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娯楽③

 魔法を教わったあとで、魔物の解体をしているオーティス商会の従業員に合流してから解体をして、魔石はバリバリと食べた。


 夕方になって伯爵家に戻ると、アルの側近たちに囲まれた。


 うん?


 俺が見上げながら首をかしげると、アルの側近の1人が「あのぉ」と言う。


「少しご相談があるのですが?」


「俺にですか?」


「はい、それとできればオーティス商会の皆さんも相談に乗っていただきたいのですが」


 俺が「わかりました」と答えてオーティス商会の従業員を見るとうなずくので、俺たちはそのまま応接間に通された。対面するように座ったアルの側近がコホンと咳払いする。


「ご相談というのはですね」


「うん」


「えっと殿下とギルバート様が遊んでいらっしゃるゲームのことなのですが」


「うん」


「なんと申しますか、そのぉ」


 そこまで言った側近は、暑くないのにかいている汗を拭いた。


「いいですよ」


「「えっ?」」


「アルが考えたことにしたいんですよね?」


 俺がそう聞くと、今度は俺に並んで座っていたオーティス商会の従業員たちが「えっ?」と驚いた。


「本当によろしいのですか?」


「うん、いいですよ。ただし、アルが考えたことにするにあたってこちらから条件があります」


「もっ、もちろんです。どのような条件でしょうか?」


 側近たちが前のめりになると、オーティス商会の従業員たちが引いているが、俺は気にせずに続ける。


「1つは商品化するまえに俺が相談に乗ったということにして、ブラックドッグ家への貸しにしてください」


「貸しですか?」


「はい、あとでなんらかの形で返してもらえればいいので」


「それはなんらかの便宜を図ったり、ブラックドッグ家がやらかしたときに目をつぶれってことでしょうか?」


「そうです」


 俺がうなずくとオーティス商会の従業員から「えげつない」という声が聞こえた。


 いやいや、なんとでも言ってくれたまえ、こっちとしては今回の件で懲りたからね。


 しかもブラックドッグ家はもう貧乏ではない。だから正直お金よりも免罪符がほしいのだよ、免罪符が。


「わっ、わかりました。ほかの条件は?」


「オーティスに話を通してもらい、売り出す商会はオーティス商会が指定した商会にしてください」


「えっと? オーティス商会が売り出すのではなくてですか?」


 側近がそう聞くので、俺が「そうです」と答えると、オーティス商会の従業員が「なぜですか?」と聞いてきた。


「だってさ、オーティス商会には積み木があるし、これから凧の販売も始まるよ。そこにまた新たな玩具では手が回らないし、あんまりにもオーティス商会から新しい商品が続くとほかの商会から不満が出るだろ?」


「それはそうかもしれませんが……」


 オーティス商会の従業員が言い淀むので、俺は「じゃあ」と言った。


「その辺りはオーティスと相談して、俺はこの機会にほかの商会に大きな借りを作りながら、不満を分散してもらったほうがいいと思うけど、どうするかはオーティスたちに任せるから」


「わかりました」


「うん、よろしくね」


 俺がそう言って笑うと、アルの側近は「ほかの条件は?」と聞く。


「いや、以上だよ」


「「えっ?」」


「うん?」


「いや、それではなんと言いますか? ポチ様に得がないのではないですか?」


「うーん、俺はアルの友達だからね。友情には損得とか関係ないでしょ?」


「よろしいのですか?」


「うん、いいよ」


 俺がうなずくとアルの側近は「ありがとうございます」と頭を下げた。


「それで、商品化するにはどのような形にすればよいでしょうか?」


「うん?」


「えっと……」


 おいおい。


「もしかしてアイデアはゼロなの?」


「はい」


「いやいやいや、マジか?」


 俺が呆れると隣に座っていたオーティス商会の従業員がガシガシと頭をかいた。


「それで新しいゲームとはどのようなものなのですか?」


「そうだね、アルとギルって、まだ遊んでますか?」


 俺が聞くと、アルの側近は「やってます」答えた。


「じゃあ、オーティス商会のみんなに見てもらった方が早いと思うんですが」


「わかりました」


 ということで、アルの部屋に移動した。俺たちが部屋に入ると『オセロ』をしているギルが俺をみて手を上げる。


「おぉ、ポチ、おつかれ」


「いやいや『おつかれぇ』じゃないだろ? 今日はずっとやってたのか?」


「あぁ、そうだ。それほどにこれは面白い」


「いや、いいけどさ」


 この国の王族はみんな暇なのか? 


