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勝負②

 数日後、伯爵から指定された森に着くと、アンデッドがワラワラと森から出てきた。ガイコツみたいなスケルトンと歩く死体みたいなゾンビがいる。


 だけどさ……。


「スケルトンってさ、あんなにメタリックなの?」


 俺がそう問いかけると解体要員で来てくれたオーティス商会の職員が「いや」と苦笑いを浮かべた。


「あれはみんな上位種のアイアンスケルトンですね」


「じゃあ、あの銀色の奴らは」


「はい、Cランクのシルバースケルトンです」


「えっと……嘘だよね? あれが全部DとCなの? じゃあさ、ゾンビは?」


「はい、緑色がDランクのグールと青色がCランクのカダベルですね」


「おいおい、マジかよ」


 俺が苦笑いを浮かべると、職員は「やられましたね」と笑う。


「うん? どういうこと?」


「どう考えてもトウゴツでは無理ですよね?」


「あぁ、なるほど、そういうことか」


 勝負は討伐数だからね。


「さてと、どうしようかなぁ」


 俺は笑ってから弓を構えた。


「頭が弱点です。できたらCランクは頭を破壊してもらえるとありがたいです」


「わかった、やってみる」


 魔力でサポートして、パァンと矢を放つ。


 ヒューン!


 バシバシとグールの頭を落としながら進んだ矢がストンとカダベルの頭部に刺さるとカダベルが倒れた。


「いけそうだね。よし、Cランクは俺がやるからタマとジローは近づいてくるDランクを蹴散らしてくれる? あまり前に出ないでね、誤射が怖いから」


「「わかった」っす」


 俺はオーティス商会の職員から矢を受け取りながら、次々に放ってカダベルとシルバースケルトンを倒す。ついでに射線上のグールやアイアンスケルトンも倒した。


 タマも近づいてくるグールの頭を爪で次々に落としていき、アイアンスケルトンは硬化したジローのぶちかましでバラバラになって、ジローにその頭を踏み潰された。


「ポチ様たちは、恐ろしい強さですね」


「えっ?」


 俺が矢を放ちながら聞くと、オーティス商会の職員が「すごいですよ」と笑う。


「相手はCランクとDランクの群れなんですよ? それがまるで雑魚みたいに倒されていく」


「だけどさ、きっと奴らは数の力で進化したんだよ」


「数の力」


「うん、大群で押し寄せて魔物たちを倒して結果的に進化しただけなんだ。しかも、Cランクが指示を出している様子もないし、仲間が倒されて周りが怒る様子もない」


「群れってわけでもないってことですか?」


「うん、たぶんね。ただまとまって動いたほうが得だから一緒に動いているだけなんだよ。それにもしかしたらアンデッドは知力が極端に低いのかもね」


 俺がそう言うと、職員は「それぞれが考えなしに勝手に動いている」と呟いた。


「そういうこと」


「一射でそのことに気がついたのですか?」


「うん?」


 俺は次の矢を放って「そうだね」と首肯する。


「BランクがいないのにやたらとCランクがいるからさ。もしかしたら統率されていないのかなって思って、それで手前にいたカダベルを倒してみたんだけど、やっぱり動きがないから間違いないなって思ったよ」


 俺が笑うと、職員が「マジっすか?」と言う。


「うん、これだったら、Cランク1匹に統率されたDランクの群れのほうが怖いと思うよ」


 次の矢をつがえながら俺はそう言って、すぐに放った。


 アンデッドはただ押し寄せてくるだけの集団だ。これなら連携してくるビーの群れのほうが怖かった。


「兄さんたちにまたいい土産ができそうだよ」


「魔石ですか?」


「うん、もし伯爵の領地の森にどこもこれと同じような数のアンデッドがいるならCランクだけを食べても俺たち3人はBランクに上がるだろうから、Dランクの魔石はお土産だね」


 そう答えた俺が、再び矢を放つと職員は「いよいよ」と言った。


「ポチ様もレッドキャップになるんですね」


「うん? レッドキャップ? 確かゴブリンのBランクはルペルペタスだよね?」


「そうです。褐色の肌に赤眼、赤髪のゴブリン。人族は畏怖を込めてレッドキャップと呼ぶんです」


「レッドキャップ……」


 そう言われて、サンタコスを思い出したのは俺だけなのだろうか? やっぱりカーネルサ、いやいや、ここはギャルを想像しよう。もちろんミニスカの。


「なんか強そうだね」


 いろんな意味で……。


「もちろん強いですよ。なにせBランクですからね」


 Bかぁ、Bもいいよなぁ、でもできればC、というか、あわよくばD……って、おい!


