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子爵家①

 タイラたちと中庭で話をしていたら、フォレスト家の騎士たちがきた。俺とタマとジローがかばうように前に立つと、フォレスト家の騎士たちは眉間にシワをよせる。


「本当に拾ってきたのか?」


「まったく、ゴブリンに、フォックスに、ボア、それからタイガーって見境がないのか?」


「まったくだ」


 騎士たちがそう言うので、俺は首をかしげた。


「うん?」


「なんだ、文句があるのか? ゴブリン?」


「いや、ないよ」


 俺がそう言ってニヤニヤ笑うと、騎士はさらに険しい顔をした。


「タイラ、タイナ、お前たちもおめおめと戻ってくるなんて恥ずかしくないのか?」


「戻ってきたわけじゃないわ。私たちはブラックドッグ子爵の従者になったんだもの」


「ふん、使い物にならないと捨てられたのに、まだわからないのか? お前たちには生きている価値なんてないんだよ」


 騎士が「ふん」と鼻を鳴らすので、ジローが「フガフガ」と鼻を鳴らした。


「ボアのくせに俺たちに文句でもあるのか?」


 やばい!


「ジロー、待て!」


 ドンとジローが足を鳴らすと、前方に尖った山ができて、ジローに対して粋がった騎士の顔ギリギリで止まった。


 マジかよ。


 騎士が「ヒィ」と声をもらして、腰砕けるように座り込むと、ジローは「フガフガ」と鼻を鳴らす。


「魔法の練習中、いきなり近づくと危ない」


 いやいやいや、それは無理があるよ。


 俺がそう思うとほかの騎士が「なっ、なに言ってんだ」と言ったが、ジローはまた「フガフガ」と鼻を鳴らす。


「次は当たるかもしれないから、魔法の練習中は離れていたほうがいい」


 おいおい。


「てめぇ、このやろう!」


「死にたい?」


 ジローが聞くとその騎士は「うっ」と声をもらすと、床に座り込んでしまった騎士を見た。ガクガクと震える騎士の腰の下には水溜りができている。


 あれは先端恐怖症になったかもね。


「こんなことをして、タダで済むと思ってんのか?」


「なにかした? フガフガ」


「てめぇ!」


「俺たち魔法練習してた。いきなり近づくと危ない。気をつけて」


 面白いけど、それはさすがに無理があるって。


「ふん、馬鹿なボアのせいでブラックドッグ子爵の立場が危うくならないといいな」


 騎士がそういった瞬間に俺の体が動いていた。


 シミターが騎士の首に少し触ると、首に赤い筋が浮かんで、血が少しだけにじむ。


「こっ、こっ、こんなことして」


「俺たちを馬鹿にしたりしているのはいいよ、別に。でも旦那様に手を出すって言うなら話が違ってくるよ」


「なっ」


 騎士がそう驚くと「クククッ」と笑ったアルが、中庭に来た。


「うん? 『オセロ』は飽きたの?」


「違う! フォレスト家の騎士たちがポチたちにまたくだらないイチャモンをつけていたら呼ぶように言ってあったの」


「おおぉ」


 俺がそう言うと、アルが「なんで驚くのさ」と口を尖らした。


「フォレスト家の騎士たちに言っておくね。ポチは僕の友達だから、これ以上くだらないことをするなら君たちを罰することになるよ」


「なっ?!」


 騎士たちが驚くと、アルは「なにを驚いているの?」と聞いた。


「君たちが森のアンデッドたちに手を焼いているから、僕の名前でブラックドッグ子爵とその従者に来てもらっているんだよ。だから、彼らは僕の客人だ」


 アルはそう言って俺たちを見た。


「彼らに刃を向けるのは僕に向けるのと一緒だよ」


「しかし」


 そう言った騎士の首にロングソードがあたり「あっ」とランスが声をもらすと騎士の首から血が流れた。ランスが何事もなかったふりをしてポーションをかけている。


「殿下への口答えは許さん」


 俺たちが「プフッ」と吹き出すと、ランスがチラッとこちらを見てから、再び「殿下への口答えは許さん」と小さく呟いた。


 いやいや、そのロングソードでよく止めたと思うよ。


 まぁ、ランスに抱えられながらポーションをかけられている騎士は恐怖でガタガタと体が震えているからもう使い物にはならないかもだけどね。


 アルはがんばって笑いを堪えてからほかの騎士たちに「理解して」と言った。


「本当だったら自身の領地も自分たちで平定できないならお取り潰しもあるんだよ。こんなくだらないことをしてないで真面目に森にいってアンデッドの数を減らしてよ」


「すみません、子爵のご命令だったので」


 おいおい。つくづく残念な人だね、フォレスト子爵は。


 伯爵で、広い屋敷と領地があって、仕えてくれる人たちがたくさんいて、タイラたちもいて、普通に考えたら俺たちにからむ理由がわからない。


『おおぉ、よく来てくれたな』と歓迎して『アンデッドを一緒に討伐しよう』とドカンと構えていれば、こんなことにはなってないよな?


 やっぱりあの森の話を聞くしかないかもな。


「あのさ」


「なっ、なんだ?」


「あの森にはなにがあるの?」


「「えっ?」」


 俺が聞くと、騎士たちの顔はあからさまに引きつった。


「なんの話だ?」


「いやいや、隠しても無駄だよ。リッチーはなんで死んだの?」


「「なっ?!」」


 騎士たちが少し後ずさると、アルが「あの森にはなにがあるの?」と聞いた。


「あぁ、一応言っておくけど、隠したり欺いたら反逆罪だからね」


「知りません」


「本当に?」


「はい」


 騎士がうなずくと、アルがランスを見た。


「本当です。本当に知らないんです。ただ、子爵のご命令でリッチーという魔法使いがあの森に向かって、それからアンデッドが現れるようになったんです」


「なるほどね。つまりは子爵が魔法使いになにかをさせて、アンデッドが現れるようになったということ?」


 アルが聞くと騎士たちは「そうだと思います」とうなずく。


「それは間違いないんだね?」


「はい」


「絶対? これはあとで『間違いでした』では済まされない話だよ」


 アルがそう言うと、水溜りを作っていた騎士が「間違いない!」と叫んだ。


「しっ、子爵がリッチーの妻と娘を人質に取って、脅してたんだ」


「人質?」


「そうだ、それでリッチーは仕方なく従っていたんだ」


 おいおい、そんなこと話して大丈夫なのかよ。


 俺がそう思うと、騎士は「もうこんな暮らし嫌だぁ」と頭を抱えた。


 まぁ、そうだろうな。


 そのあとで頭を抱えた騎士にアルが「その2人はどこ?」と聞いたけど、頭を抱えた騎士はガタガタと震えたままで答えなかった。すると、代わりに先ほどまで受け答えしていた騎士が頭をガシガシとかく。


「子爵の命令で私たちが殺しました」


「はぁ?」


 俺がそう言うと、アルは俺を見てそれから騎士を見た。


「その方々の亡骸はどうしたの?」


「子爵がアンデッド化を防ぐために結界の中に置いておくようにとおっしゃいまして」


「結界の中?」


 アルが眉を寄せて「もしかして牢の中?」と聞く。騎士がギュッと顔を歪めて小さく「はい」と答えると、アルは「馬鹿者なの」と呟いた。

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