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魔法②

 ユラユラと揺れながら火の玉が浮いている。


 だけどこれは、季節外れの肝試しでもなければ、通常肉眼では見ることのできない妖精でもない。ファンタジーでとてもメジャーな魔法の1つ『ファイヤーボール』だ。


 しかも、1つではなく、2つ、3つと増えて、5つの『ファイヤーボール』が楽しげにユラユラと揺れながらタマの周りを浮遊する。


「あのさ、それって名作シューティングゲームのオプション? それとも、白いあの人たちのファンネル?」


「なんすか? ソレ?」


「いやいやいや、ずるいよね? 周りに『ファイヤーボール』を浮遊させてガードしながら、飛ばして連射もバーストもできるなんてさ」


「ダメっすか?」


「いや、ダメじゃない、ダメじゃないよ。タマが強くなるのはうれしいし『ファイヤーボール』に守られていれば安全だと思う。けどね……」


 俺はそこまで言うと、ユラユラと揺れる『ファイヤーボール』を見てから、山になっているシルバースケルトンとアイアンスケルトン、そして、もれなく燃やされたカダベルとグールを見た。


 おいおい、どこの戦国ですか? それとも三国ですか? いやいや、忍者無双? それとも白夜叉無双かな? もしくは、白い彗星? それか伝説の緑のあの方ですか?


「ねぇねぇ、1人で痛快に無双して、大手ゲーム会社3社と大手出版会社の方々に怒られても知らないよ」


「よくわからないけど、申し訳ないっす」


「いやいや、謝らなくていいんだよ。本当によろこんではいるんだ。うらやましいだけで」


 俺が苦笑いを浮かべると、タマがしゅんとしながら『ファイヤーボール』を消したので、俺は「ごめんね」とギュッと抱きしめた。


「アニキ」


「本当にすごいよ。だからそんな顔しないで、嫉妬してごめん」


 俺がそう言うと、タマは「はいっす」とほほえんだ。するとジローが「フガフガ」と鼻を鳴らす。


「どうかした? ジロー」


「アニキ、見て」


「うん?」


 俺がジローを見ると、ジローがニヤリと笑って額から角を生やした。


「えっ?」


「アニキと一緒」


「いやいやいや、なにソレ?」


「土魔法の角」


「おいおい、マジかよ」


 どちらの一角獣ですか? あんなので突進されたらひとたまりもないだろうけどねぇ、存在意義を無くした兎がきっと泣いているよ。しかもそれは土魔法だから刺したら解除して、また生やせばいいんだよね?


「こんなこともできる」


 ジローがそう言うと体のあちこちから角を生やした。


 そして、足を振り上げてドスンと足踏みをすると、前方に向かって針山ができて山となっていたアイアンスケルトンたちがガシャガシャと飛び散った。


 いやいやいや、さらには体は硬化しているから中途半端な攻撃は受けないんだろ?


 お前たちはチートか? 


「すごいな、これはもはや俺がいらないんじゃないか?」


「「アニキ!」」


「うん?」


「アニキは必要っすよ」


「そう、フガフガ」


 2人がそう言うと俺の顔を覗き込むので、俺は「ごめんな」と2人をまとめて抱きしめた。


「いなくなるとかじゃないから、いなくてもいいぐらいに2人が強く頼もしくなったってことだから」


「本当っすか?」


「うん」


「本当? フガ?」


「うん」


 俺は2人にうなずいてほほえむ。


 こんなに必要とされていることがうれしかった。それに俺たちにはブラックドッグ家という帰る場所もある。


「早く終わらせてブラックドッグ家に帰りたいね」


「そうっすね。アビー様に会いたいです。それに、ゴブゾウさんたちや父さんたちを驚かせたいっす」


「フガフガ」


「そうだね」


 ゴブゾウたちにも『魔力循環』を教えたいし、オークがなにかしてきていないか心配もある。


 まぁ、焦っても森に入るにはリッチーの許可が出ないとダメだもんね。


 そこからはオーティス商会のみんなに手伝ってもらいながらいつも通りに解体を済ませて魔石をバリバリと食べた。


 フォレスト家の屋敷に戻ろうと街道を歩いていると、タイラたちを見かけた。


 うん?


 かなり怪我しているっていうか、なんでタイラたちが外にいるんだ?


