取り調べ
グルグル巻きにしたフォレスト子爵を床に転がして、騎士たちとウェアタイガーに手を合わせた。すると事情を聞いたタマが慌てて入って来たので、その頭をなでる。
「アニキ」
「うん?」
「無理はしないで」
「わかってる。ごめんね」
俺がほほえむと、タマは「無事で良かった」と言って俺にガバッと抱きついた。
確かに冷静さを欠いていたね。ひとりでも対応できる相手だったから良かったけど、強いやつが出てきたらどうなっていたのかわからない。
マジで気をつけよう『ここは任せろ』なんて死亡フラグ過ぎるからね。
「せっかく転生したのだから、今世こそはお爺ちゃんになりたいからね。日向ぼっこしながらタマと縁側でのんびりするのもいいよね」
「なっ?!」
「うん?」
俺がタマを見ると真っ赤なったタマが「そっ、そうっすね」と笑う。すると部屋に入ってきたギルが「お前は恥ずかしくないのか?」と聞いた。
「なにが?」
「いやいや『なにが?』じゃないだろ? 子爵をこれから取り調べようってときにイチャイチャするな」
「イチャイチャ?」
「無自覚ならタマに謝れ、不憫すぎる」
俺が「えっと?」と言いながらタマを見るとタマは「はぁ」と息を吐いて「慣れているから大丈夫っす」と笑う。
いや、なんかごめんね。
ギルの騎士たちによって子爵の足に『奴隷の足枷』がはめられて、ランスと殿下、それから側近たちにうちの旦那様、護衛の騎士たちがゾロゾロと部屋に入ってくると、マジでギュウギュウ詰めになった。
「これはさすがにないね」
「確かにな」
俺の言葉にギルがうなずいて、騎士たちによって気絶しているフォレスト子爵は中庭に運び出された。
松明の明かりの下、顔にバシャと水がかけられて目を覚ました子爵はキョロキョロと周りを見回したあとで、俺をにらんだ。
「クソゴブリン、殺す! 呪い殺してやる」
「いやいやいや、怖いからそういうのやめてね」
俺がそう言うと、ランスが「呪い殺されるのはきさまだろうが!」と怒る。
うん?
「確認に向かわせているが、領民は避難したのではないのだな」
「えっ?」
俺がランスを見ると、ゆらゆらと揺れる松明の明かりに照らされていたランスがギュッと顔を歪める。
「冥府の門の生贄にしたのだろう?」
「なぜわかりきったことを聞くのだ?」
「きさま!」
「領民はみんな、我らの糧となったのだ」
「糧だと、ふざけるな! 糧になるどころか、馬鹿なことをしたきさまは全て失っているではないか?」
ランスがそう言うと、子爵はコテリと首をかしげた。
「全てを失っている?」
「そうだろう? 息子は魔物にされて死を選んだ。奥方も部屋で亡くなっていたぞ。領民もおらず、騎士も大半が魔物落ち、お前は全てを失ったんだ」
「なにを言っている? あの方の言う通りにすれば我が家は……」
子爵がそう言って、それから「おかしい」と頭を抱える。
「私はあの方に言われた通りにしたんだ。なせだ? なぜこんなことに?」
「あの方とは誰のことだ!?」
「言われた通りに、言われた通りにさえすれば我が家は安泰だと、息子は学園に行っても馬鹿にされないと……」
子爵が虚空を見つめて、それからアルを見た。
「どうなっているのですか? 息子は、妻は……おかしい、こんなはずでは、騎士たちは、領民たちを、なぜだ? なぜ私はこんな馬鹿なことを……」
子爵がそこまで言うと、旦那様が「殿下、これは精神支配かもしれないですね」と言った。
「精神支配ですか?」
「はい、子爵は操られていたのです」
「しかし、それはあまりにも」
「その証拠がタイラたちですよ」
「タイラたち?」
アルが聞くと旦那様はうなずく。
「タイラたちのことは指示になかったのでしょう。だから、ポチによってイレギュラーが起きて、子爵は無意識にタイラたちを逃したのではないでしょうか?」
「逃したのですか?」
「はい、子爵はタイガーを愛しておられた。亡くなった子たちの墓を作って弔うほどです。そんな子爵がタイラたちを放逐するなんてありえない」
旦那様がそう言うとランスが頭をガシガシとかいた。
「殿下、ブラックドッグ子爵の推測を支持します」
「ランス?」
「どう考えてもフォレスト子爵の行動はおかしい。無駄にポチたちに絡んでいたのも、計画の邪魔になる者は排除しろと指示されていたと考えれば納得できなくもない『あの方』って奴に精神支配をかけられていたのだと私も思います」
ランスが子爵をにらむ。
「フォレスト、お前の言う『あの方』とは誰のことだ」
子爵は「なにを言っている?」と顔をあげてランスが見た。
「あの方はあの方だろ?」
「だから誰のことだ!」
ランスが怒鳴ると、子爵が心底不思議そうに首をかしげるのでゾッとした。
「お前の言う『あの方』の目的はなんだ? なぜお前にこんなことをさせた」
「目的? それは……わからない。言われた通りにすれば我が家は安泰だと、馬鹿にしてきた奴らを見返せると、言われたんだ。それなのに……なぜ? こんなことに?」
子爵が再び頭を抱えるのを見て、俺は「精神支配って恐ろしいな」と呟く。
「そうっすね」
「あれって『魔力循環』していれば弾けるのかなぁ」
「どうっすかね、抵抗力が上がるらしいから弾けそうな気もするっすけど」
「だとするならリッチーには効かないから家族を人質に取ったのか」
俺がそう言うと、タマは「そうかもしれないっすね」と言った。
そこからも取り調べは続いたが、精神を支配されている子爵から『あの方』についてのことはなにひとつ聞き出せなかった。
最終的には泣き崩れて運ばれて行った子爵を見送ったあとで、俺はランスに声をかけた。
「ランス」
「なんだ?」
「冥府の門ってなに?」
俺が聞くとランスは「はぁ」と息を吐き出した。
「冥府、つまりあの世とこの世をつなぐ魔法陣だ」
「おいおい、マジかよ。その魔法陣であの世とつながったからアンデッドが押し寄せているのか?」
俺がそう聞くと、ランスは「まぁ、そうだな」と言って、それから頭をかいた。
「ただ出てくるアンデッドがCランクとDランクに限られているところを見ると、使われた魔法陣はそれほど大規模な物ではないのだろうな」
ランスはそこまで言うと「生贄の数の問題か、魔術師の質の問題なのか」と呟く。
「それは魔法陣にもランクがあるってこと?」
「そうだ。魔法陣の規模によって冥府より呼び出される魔物の強さが違う。そして、冥府の門には門番がいるのだが、その門番の強さも違う」
「門番?」
「あぁ、もちろん開閉したり、行き来を制限するような門番ではないぞ。魔法陣自体を守る門番だ」
「つまり、そいつは誰かが魔法陣を壊すのを防ぐってことだよね?」
俺が聞くと、ランスはゆっくりと「そうだ」とうなずく。
「マジかよ」
「マジだ。アンデッドたちの出現を止めるためには、その門番を倒すしかない」
なるほど、リッチーの言っていた『俺たちにはまだ早い』ってのは俺たちではまだその門番を倒せないってことだったんだね。