「じゃあ、やっているところを見せてもらうよ」


 ということでアルとギルが『オセロ』をやるのを見ていたが、オーティス商会の従業員のみんなもやりたそうなので、チェス盤をもうひとつ用意してもらって順番でやってもらった。


「ポチ様、これは……」


「うん?」


「やばいですね」


「そう?」


「はい」


 オーティス商会の従業員たちもハマったらしく、みんな笑って『オセロ』をしているので、しばらく放っておいた。


 まぁ、こっちの世界は娯楽が少ないもんね。


 するとアルの側近が「それで」と聞いてきたので、俺は「そうですね」と答えて、主役の座を奪われたチェスのコマを手に取った。


「チェスのコマに使っている石って貼り合わすことってできますか?」


「貼り合わせる? あぁ、白と黒ですか?」


「うん、銀貨と同じぐらいの大きさで張り合わせて裏表が作れるならコマはそれでいいんじゃないかと」


「確かに色が違えばわかりやすくなりますね」


「うん、盤はチェス盤をそのまま使えるけど、販売するなら別にしたほうがいいかも。サイズを変えて縁にコマを入れておけるようにしたらどうですか?」


 俺がそう言うとアルの側近が「なるほど」とうなずく。


「あと住み分けをするには素材を分ければいいのかなぁ、チェスは木製が多いのですか?」


「そうですね。高価な物は石やクリスタルですが、一般に流通している物は木製ですね。やはり値段を抑えるなら加工がしやすい木製ってことになります」


「うーん、一般への普及を考えるとそうなりますよね。例えば木製で作るならコマは表と裏を塗り分けて、あとは色をつけずに色の薄い木と濃い木を貼り合わせて作ってもかっこいいかも」


 俺はそこまで言ってから腕を組んだ。


「そんな感じかな? あとはここら辺をたたき台にして販売する商会と相談されたらいいと思います。販売のほうは材質を高いものにして、コマや盤に飾りを入れたりして高級な物から販売ですかね」


「わかりました。ありがとうございます」


 アルの側近が俺に頭を下げると、ギルが「だけどよぉ」と言う。


「なに?」


「これはアルが考えたことにするんだろ? だったら俺にもなにか考えてくれよ」


「なんで?」


「『なんで?』ってお前、アルだけずりぃだろ?」


「うん?」


 俺が首をかしげると、ギルが「おいおい」と苦笑いする。


「あのさ、アルは誰?」


「誰って」


 俺が「うん、うん」とアゴで側近たちを示すとギルは「王太子だな」と言う。


「そうだ、つまりは次期国王。ギルは?」


「公爵家の三男坊」


「ということは?」


「わかった、わかったよ。でもちょっとぐらい考えてくれてもいいじゃねぇか?」


「うーん」


 確かにギルだけなしはかわいそうかもね。


 俺が「そうだね」素直に首肯すると、ギルは「えっ?」と驚いた。


「ちょっと奥様とオーティスと相談する」


「なにを?」


「いや、凧をギルが考えたことにできないか? と思ってね」


「おい! マジか?!」


「うん、だけどあまり期待しないでね。あくまでも相談するだけだから」


「いや、マギーなら譲ってくれるさ。母さんに貸しを作りたいだろうからな」


「うん、そうだとは思うけどヘタをするとギルのところの兄さんに取られるんじゃない?」


「あっ!」


 ギルがそう言って唖然とした。そして「ありえるな、すごく」と椅子から崩れ落ちて床に手をついてうなだれる。


 いやいや、それはオーバーじゃないか?


 するとアルがそんなギルを見下ろしながら「ギルはいいからさっさと次やってよ」と言った。

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