アンデッドの森①
翌日、前日と同じ森に行くと、再びゾロゾロとアンデッドが出てきた。
「おいおい、マジかよ」
俺がそう呟くと、近くにいたオーティス商会の職員が「ありえるのですか?」と言う。
「いくらなんでも1日で同じような量のアンデッドが出てくるなんてありえないね」
「そうですよね?」
「うん、この森は絶対になにかおかしい……」
俺はそう言ってからタマとジローを見た。
「2人とも、一応警戒してくれる? たぶん大丈夫だと思うけど、もしかすると奴ら、昨日とは違う動きをするかもしれない」
「「わかった」っす」
2人がうなずくので、俺は弓を構えた。矢をつがえて弦をキリキリと引っ張ると、狙いをつけてパァンと弾く。
ヒューッと飛んでいった矢が、バンバンとグールやアイアンスケルトンを蹴散らして、最後にストンとカダベルの頭に突き刺さった。
「いやいやいや、変わらないのが逆に怖いね」
俺がそう言うと、タマも「そうっすね」と言う。
「なんなんだ、こいつらは?」
背中に何かがゾゾゾッと通って、俺はブルッと身震いした。
「アニキ?」
「あぁ、ごめん。とりあえず倒そうか?」
俺たちは昨日と同じ要領でアンデッドたちをすべて倒して、オーティス商会の職員が解体を始めた。
ここまでは昨日と変わらない。
「悪いんだけど、解体は任せてもいい?」
「はい、ポチ様たちは森を調べるのですか?」
「うん、このままにしておくのはあまりにも怖いからね」
「そうですよね」
オーティス商会の職員がそううなずく。
そうだ。だって、こんなヌルゲーを空の上で俺たちを見て楽しんでいるあいつが許すわけない。
「でも気をつけてくださいね」
「うん、ありがとう」
俺はうなずいて、タマとジローと3人でその森に近づいた。すると「止まれ」と声をかけられた。
「うん?」
「お前たちには無理だ」
俺とタマとジローが振り返ると、そこにはスケルトンが立っていた。
おいおい、マジかよ。っていうか、まずいね。
俺がシミターを抜くと、スケルトンは「遅いな」と言いながら手を振るった。
なっ!
ボワァと体に熱を感じたあとでズンと衝撃がくると、俺は吹き飛ばされていた。チリチリと皮膚がひきつる。
アイアンスケルトンの残骸にガシャンと飛び込んで止まると、俺は「よっこらせ」と跳び起きる。
「あんた、何者だ?」
「お前たちにこの森はまだ早い」
「うん?」
俺が首をかしげると「立ち去れ!」と叫ぶ。
「できることなら俺たちもそうしたいんだけどね。王命で派遣されているからさ、帰るわけにはいかないんだよ」
俺がそう言うとスケルトンは首をかしげた。
「お前たちはフォレスト伯爵の従者じゃないのか?」
「違うよ。ブラックドッグ家の者だ」
「ブラックドッグ家の従者がなぜ派遣されている?」
「フォレスト家がアンデッドに手を焼いているからって王命で呼ばれたんだ」
俺がそう答えると、スケルトンはまた首をかしげた。
「意味がわからないな」
「うん? いやいやだから伯爵家のタイガーが弱いから、俺たちが呼ばれたんだって……」
「いや、それはわかった」
スケルトンはカタカタと笑う。そして、もう一度「立ち去れ!」と言った。
「だから無理なんだって」
「ふん、お前たちにはまだ早い。せめてBランクに進化しろ、それでも足りないかもしれんがな」
「この森にはなにがあるの?」
俺がそう聞くとスケルトンはまたカタカタと笑う。
「フォレスト伯爵に聞け」
「はぁ?」
「フォレスト伯爵に」
「いやいや、聞こえたよ。伯爵が知っているってこと?」
「そうだ」
スケルトンがうなずくので、俺は「なんで?」と首をかしげた。
「本人に聞け」
「うっ」
「どうした?」
「えっと、いろいろあって聞きづらいんだよ」
「なんだ? いろいろって」
俺が困るとスケルトンは楽しそうに聞いてくる。
「うん、ゴブリンだからって絡まれてさ、身に振る火の粉を払ったら怒られてさ」
「それで?」
「勝負したんだけど、伯爵はいま子爵なんだ」
「はぁ?」
スケルトンが首をコテリとかしげると、俺は「いやいやだから」と続ける。
「俺たちが賭けに勝ったからフォレスト伯爵は子爵に降爵させられたんだ」
「なるほど、それではお前たちは嫌われているな」
「うん、それはもう盛大に嫌われていると思う」
俺がそう言うとスケルトンは「クックックッ」と言ったあとで盛大にカタカタカタカタと笑う。
「あのさ」
「なんだ?」
「人の不幸を笑うなんて性格悪いね」
「うん? あぁ、すまんな。俺はフォレスト伯爵、いや、いまは子爵だったな」
と言ってまた「プフッ」と吹いた。
「奴に恨みがあるからうれしくてついな」
「恨みがあるの?」
「あぁ、盛大にな」
スケルトンはポリポリと頭蓋骨をかいて、それからもう一度「お前たちにこの森はまだ早い」と言った。
「Bランクに進化して、もう少し魔法の扱いを学べ」
「魔法の扱いなんだけどさ」
「うん? なんだ?」
「教えてくれない?」
「はぁ?」
スケルトンはカパッと口を開いた。
「だから、魔法の扱いかたを教えてくれない?」
「本気で言っているのか?」
「うん」
「なぜ、俺に頼む?」
「だってさ、あんたなら魔物の魔法に詳しいだろ?」
俺が言うと、スケルトンは「ほぉ」と笑う。
「ゴブリンでは人族の魔法は難しいんだよ。詠唱は細かい発音ができないし、イメージだけでいけるはずの初級魔法も発動しないんだ」
「そうだろうな。そもそも言葉が違うから元から魔物のお前たちに人族の詠唱は無理だ。それにイメージによる魔法の具現化は体の外の物質への魔力的な干渉が必要だが、残念ながらゴブリンにそれは無理だ」
「えっ?」
おいおい、またかよ。ゴブリン、ゴブリンってなんなんだよ。まったく。
「つまりゴブリンに魔法は使えないってこと?」
「そうだな、一般的に考えられている類の魔法は使えない」
嘘だろ? おい!
「そこをなんとかならないの? だってさ、この世界で戦うのに魔法が使えないなんて、そんなのもう詰んでるじゃん」
「そうだな。だが一般的に考えられていない魔法ならつかえる可能性があるぞ」
「もしかしてそれってば、サポートのこと?」
俺が聞くと、スケルトンは「サポート?」と聞き返してくる。
「うん、魔力で補助することで速く動いたり、石を速く投げたりとかはできるよ」
「なるほど、部分的には開放できているのか?」
「うん?」
「まぁ、いいだろう。それにしても、ゴブリン王のシミターを持つゴブリンに、火の加護持ちのフォックス、それから土の加護持ちのボア」
スケルトンは「お前たちは、その、なんだ、ずいぶんとおかしな組み合わせだな」とまたケラケラ笑う。




