子爵家③
フォレスト子爵の元に行ったとき、子爵は俺を見て、それからアルを見てニヤリと笑った。
「殿下、知ったのですか?」
「フォレスト子爵、あの森にはなにがあるの?」
「そうですか、まだ知らないのですね」
子爵は「クククッ」と笑った。
「なにがおかしいのか? わからないんだけど?」
「殿下は、我らテイマーの家がほかの家からなんと呼ばれているのかご存じですか?」
「うん?」
「臆病者ですよ、自分は戦場に立たずにテイムした魔物を代わりに戦わせる。確かに騎士や魔法使いから見たら我らは臆病者かもしれませんね」
子爵はそう言うと、ギュッと歯を食いしばる。
「私だって、私だって、好きで我が家に生まれたわけじゃない!」
「だけど、フォレスト家はテイマーの名門で伯爵家だったじゃないか? なにが不満なの?」
「名門?」
子爵は「プフッ」と笑った。
「そんな肩書きに何の意味があるのですか? 騎士や魔法使いから笑われ、ほかのテイマーたちからも『過去の遺産で偉そうにしている家』と言われている」
「過去の遺産?」
「そうです。竜種などをテイムしている家から見れば、タイガーをパートナーとしている我が家はもはや時代遅れなのですよ」
子爵はそう言ってから「だから」と言った。
「アンデッドを大量に呼び出して、我が家のタイガーをAランクにしようとしたんです。だって、神の乗り物と呼ばれたドゥンなら竜種にだって引けは取らないはずですから」
「ということは、アンデッドが森に大量にいるのは、子爵が呼び出したからなの?」
アルがそう聞くと、ランスが「きさま!」と叫んだ。
「冥府の門を呼び出したのか?!」
「これは、これは、さすがはランス殿、ご存じでしたか」
子爵が笑うと、ランスは「馬鹿な真似を」と首を横に振って、それから目を見開いた。
「フォレスト、きさま」
「なんですか?」
「門を呼び出すための生贄はどうした?」
子爵は「あぁ」と言ってニヤニヤと笑った。
「わかっているのではないですか?」
ランスがロングソードを抜いて斬りかかったが、その刃を子爵の後ろに控えていたフォレスト家の騎士が受け止めた。
速っ?!
「なっ、きさま!」
「グゲゲゲェ」
その騎士がそう言うと「なっ!」と声をもらしたランスが押し負けたので、俺はアルを抱きかかえて後ろに跳ぶ。
「ふん、やはりそのゴブリンは本当に厄介ですね。ここで冷静に殿下を抱えて下がることを選択できるなんて」
子爵がそう言って笑う。
「ほめてくれてありがとう、全然うれしくないけど」
「ほめてるわけねぇだろ? 口の減らないクソゴブリンが、てめぇはさっさと死ね!」
子爵がそう言うと、壁際に控えていたフォレスト家の騎士たちが「ゲゲェ」と言っておかしな動きを始めた。
「ランス、アルを連れて避難してくれる?」
「ポチ?」
「アルの安全が最優先でしょ?」
俺が首をかしげると、子爵が「馬鹿にするなよ、ゴブリン風情が。きさま1匹でこの数の騎士たちを相手ができると思っているのか?」と言う。
「うん?」
「きっ、きさまぁぁぁぁぁぁ!」
「いちいち叫ばないでよ、弱く見えるよ」
俺が耳をふさいで見せると、子爵がグググッと歯を剥いた。ランスがそれをにらむ。
「騎士たちは魔物堕ちしているようだから油断はするなよ」
「うん、わかったよ」
俺がうなずくと、騎士が斬りかかってきた。俺はそれを避けて、シミターで首を切り落とす。
「悪いけど、もう人族じゃないみたいだから手加減しないからね」
俺がそう言うと、ランスは「ポチ、任せた」と言って、アルを連れて部屋を出て行った。
騎士は大したことないね。理性を失っているから動きは速いけど、速いだけだ。
俺がそう思っていると、子爵が「来い!」と言った。
「おいおい」
子爵の後ろの扉が開くと、男の子が入ってきた。だけど、人族には見えない。まるで二足歩行の虎みたいで、その首には従属の首輪がはまっている。
「ウェアタイガー?」
俺が首をかしげると、子爵は「なかなか良い名前だな」と笑う。
「うん?」
「ウェアタイガー、これからはそう呼ぼうか」
「その子は?」
「あぁ、タイラたちが使い物にならなかったからな。作ったのだ」
「作った?」
子爵は「さよう」とうなずくと、ウェアタイガーの頭に手を置く。
「あの方に頂いた薬でな。これでもうこいつは臆病者と呼ばれることはない」
俺は「クッ」と顔をしかめた。
「その子は息子なの?」
「そうだ、私の最高のパートナーだよ」
「馬鹿なことをしたね」
「なんだと!」
子爵が怒るけど、俺の気持ちは冷めた。
「息子を魔物にするなんて、どう考えてもあんたはどうかしているよ」
「魔物のきさまがそれを言うのか?」
「うん、もう一度言おうか?」
俺が首をかしげると、子爵が「やれ!」と言った。鋭く突っ込んで来たウェアタイガーの一撃をシミターで受けて、ミスリルダガーで腹を切り裂いた。
「グルル」
飛び退いたウェアタイガーは腹の傷を触って、赤く染まる右手を見てガタガタと震えはじめた。
「どうした? いけ!」
「無理だよ、この前まで戦ったこともなかったんでしょ? 力を手に入れたからって、すぐに戦えるわけじゃないんだ」
「ふん『たたかえ』」
子爵がそう言うと、ウェアタイガーはビクッと体を震わせてから再び、襲ってきた。
だけど、その動きはぎこちないから、俺は全てを軽々と避けた。そして、背中に蹴りを入れて子爵のほうに返す。
「もうわかったでしょ? 俺には勝てないよ。投降しなよ」
「ふざけるな!」
子爵が叫ぶと同時に斬りかかって来た騎士たちの斬撃をすべて避けて、首を切り落とした。
「なっ、なぜだ?! 頂いた薬で強化した騎士たちだぞ、なんでゴブリンなんかに負けるんだ」
「だからさ、なんども言わせないでよ。与えられた力でいきなり強くなってもうまく戦うのは無理なんだって」
俺がそう言うと、ガシガシと地団駄を踏んだ子爵がまた『たた』と言ったので、俺は一気に間合いを詰めてその顔を殴った。
そして、気絶した子爵を見下ろす。
「やり過ぎたかなぁ」
そう呟くと、ウェアタイガーは静かに首を横に振ってから俺を見た。
「ころ」
「ころ?」
「ごろ、し、て」
ウェアタイガーはそう言って、首を切られた騎士たちを見る。
「従属の首輪が外れれば、自由に生きることもできると思うよ」
俺がそう言うと、ウェアタイガーは首を横に振る。
「ブラックドッグ家に」
俺はそこまで言って、その先を言うのをやめた。
「じゃあ、行くよ」
俺がシミターを構えてそう言うと、ウェアタイガーはコクリとうなずく。
俺はシミターを水平に振るった。来世こそは幸せであれと祈りながら。