 俺が自らを律しながら弓を放つと、バシバシとグールとアイアンスケルトンが倒れて、スコンとシルバースケルトンの頭に刺さる。


 うん、俺の煩悩と一緒に浄化されてね。南無。


「なんか、今のは威力がすごくなかったですか?」


「きっ、気のせいじゃないかな……たぶん」


 そこからも俺の煩悩と共に、シルバースケルトンとカダベルはスコスコと倒されて、森から出てきていたCランクはあらかた倒し終えた。


 いやいや、どんだけいたんだよ。もしかして、108?


「じゃあ、あとは前に出るからみんなは倒し終わるまでここにいてくれる?」


「わかりました。御武運を」


「うん、ありがとう」


 俺は弓を置いてシミターを抜くと、タマとジローが待つ前線に躍りでた。


「お待たせ」


「「アニキ!」」


「それじゃあ、残りも片付けようか?」


 そして、俺はシミターで次々にグールとアイアンスケルトンの頭を落としていく。


 昼すぎには森のまえを埋め尽くしていたアンデッドたちは、俺たちがすべて倒した。


 オーティス商会の職員と一緒に解体と回収を終えて伯爵の屋敷に着く頃には日も暮れかけて、門のまえで自信満々で待ち構えていた伯爵の顔もオレンジに染まっていた。


「嘘だよな?」


「なにがですか?」


「その荷台に乗せられた布袋すべてが魔石ってことはないよな?」


「あぁ、半分ぐらいでしょうか? あと半分は細かい素材だそうですよ」


 俺が答えると、伯爵は「嘘だろ……」と呟く。


「お前に向かわせた森はCランクとDランクの巣窟だ。こんなに倒せるわけないだろ? どんな手を使った? よその森に行ったのか?」


「いえ、中身を見てもらえればわかると思いますが、指定された森で狩ってきましたよ」


 俺が言うと、伯爵はもう一度「嘘だろ……」と呟く。すると殿下がその様子を見ながらヘラヘラと笑って「じゃあ、確認しようか? 伯爵、わかっているよね? 君たちが負けたら降爵だ」と言う。


「「はぁ?」」


 俺たち全員が驚くと、殿下が「なにを驚いているんだ?」と言う。


「いやいや『降爵』ってなんですか?」


「あぁ、どうしても自分たちが勝ったらポチを処刑させろってうるさいかったからね。その代わりに伯爵家が負けたら伯爵から子爵に降爵にすることにしたんだ」


「えっ?」


 俺は驚いてから「嘘ですよね?」と聞く。


「いや、嘘じゃないよ」


「いやいやいや、伯爵は馬鹿なんですか? なんでそんな馬鹿げた賭けを……」


「負けるわけないと思っていたんだよ。さっきの話だとポチたちをCランクとDランクしかいない森に向かわせたんでしょ? そこまでズルして負けたんだ。嫌とは言わせないよ」


 殿下はそう言うとニヤニヤと笑う。すると、屋敷から女性の悲鳴が聞こえた。


 まぁ、そうなるわな。


 そして、伯爵がその場で土下座した。


「殿下、お許しください。降爵だけは……」


「あのさ、ポチの処刑と何度も言ったのは誰? 僕は考え直すように言ったよね?」


「しかし……」


「悪いけど覆すのは無理だよ。陛下から許可も頂いたし、そのために立会人も呼んでしまったのだからね」


 殿下がそう言うと、殿下の後ろに控えていた髭を蓄えたいかにもな人がうなずく。


「とりあえず確認を行いましょうか? ゴブリン1匹の命に爵位をかけるなど馬鹿のすることですが、あなたのしたことだ。私はそれを見届けて、陛下にお伝えするだけです」


 髭の人がそう言うと、俺は殿下を見た。


「というか、殿下は、勝手に俺の命をかけたのですか?」


「うん? だけど、負けないでしょ?」


 おいおい、マジか? やっぱりやばいな王族は……。


 そのあとに俺たちが狩ってきた魔石の確認が行われて、俺たちの圧勝だった。


 伯爵家の魔石はすべてEランクの魔石なのに、俺たちの5分の1にも満たないなんて、爵位をかけるほどの自信はどこから来たんだよ。


 俺とタマとジローが確認を終えたCランクの魔石をバリバリと食べていると、殿下が寄ってきた。


「ポチ、友達になってくれない?」


「嫌だよ」


「なんで?」


「いやいや、逆になんで友達になれると思うの?」


 俺が聞くと殿下は「怒っているの?」と聞いた。


「うん、怒ってるよ。勝手に命をかけられて怒らない奴なんていないと思うけど?」


 俺がそう答えると、殿下は目を見開いて、それから「そう」と呟く。


「僕は……いや、ごめんね」


 殿下はそう言うと寂しそうな顔をしてから屋敷に戻っていった。ランスがにらんできたが、譲るつもりはない。簡単に命なんてかけられたら命がいくつあっても足りないよね。

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