 俺たちが近づくとタイラは目を見開いた。


「タイラ?」


「グルル」


「うん? お前、首輪は?」


「グルゥ」


 俺が首をかしげると、オーティス商会の職員が「放逐されたのではないですか?」と言った。


「えっ? いやいや、この辺の森はアンデッドばかりで食べる物もないのに、放逐なんてふざけてるの?」


 俺がギュッと眉間にシワをよせると、オーティス商会の職員は「ですが、あの子爵ならやりかねませんよ」と言った。


 確かにな。しかも、タイラたちが放逐されたのは間違いなく俺のせいだよな。


「タイラ」


「グルゥ?」


「俺たちと来るか?」


 俺がそう言うとタイラはもう1匹を見て、それから俺に向き直ると「グルル」と頭を下げた。


 フォレスト家の屋敷に着いたころにはすっかり日が暮れていた。暗がりの中で待っていると、オーティス商会の職員に連れられてきた旦那様がタイラたちを見て眉間にシワを寄せた。


「にわかには信じられなかったが、フォレスト子爵はこの子たちを本当に捨てたのか?」


「はい、そのようです」


 俺がうなずくと旦那様はギィィィと歯を食いしばった。ギュッと握られた手はきっと爪が食い込んでいるだろう。あのままだと血が出そうだ。


「旦那様……」


「うん、ごめんね。テイムした魔物を捨てるなんて、私には考えられなくてね」


 そう言った旦那様は優しくほほえんだ。


「タイラ君たちは主人が私でもいいのかい?」


「グルル」


「人族が君たちにひどいことをしたのに、信じてくれるのかい?」


「グルル」


「そうか、ありがとう」


 そこから主従の儀式が行われた。


 ってか? あれ?


 旦那様が1人で契約している。そして、タイラともう1匹の首にはまった首輪がピカァーッと光ると契約が結ばれた。


「よろしくね」


「はい、ありがとうございます」


 タイラともう1匹がその場で伏せをすると、旦那様はその頭をなでてからポーションをかけてやる。


「タイラ君とそれから」


「タイナです、ご主人様」


「タイナちゃんだね」


 旦那様が「うんうん」とうなずいて、オーティス商会の職員を見た。


「2人にボアの肉をあげてくれるかい?」


「かしこまりました」


 オーティス商会の職員が頭を下げると、旦那様は「ありがとう、よろしくね」と言う。それからタイラとタイナを見た。


「これから私たちは家族だから何かあれば遠慮なくいってね」


 旦那様がそう言うと、タイラとタイナは顔を見合わせて涙を浮かべた。


「「ありがとうございます」」


 そのあとで出されたボア肉をタイラとタイナが勢いよく食べ始めると、旦那様は俺に「あとはよろしく」と言って屋敷に戻っていった。


 すると「アニキ」とタイラが声をかけてきた。


「なに?」


「このまえはその「すみませんでした」」


 そう言ったタイラとタイナが頭を下げるので、俺は「いいよ、気にしてないから」と言った。


「それよりも俺のせいで、ごめんね」


「「えっ?」」


 そうだよな、俺の都合で2人はこんな目にあったんだ。


「王子に実力がバレないように大人しくしているつもりだったんだ。本当にごめんね」


「やめてください。俺たちが身の程を知らなかっただけです。放り出されてよく分かりました。俺たちは弱かった。与えられた物でトウゴツに進化して強くなった気になっていたんです」


「そう、だからみんなは……」


 タイナがギュッと顔をしかめると、タイラがタイナに寄り添う。


「どうする? 先にブラックドッグ領に帰る?」


「えっと?」


「ここにいたらフォレスト子爵と顔を合わせるし、きっと嫌な思いもするだろ?」


「そうですね」


 タイラが首肯したが、タイナは「アニキが私を鍛えてくれないか?」と言った。


「うん?」


「私が弱いせいでみんな死んだ。私は強くなりたい。もう仲間を、タイラを失わないように」


 真っ直ぐにタイナが俺をみるので、俺は「わかったけどさ」と言う。


「仲間の死はタイナのせいじゃないよ」


「だけど……」


「やる気になるのはいいけど、気負うのはダメだ。それにきっとタイナだけがすごく強くても、ほかの子たちはやっぱり生きてはいけなかったと思うよ。それが森なんだ」


「アニキ」


「タイラと2人で強くなればいい。支えあって背中を預けあって」


 そう言った俺がタイラを見るとタイラは「がんばります」と笑った。

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