成長③
翌日、目が覚めると俺に抱きしめられていたタマの体の毛が真っ白になっていた。そして、俺の体の色が土色に……。
「うん? 寝ているあいだに俺たちはアンデッド化したのか?」
「なにを言っているんっすか?」
「いやいや、だって……タマ、真っ白だよ」
「そうっすね。Cランクのゴコウシになったっす」
「ゴコウシ、まぁ、確かにタマはツヤツヤな白い毛並みだからアンデッドではなさそうだね」
俺はうなずきながらタマをなでると、タマは「そこは……ダメっす」と小さくもらした。
「だけどさ、俺の体の色はおかしくない? 緑じゃなくなったよ」
俺がそう言うと、タマは「オーティスさんが魔物辞典と呼ばれる本で見せてくれたじゃないですか?」と笑う。
「紺色の髪と瞳で褐色の体のゴブリンはCランクのエクウェスですよ」
そして、テントの入り口近くで俺たちの風避けになるように丸くなって寝ていたジローは体の毛が青くなって、やはりCランクのアーマーボアに進化していた。
「3人ともCランクになったんだね」
「そうっすね。あの数の魔石を食べればならないほうがおかしいっすよ」
「そっか、魔力がかなり上がったかもね」
俺たちが笑うと、ジローは「フガフガ、もう食べられない」と寝言を呟いた。
「いやいや、ジローはまだ食べられるだろ?」
「フガ、食べられる」
ジローがそう答えると、タマが「アニキ、ダメっすよ」と止めた。
「うん?」
「寝言に話しかけると寝ている人があの世に連れていかれるっす」
「えっ?! そうなの?」
「そうっす」
タマがゆっくりうなずくので、俺はジローを見た。
「大丈夫かなぁ、ジロー死んだりしないよね?」
「一回ぐらいなら大丈夫っすよ」
「本当に?」
「はいっす」
俺がジローの顔に顔を近づけると「フガ」と鼻がなる。俺がそのまま心配してジローの顔を見ていると、タマが「フフッ」と笑った。
「アニキはジローが好きっすね」
「うん」
俺がうなずくとタマは「なっ!」と驚いた。
「否定しないんっすね」
「しないよ、ジローはもう俺の家族だから」
俺はそう言ってジローの頭をなでようとしてから、起こしちゃうのがかわいそうなのでやめて、代わりにタマの頭をなでる。
「だからタマのことも好きだよ」
「なっ?!」
タマが固まってギギギッと音がなりそうな感じでゆっくり俺を見た。
「本当っすか?」
「うん」
「本当に、本当っすか?」
「うん」
俺がうなずくとタマは「うれしい」とほほえんで、ガバッと俺に抱きついたのでそのまま背中もなでる。すると、ジローが答えるように「フガ」と鼻を鳴らして、モグモグと口を動かした。
「なにか食べているっすね」
「うん、幸せそうな顔しているね」
「そうっすね」
俺たちが笑うと、ジローは「フガフガ」と鼻を鳴らす。このまま見ているとまた話しかけてしまいそうなので、ジローは寝かせたままでテントの外に出て、進化の確認を行うことにした。
まずは体を加速してみる。
「アニキ?!」
「うん?」
「なっ、なにを、しているんっすか?!」
「えっと、加速を」
「わかっているっす!」
一気に木まで走ってダガーで傷をつけるつもりが、ダガーで半分ほどまで切られた木がメキメキと音を立てながら倒れて、ドシン! と音を立てた。
みんなが慌ててテントから飛び出してくる。
「まずい」
俺がそう呟くとテントからギルが出てきて「お前らは朝っぱらからなにやってんだ?」と眉間にシワを寄せた。
「ごめん、ちょっと進化でどのぐらい変わったのか? 調べてた」
俺がそう答えるとギルは「のわぁ」と驚いて、それから「ポチなんだよな?」と首をかしげた。
「ほかの誰かに見えるの?」
「まぁ、そうだな。こんな朝っぱらから訳のわかんないことをするのはポチぐらいだな」
「おい!」
俺はツッコミを入れたが、ギルはスルーして木を見た。
「それで、なにをした? まさか、その手に持っているダガーで木を切り倒したんじゃないよな?」
「うん?」
「『うん?』じゃねぇ! マジか?」
ギルにツッコミを入れられて、俺がダガーを見る。
「あれ?」
俺がそう呟くと、ダガーが3分の1ほど残してパリッと割れた。
「嘘」
「まぁ、そうなるわな」
「いやいやいや、これは」
俺が歩いてきた旦那様を見る。
「旦那様、すみません」
「気にしなくていいよ。どうせ倉庫に眠っていた物だからね」
「だけど……」
俺がそう言い淀むと「ポチが強くなってくれたことのほうがうれしいよ」と旦那様はほほえんで、オーティス商会の職員を見た。
「ポチが使えるダガーを見つけてもらえるかな?」
「はい、お任せください」
職員がうなずく。するとギルが「どんな物を探す気なんだ?」と聞いた。
「ポチ様は回避メインだと聞きますので、マインゴーシュがいいのではないですか?」
「ここは硬さメインでダイヤモンドダガーもありかもしれませんよ」
「いやいや、ポチ様はレジェンド級の『ゴブリン王のシミター』を持っているのだから、ここはレジェンド級のダガーを探してはどうでしょうか?」
職員3人がそう答えるとギルは腕を組んで「ポチはやっぱりゴブリンだし、手に入るなら『洞窟王のナイフ』か? 『盗賊王のダガー』だよな?」と言った。
おいおい。
「いやいやいや、そんな高そうな物はいらないからね。俺はただのゴブリンだし」
「だけどな、レジェンド級の品は丈夫だし、魔法的な効果も付与されている。中途半端な物を買ってすぐに買い替えるなら始めから良い物を買ったほうが安上がりだ」
「違うだろって、俺はただのゴブリンなんだからそもそもそんな高い物はいらないんだよ」
「ただのゴブリンなぁ」
ギルは薄目になりながら俺を見て、側近の騎士に「ダガーをよこせ」と言った。ギルの側近が「はい」とうなずいてギルにダガーを渡すとギルが俺に「ほれ」とダガーを投げ渡す。
「ミスリルダガーだ。試しに同じことをしてみろ」
「えっ?」
「どうした? ただのゴブリンなんだろ?」
俺は騎士を見て、それから手に収まっているダガーを見る。
「できないよ」
「なぜだ?」
「壊したら騎士さんに悪いだろ」
俺がそう言うと、ギルは「はぁ」とため息を吐いた。
「わかっているじゃないか。じゃあ、そのミスリルダガーを壊してしまうかもしれないお前が進化したら、マインゴーシュやダイヤモンドダガーが耐えられると思うのか?」
「えっ?」
「しかもお前は2ランク上のAランク、ミノムゲタスになるんだろ? だったら、アダマンタイトやオリハルコンを使っているレジェンド級の品物が必要だ」
ギルがそう言ったあとで「わかったのか?」と聞くので、俺は「わかった」とうなずく。
「よし、それじゃ、そのダガーは解体用に使え」
「えっと? これは騎士さんのじゃ?」
「ふん、そろそろダガーを壊しそうだと思っていたから、お前のために用意させておいたんだ。だけど、それで木を切ったりするなよ。絶対に折れるからな」
「わかった。ありがとう、ギル」
俺が礼を言うと、ギルは「気にするな」と笑った。




