ギルとアル
勝負のあとで、与えられた部屋で休んでいるとギルが来た。
肩を怒らせて入ってくるなり、俺の後ろ襟をつかむ。
「なに? なに? どうしたの?」
「『どうしたの?』じゃねぇ! ちょっと、来い!」
するとそのまま引っ張られて、殿下の部屋まで連れてこられた。そして、気まずそうに俺をチラチラと見る殿下の前に「とりあえず、座れ」と正座させられる。
「ギル? これはなに?」
「いいから黙ってろ!」
ギルはそう言うと殿下を見た。
「アル、この馬鹿に言ってやれ!『お前の命を救うにはあれしか方法がなかった』ってな」
「えっ?」
俺が驚くと、殿下はポリポリと頭をかいた。
「ポチはさ、伯爵を怒らせただろ?」
「うっ」
「君はあくまでも子爵家の従者なんだ。上位の貴族を怒らせてタダで済むと思うの?」
確かにそうだね。しかも俺はゴブリンだ。魔物の命などすぐに奪われるだろうね。
「そうか、勝手に命をかけられたんじゃないくて、なんとか伯爵の自尊心をくすぐって殿下が賭けにしてくれたのか?」
俺が聞くと、殿下は「うん」とうなずく。
「マジか? 俺は馬鹿だな」
俺が苦笑いを浮かべると、ギルが「そうだ。大馬鹿やろだ」とうなずく。
「いやいや『大馬鹿』は言い過ぎじゃない?」
「言い過ぎじゃない!」
「まあ、そうか。殿下は命の恩人なのにひどいことを言ったからな」
「そうだ」
ギルがうなずくので、俺は殿下に「ごめんなさい」と謝って「命を助けてくれてありがとう」と言った。
「ポチ」
殿下はほほえむと「友達になってくれる?」と聞くので、俺は「もちろん」と答えた。
まあ、殿下は命の恩人だからね。
すると泣きそうな顔をした殿下が立ち上がって、正座している俺にガバッと抱きついた。
「うん? あのぉ、俺はそっちの気はないよ」
俺がそう言うと、ギルがバシッと俺の頭を叩く。
「えっと、なんで?」
「『なんで?』じゃねぇ!」
ギルはそうツッコミを入れてから「プフッ」と笑った。
「だけど、良かったな、アル。2人目の友達だ」
「うん」
「うん?」
いやいや、ちょっと待て、今なんと言った、ギルバート! 聞き捨てならないことを口走ったんじゃないのか? お前は……。
「おい! ギル、お前。俺が2人目と言ったのか?」
「あぁ、言ったな」
「いやいやいや『言ったな』じゃないだろ? まずいってそれは……」
俺が言い淀むと、ギルが「アルはいいんだよな?」と殿下に聞く。
「うん」
おいおい。
「いやいや、もしかしなくても1人目はギルなんだろ?」
「うん」
「待とう、ちょっと待とうか? いやいやいや、まずいって、殿下の2人目の友達がゴブリンとか、ダメなんじゃないかなぁ? いや、間違いなくダメだって」
「えっと、ダメなの?」
殿下がウルウルしながら俺の顔を覗き込む。
「いやぁ」
「ダメなの?」
「えっと……」
俺は「はぁ」と息を吐いた。
「ダメじゃないです。よろしくお願いします」
俺がそう言うと「やったぁ」と言った殿下がもう一度抱きついてくるので、とりあえず背中をなでる。
大丈夫だよね? ゴブリンになったからショタもいける口になってたりしてないよね?
