのですか?」
「うん」
俺がうなずくと、タマはなにかを言いかけてやめた。俺はそれを横目で見ながら「だけど」と続ける。
「全てを失って爵位も取り上げられたあとのあの人を支えていくのは並大抵のことではないよ。辛いことも多いと思う」
「「はい」」
2人がうなずくので、俺は「本当にわかっているの?」と聞いた。
「えっと……」
タイラが言い淀むと、タマが「私は反対」と言った。
「2人はあの人について行って、どうやって生きていくつもりっすか? 操られていた情状を酌量して処刑にならないとしてもあの人は全てを失ったっす。もう食事を用意してくれる人もいなければ、住む場所もないんすよ」
「それは……」
タイラがそう言ってタイナを見ると、タイナは「ネエさんの言っていることはわかるが」と言う。
「タイラもタイナも甘いんすよ。放り出されてひもじい思いも、怖い思いもしたんすよね? あれがずっと続くんすよ」
タマはそこまで言って顔をしかめたので、俺が「だからこそなんだろ?」と2人に聞いた。
「フォレストさんはこの先、きっと2人がいなければ生きていけないだろうね」
「えっ?」
タマがそう声をもらして俺を見た。なので、俺はその頭をなでる。
「タマは『2人がちゃんと生きていけるのかわからないのに、送り出すことなんてできない』って思っているんだろ?」
「はいっす」
タマがしゅんとすると、タイラとタイナが「ネエさん」と呟く。
「タイラたちも、フォレストさんが生きていけるのかわからないから放っておけないんだよ。そうだろ?」
「「はい」」
2人がうなずくと、タマがギュッと歯を食いしばった。
「あの人は2人を捨てたんすよ」
「「はい」」
「そのせいで2人の仲間は死んだんすよ」
「「はい」」
「2人は馬鹿っすね」
タマがそう言って2人を見ると、タイラたちは「そうですね」と笑う。
「それでも家族だから放っておけないんすよね」
そう呟いたタマが何度かうなずいて、俺を見た。
「アニキ、家族って難儀なものっすね」
「そうだね。だけど、俺が全てを失ってもタマはついてきてくれるだろ?」
「もちろんっす」
「その言葉が俺に勇気をくれるよ」
俺がそう言うと、タマは「アニキ」と寄り添ってくれるので、俺はその背をなでる。
「よし、じゃあ。2人に『魔力循環』を教えようか?」
「そうっすね」
俺とタマがうなずきあって、タイラたちを見ると、タイラとタイナは「『魔力循環』?」と首をかしげた。
「うん、それさえ覚えればタイラたちはCランクなんだ。その辺にいる野良の魔物にはまず負けることはないと思うから、3人で生きていくのは可能だと思うよ」
「でもいいのですか? 俺たちはその……」
「あのさ、2人がブラックドッグ家の従者を辞めるからって、俺たちと他人になれると思ってんの?」
「「えっ?」」
「俺たちはもう家族だからね。缶蹴りに飽きた子供みたいに『いち抜けた』ってわけにはいかないよ」
俺がそう言ってドヤ顔をすると、タイラとタイナが首をかしげた。
「すみません、後半の意味がわからないのですが」
「えっ?」
俺が驚くと、タマが「アニキはいいことを言ったつもりなんすから、そこはわかったふりをしてあげてほしいっす」と小さな声で言う。
いやいやいや、タマ? 聞こえているよ。丸聞こえだよ。気を使われた方が居た堪れなくなるやつだよ、それは。
ジローも「フガフガ」と鼻を鳴らすので、俺は苦笑いを浮かべてから「まあ」と続ける。
「もう俺たちは家族だから勝手に抜けるなんて許さないってことさ」
「「わかりました」」
2人がいい笑顔でそう答えて、そこからリッチーに教わった通りに『魔力循環』を教えた。
まずは俺の魔力を流して、それを体から追い出すように自分の魔力を体に満たす。そして、それを維持する。
「どう? できそう?」
「「はい」」
タイラと一緒に返事をしたタイナがジローを見た。
「あれを見せられたら嫌でもがんばれますよ」
「そう?」
俺もジローを見ると、ジローは毛先をバチバチと爆ぜさせながら全力で魔力を循環させていた。
「初めは維持するのが大変だけど、とても単純なことなのにこれを知っていると知らないでは雲泥の差だからね」
俺がそう言うとタマが「だけど」と続く。
「これを覚えたからといってすぐに強くなるわけじゃないっすから、過信したらダメっすよ」
「「はい」」
「特に森の主クラスや、人族にテイムされている魔物は知っている可能性が高いっす」
「だけど、俺たちは」
タイラとタイナが顔を見合わせるので、俺とタマはうなずく。
「ブラックドッグ家が没落したのも、フォレスト家が古い家と言われていたのもきっと『魔力循環』を知らなかったからだよ」
「「えっ?」」
「魔物のランクってのはさ、誰が付けたのかなぁ」
俺がそう言うと、タイラとタイナは首をかしげた。
「たぶん神だよ。しかもね、そいつは退屈が嫌いな、嫌なやつなんだ」
「神様」
タイラがそう言うと、天井を見た。
「うん、あの空の上から俺たちを見て楽しんでいるんだ。そんな神がランク付けしたんだからさ、同じランクの魔物の強さが違うわけないんだよ」
「それじゃあ」
「うん、竜族もランクが同じならタイラたちとそんなに変わらないはずだよ」
俺はそう言って心の中で『ゴブリンは違うけどね』と付け加える。
「それじゃあ」
「うん、テイマーの貴族で最近ブイブイ言わせているところは、たぶん『魔力循環』を知っていると思うよ」
「ブイブイ?」
「あぁ『ちょづいている』ってこと」
「「うん?」」
「うん?」
2人が首をかしげるので、俺もかしげた。
「えっとね『身のほどを知らずに思い上がっている』ってこと」
「アニキ、竜族がですか?」
「そうだよ」
俺はうなずく。
「今まで散々ブラックドッグ家を馬鹿にしてくれたみたいだからね。そのうちにあの尖った口の中に手を突っ込んで、奥歯ガタガタ言わせてやるよ」
「マジっすか?」
「嘘だよ」
「「えっ?」」
2人が驚くので、俺は笑う。
「だって俺はゴブリンだよ。竜族なんかに勝てるわけないじゃん」
「「どっちなんですか!」」
「ねっ?」
「いやいや『ねっ?』じゃないですよ」
タイナが呆れ顔になるので、俺は「ランクの話はたぶん間違いないと思うよ」と言う。
「本当ですか?」
「うん、十中八九間違いないと思う」
そうだよね。空から見てるやつが竜族だけヌルゲーにするわけない、努力もせずに竜族が無双する世界なんて、そんなの全然楽しくないもんね。




