ずっと一緒に
頭をポリポリとかいたギルが俺の足下にできた少し窪んだ地面を見て「やっぱりお前か? ポチ」と苦笑いを浮かべる。
「やっぱり?」
「お前以外にいるのか? こんな朝っぱらからわけのわからないほど大きな音を出す馬鹿が」
「いるんじゃないかな? 世界は広いし」
「馬鹿やろう! 世界のことなんて聞いてねぇ! 少なくとも俺たちの周りにはお前しかいねぇんだよ!」
ギルがそう言って怒ると、集まったみんながひどくうなずくので俺は「それはひどいんじゃない?」と聞いた。するとギルが「ひどいのはどっちだ?」と返す。
「うん、確かに安眠を妨げている俺のほうがひどいね。ごめん」
俺がそう素直に謝ると、ギルは「うっ」と言ってから「その、なんだ」と頬をかいた。
「俺も少し言い過ぎた。ごめんな」
「仕方ないなぁ、許してあげるよ」
「おい!」
ギルがツッコミを入れると、アルが「フフッ」と笑う。
「ポチたちはBランクになったんだね」
「うん、ルペルペタスになったよ」
「キュウビになったっす」
「カリュド、フガ」
ジローがそう言うと、アルの側近が「やっぱりあの暴れ猪が従者になっているなんて、普通では考えられませんね」と苦笑いを浮かべる。
「カリュドってそんなにすごいの?」
「はい、滅多に出ることのない魔物ですが、大昔に騎士が少ない地方に出現して、たいへんな被害が出たと言われています」
「そうなんだ」
「なにせカリュドに普通の攻撃は効かないですからね」
側近がそう言うと、ジローが「フガフガ」と答える。
「ジローも強いもんな」
「フガ、だけど人族、襲わない」
「うん、わかってるよ」
俺がジローの頭をなでると、オーティス商会の職員が「それにキュウビは天災ですよ」と笑う。
「天才だなんて照れるっす」
「いやいや、タマ。その天才じゃないよね?」
「ちっ、違うんすか?」
タマがオーティス商会の職員を見ると、オーティス商会の職員は「いやぁ」と笑いが苦笑いになった。
「タマさんはもちろんその天才ですが、ほかのキュウビは人為的ではない災害のほうの天災です」
「災害……」
タマがそう言い淀むと、オーティス商会の職員は「すみません」と謝る。
「いや、大丈夫っすよ。普通は人族と魔物は敵対しているっすからね」
「はい、ひとたびキュウビが現れると街も村も畑も全部焼かれて領地が焼け野原になるそうです」
まあ、そうだろうね。火をまとって周りに『ファイヤーボール』を浮かべられたら、正直言って普通の人族では手も足も出ない。
タマが「焼け野原」とショックを受けているので、俺は「タマはそんなことしないだろ」と笑って頭をなでた。
「はいっす」
「キュウビになっても、タマはタマだからな」
俺がそう言うとタマは「そうっすね」とほほえんだ。するとギルが「それよりもポチだろ?」と言う。
「まさかこの目で伝説のルペルペタスを拝めるとはな」
ギルがそう言うので、俺が「うん?」と首をかしげると、アルの側近たちもオーティス商会の職員たちも護衛の騎士たちも俺を見た。
「あの『レッドキャップ』ですもんね」
「あぁ、絵本にまでなってるからな」
「切り裂きゴブリン」
「昔よく母さんに『悪い子はレッドキャップにつれて行かれる』って言われたよ」
「あぁ、俺も、俺も」
「まさか、本物を見る日が来るとはな」
「殺人鬼ルペルペタス」
「怖かったよな」
「小さい時はさ、帰りが遅くなると何度も後ろを振り返って確認したよ」
「それは今でもだろ?」
「いやいやいや、それはお前だろ?」
「それにゴブリン王も初めて歴史上に登場したのはルペルペタスだったもんな」
「人狩り族とか、バーサーカーとか呼ばれていたんだろ?」
「やべぇよな。髪どころか、全身人族の血で赤かったって」
「それなぁ」
そこまで言うとピタッ止まって苦笑いを浮かべるので、俺は「いやいやいや」と言う。
「なにソレ? 俺はそんな物騒な生き物じゃないからね。どちらかといえばベビーフェイスのシャイなアンチキショウだからね」
「「シャイなアンチキショウ?」」
全員が首をかしげると、タマが「アニキの謎ワードは気にしたら負けっす」と笑う。するとランスが「だけど」と続いた。
「あの数の魔物落ちした騎士たちの首を短時間ではねていたからな。あながち伝説は嘘ではないのではないか?」
「おい、ランス、余計なことを言うのはやめてね。俺のイメージが、かわいい男の子のイメージが……」
「そんなものは初めからないだろ?」
「えっ?」
「なにを驚いてんだ?!」
ランスがそう言うと、ギルが「確かに」とうなずく。
「おい!」
「諦めろ、お前はゴブリンだからな」
「またソレか!?」
なにかにつけてゴブリン、ゴブリンって、なんなんだよ。この世界はゴブリンの敵なのか? まったく。
俺がそう思うと、タマが「私はアニキのこと、その」と言って、ジローが「俺はアニキ、好き」と言う。
「おぉ、ジロー。心の友よ」
俺がジローに抱きつこうとしたら、タマに抱きつかれた。
「タマ?」
「私も」
「うん?」
「わたしも!」
するとジローが「フガフガ」と鼻を鳴らして、俺とジローがタマをサンドする形になった。
「痛いっす」
「大丈夫?」
「大丈夫っす。それにうれしいっす」
タマがそう言って笑うので、俺とジローも笑った。
「お前らは本当に仲がいいな」
「まあね。俺たちは家族だからね」
「家族かぁ」
ギルがそう言って笑うと、旦那様が「ポチも腹を括ったのかい?」と聞いてきた。
「えっと?」
「タマの気持ちが変わらなかったらつがいになるんだろ?」
「あっ」
俺が声をもらすと、タマが「アーニーキー」と俺を見上げる。だから俺はタマを見ながら「うん、そうだね」と首肯した。
「えっ?」
「タマ」
「アニキ?」
俺はその場でひざまづいた。
「ずっと一緒にいてくれる?」
「あっ、あっ、アニキ? えっと、それは、その、えっと」
タマは真っ赤になって、それからギュッと眉間にシワを寄せた。
「うれしい……」
タマはそう言って俺に抱きついた。すると、ジローが「フガフガ」と鼻を鳴らす。
「俺も一緒」
「そうだな、ジロー」
「そうっすね」
俺とタマが笑ってジローを抱きしめると、ギルが「おいおい」と言った。
「それじゃあ、今までと変わらねぇじゃねぇか」
「まぁ、そうだね」
「そうっすね」
「フガフガ」
俺たちが答えると、ギルたちみんなは呆れ顔になった。