「よし、じゃあ、3人で積み木やろうぜ」
とギルが言い出して、俺たちは3人で『ジェンガ』を始めた。
全て積み上げてから俺が「さあ、かかってこい」と言うと殿下あらためアルが「なにソレ?」と首をかしげた。
「ふん、お前たちはこの俺に挑んでくるのだろう? 胸を貸してやろうではないか? 積み木の深淵を見せてやろう」
「てめぇ、ポチ」
「ファーファファ」
俺がそう言って体をそらしてから『ジェンガ』がスタートした。だけど、もちろん俺が負けるわけない。だって俺だけ積み木のサイズが微妙に違うことを知ってるからね。
「なんでポチはそんなに強いの?」
アルが耳打ちしてきたので、俺はアルに「積み木のサイズが微妙に違うんだよ」と答えた。
「えっ? 嘘だよね?」
「いや、嘘じゃないよ。わざとそうなるように調整してあるんだ」
「そうだったのか」
アルがうれしそうに笑ってそこからはもちろんギルの1人負けになった。
「おい! なにを教えた? おかしいだろうが!」
「うん?」
「『うん?』じゃねぇ!」
「勝てないからって怒るなんて大人気ないよ、ギル」
「お前なぁ、アルにだけ必勝法を教えといて、そりゃあ、ねぇだろ?」
「えーっ」
「『えーっ』じゃねぇ!」
ギルがそうツッコミを入れるので、俺は「仕方ないなぁ」と笑う。
「おいおい」
「積み木はね。わざと1つ1つのサイズを変えてあるんだ。だから抜きやすいやつと、抜きづらいやつがあるんだよ」
「マジかよ」
ギルが目を見開くので、俺は「マジだよ」と答える。
「そんなのズルじゃないか?」
「いや、同じサイズだと全部が抜きづらいし、運ゲーになるから面白くないんだよ」
「そうなのか」
ギルが納得して、そこからはいい勝負になった。
「やっぱり楽しいね。ポチはすごいよ」
「そう?」
「うん」
あんまりにも無邪気にそう言われると前世の真似をしているだけの俺としては申し訳ないのだが、まぁ許してもらおう。
「ほかにはなにかないの?」
「うーん」
すぐにできるものか、トランプのほかのゲームでもいい気もするけど、せっかくだから……。
「チェス盤ってある?」
「あるよ」
アルがそう答えるとギルが「チェスは難しいからな」と顔をしかめた。
「うん、だからもっと簡単なゲームをやろうか?」
「簡単なゲーム?」
俺はギルにうなずいて「銅貨ってある?」もアルに聞いた。するとアルは壁に張り付いていたランスを見る。
「ランス、銅貨ある?」
「いえ、申し訳ありません。銀貨ならご用意できますが」
ランスがそう答えるので、俺は「銀貨でもいいので、64枚用意できる?」と聞いた。
「あぁ、持ってこよう」
ランスが取りに行って、それからアルがチェス盤を用意した。
「どうするの?」
「うん、まずは銀貨を真ん中に4枚置いて」
俺は裏表が交互になるように真ん中に銀貨を置く。そう『オセロ』もしくは『リバーシー』と呼ばれる例のアレをやることにした。
交互に置くこと、挟むと裏返ること、最終的にこちらに向いている絵柄が多い方が勝ちなことなど簡単な説明をしてゲームを始めた。
子供は理解が早い。あっという間に2人とも覚えてゲームは白熱した。
「面白い」
「マジかよ、これ?」
2人が俺を見ると、ランスがソワソワし出した。
「もしかしてランスもやりたいの?」
「なっ、なにを言っている。そんなことはない」
「あっそう。じゃあ、別にいいけど」
俺がそう言うと「お前!」とにらむ。
「やりたいなら素直にやりたいって言えばいいのに」
俺がそう言うとアルがランスのところまで行った。
「ランス、一緒にやろう」
「ですが、殿下。私は護衛なので……」
「いいからやろうよ、ここにはポチもいるし、襲われても2人がいれば大丈夫だろ? 僕がランスとやりたいんだ」
「殿下」
ランスはその場でひざまづくと「お供いたします」と言った。
おいおい、そんな大袈裟な話じゃないだろ?
そして、アルとランスの『オセロ』が始まる。
なかなかいい勝負をしているが、先にやっていたアルのほうが若干優位に見える。時々ランスが「ムムムッ」と考えているが、アルはずっと楽しそうだ。
「ポチ、ありがとな」
「うん? なにが?」
「いや、アルと友達になってくれて」
ギルがそう言って笑うので、俺は「お前」と言う。
「こうなることがわかっていて、アルに俺の話をしたんだな」
「うん? なんのことだ?」
マジかよ、まったく。
俺はそう思いながら、楽しそうに『オセロ』をしているアルを見た。
まぁ、いいか。




