子爵家②
フォレスト家の地下は鼻につく腐敗臭が漂っていた。
石の階段を降りた先、4つ並んだ牢の1番奥に2つの腐敗した人族の亡骸が並べて置かれていた。
「子爵は正気じゃないね」
アルがそう呟いたが、俺も同じ気持ちだ。
自分がテイムしていた魔獣は墓に弔っていたのに、この人たちをこんな扱いにしていたなんてどうかしている。
「たとえ罪人であったとしても、死んでしまったら供養するのが当たりまえなのではないの?」
アルがそう言うと、ここまで案内してきた騎士が「そうなのですが」と顔をしかめる。
「子爵は『蘇ってくるのが怖い』と言ってました」
「つまり、この人たちも蘇ってアンデッドになる可能性があるってこと?」
アルが顔をしかめると、騎士は「わかりません、申し訳ありません」と頭を下げた。
だけど、困ったね。
「うーん、これだとリッチーの頼みを叶えられないかもしれないね」
俺がそう呟くと「なんの話?」とアルが聞く。
「うん、俺たちが強くなったらリッチーの頼みを聞くって話になっているんだよ」
「「はぁ?」」
アルとランス、それから騎士が驚くので、俺が「リッチーはスケルトンになっているんだ」と言った。すると騎士が「スケルトン?」と聞く。
「うん」
「それは間違いなく魔法使いのリッチー殿なのか?」
「間違いないと思うよ。俺たちはリッチーから魔法を教わっているし、本人がリッチーって名乗っていたし」
騎士が「嘘だろ」と目を見開くと、アルが「本当にポチはありえないね」と笑った。
「スケルトンから魔法を教わっているの?」
「うん、俺たちは魔物だから人族の詠唱を使う魔法はうまく使えないからね」
俺の答えにアルが「なるほどね」とうなずくと、ランスが俺を見た。
「お前はどこでそのリッチーという魔法使いに会ったんだ?」
「勝負のときにフォレスト子爵に指定された森だよ。なんかおかしいと思って中に入って調べようとしたら『お前たちにはまだ早い』って教えてくれたんだ」
「教えてくれた? スケルトンが? 意味がわからんな」
ランスはそう言って首をかしげてから「おいおい、ちょっと待て」と言う。
「『なんかおかしい』ってなにがおかしいんだ?」
「うん、だって毎日、同じぐらいの量のアンデッドが出るんだよ」
「なっ?」
ランスが目を見開いて「それは本当か?」と聞く。
「うん、スケルトンとゾンビのバランスも変わらないし、Cランクがやたら増えたり、減ったり、Bランクが出たりもしないなんておかしいでしょ?」
「確かに妙だな。まさかとは思うが、いや、それは馬鹿げているな。それで、リッチーはあの森の中にはなにがあると言っていた?」
「いや、フォレスト子爵が知ってるから子爵に直接聞けってさ」
俺が言うとランスは「うん?」と首をかしげた。
「ではなぜ子爵に聞かない?」
「あのさ、俺が『あの森の中にはなにがあるのですか?』なんて聞いて、子爵が素直に答えてくれると思うの?」
俺がそう聞くとランスが「あっ」と声をもらした。
「ねっ?」
「『ねっ?』じゃないだろう。だったら私たちに相談したらよかっただろうが!」
「あぁ、そうだね」
俺が素直に首肯すると、ランスは「はぁ」と息を吐き出して「馬鹿なのか? 賢いのか? わからない奴だな」と苦笑いを浮かべる。
「いずれにしてもフォレスト子爵に話をうかがう必要があるな」
ランスがそう言って亡骸を見るので、俺は「素直に話すかな?」と聞いた。
「普通に考えれば話さないだろうな。騎士たちも知らないのなら、森の中で行われた、もしくは、行われていることはきっと子爵とリッチーしか知らないことなのだろうからな」
「そうだね。ここの亡骸だって『私はそのような者たちがいたことも知らんぞ』とか言って騎士たちのせいにできるもんね」
俺がそううなずくと騎士が「なっ」と声をもらした。
「なに驚いてんの? 貴族の基本でしょ?」
「いやいやいや、そんな貴族聞いたこともないぞ。平民が平民の義務を負って騎士が騎士の義務を負うなら、貴族はもっと大きな義務を負わなくてはならない。これが基本だろ?」
おいおい、それはどちらの貴族のお話ですか?
「そんなわけないでしょ? ラノベの貴族なんて犯罪を犯してでも自分の権利を守り、悪い仲間をたくさん作ってバレそうになったらそいつらに助けてもらったり、いざとなったら配下のせいにして自分は知らなかったで通す人たちでしょ?」
「そんなことになってんのか? やっぱりゴブリンの世界はやばいな」
いやいや、マジか?
俺が驚いて騎士を見ていると、アルが「いずれにしても」と言った。
「とりあえずは亡骸を運び出してもらえる? ちゃんと弔ってあげないと」
アルはそう言ったがランスが「それはお待ちください」と止める。
「なにかの誤りでアンデッドが生み出されるような状況になっているのだとしたら、魔力が封じられている牢から出してしまうと、この者たちもアンデッドになるかもしれません」
「そうだね、僕もそう思うよ。だけど、このままじゃ……」
「アル様」
アルが亡骸を見つめて、ランスがギュッと顔をしかめた。
「アルの気持ちはわかるけど、リッチーみたいにはならないと思うよ」
「ポチ?」
アルが俺を見るので、俺はうなずいて「ここにはもういないよ」と言った。
「リッチーみたいになれば、また家族で一緒に暮らせるかもしれないと思ったんだろ?」
「うん」
「でも、それはないと思うよ。理由はわからないけどリッチー以外のアンデッドはみんな理性を持ってないんだ。きっと魂は戻ってないんだと思う」
俺はそう言って腐敗した亡骸が見て、牢屋の中を見回した。
「それにこんな場所に留まるわけないよ。この2人はリッチーのそばにいるか、空に帰っていると思うよ」
そう言って俺は『そうであって欲しい』と願った。だって、ここはあんまりにも……。
アルがギュッと歯を食いしばる。
「じゃあ、フォレスト子爵の話を聞きに行こう」
「アル、大丈夫なの?」
「うん、大丈夫だよ。僕は王族だからね。ここで泣いている場合じゃないんだ」
「そっか」
俺は小さくうなずく。アルはもう一度じっと亡骸を見つめてから、階段のほうへと歩いていく。
俺は凛と歩くその小さな背を追いかけた。




