ジロー②
馬車の旅路はやっぱり暇だ。なにせ馬車は遅い。しかも街道は所々で森を抜けるのだが、その度に警戒するのでさらに遅くなる。
「うーん、やっぱり無理」
「そうっすね」
ということで俺たちは偵察と称して前に出て、街道沿いの魔物を狩る。
とは言っても、ジローに乗って先に行って、両サイドの森からタマとジローが魔物を追い立てて、街道に出てきたボアやディア、フォックス、それからウルフを俺が弓で狩るだけなのではっきり言って作業だ。
とりあえず食べて、食べきれない分はみんな旦那様に同行しているオーティス商会の荷馬車に積み込んで、街道沿いの村に着くたびに少し振る舞ったりもした。
ブラックドッグ家の領地はそんな感じで進んだのだが、隣の領地に入ってからは違った。とりあえず森の手前の荒地で俺たち3人は森を見つめる。
「アニキ、あんな大量のビーがいたんじゃ、きっと普通の魔物がいないっすよ」
「そうだね。じゃあ、とりあえずあいつらを倒そうか?」
「えっと、でもかなりの量っすよ」
「うん」
俺はうなずくとジローを見た。
「俺とジローであいつらを引っ張ってくるから、一気にタマの『ファイヤーボール』で燃やそうか?」
「でもそんなに火力は出ないっすよ」
「それは大丈夫」
俺は荒地の地面に大きな円を書いた。
「ここに油を撒いて、タマはこの円の中にビーが入ったら火をつけてくれればいいから」
「それならできそうっす」
タマがうなずくので、俺たちはさっそく準備を始めた。荒地に油を染み込ませた枯れ草を撒いて、俺はジローに乗ると森に入った。
薄暗い森の中、すぐにビーの群れを見つけたので、とりあえず端からシミターで切り落とす。
ブーンという羽音が大きくなると、黒い塊が来た。
「嘘だよな?」
「フガフガ」
「やばい、やばい、やばい!」
ジローはすぐに逃げた。
「多すぎるだろ? アレは?」
岩を避けて、倒木を蹴散らして草むらを抜けた。
「あふぅ」
「フガ」
そして、森を抜けた。
「タマァァァァァァ!」
「はいっす!」
ボッと火がついた瞬間に、バチバチと爆ぜながらビーたちが燃えたが、俺は「タマ」と声をかけて、タマをジローの上に引き上げる。
「なんすか? あの量」
「わかんないけど、やばい!」
「ありえないっすね」
タマがそう言ったので、俺は「とりあえず逃げよう!」とジローに言うと、ジローは「フガ」と答える。
「タマは『ファイヤーボール』で応戦して、ジローは刺されないように注意するんだぞ」
荒野を激走したが、空を埋め尽くした黒い塊りはどこまでも追ってくる。
「くっそ、まずいね」
「そうっすね」
うなずいたタマの『ファイヤーボール』がビーの群れを捉えた瞬間にジローが「フガァァァ」と言いながら俺たちを振り落とした。
「ジロー?」
反転したジローがビーの群れに飛び込んでいく。
「ジロォォォォォォ」
叫びながら俺が追いかけて、焦ったタマも空に向かって『ファイヤーボール』を撃った。その『ファイヤーボール』が俺の振り上げたシミターをかする。
うん?
「えっと?」
「なんすか? それ?」
「わかんない」
シミターの刃が火をまとった。でも考えている暇はないので、そのままジローのあとを追いかける。
突進したジローがビーの黒い群れに包まれた。
俺はシミターを振るってビーたちを叩き切る。
「ジロォォォォォォォ!」
タマも『ファイヤーボール』でビーたちを燃やす。
バタバタとビーが地面に転がる。そして、俺たちがビーを次々に倒すと、ジローの姿が見えた。
うん?
ジローはイキイキとした顔で突進や後ろ蹴りでビーの大群を蹴散らし、囲まれながらも元気に暴れている。
「どうなってんの?」
「わからないっす」
俺とタマをそんなやり取りをしたあとも、どんどん目の前のビーを倒していった。全て倒し終えると、ジローが「フガフガ」と鼻をならす。
「あのさ、ビーの針は? 毒は?」
「そうっすよ、どうなっているんすか?」
俺とタマが詰め寄るとジローは俺を見た。
「アニキの加速の真似をして、毛を硬化した」
「「はぁ?」」
俺とタマが驚くと、ジローは「速くなるイメージ、無理だった。だから硬くなるのイメージした」と言う。
「おいおい、それで硬くなれたのか?」
「フガ」
「いやいや『フガ』じゃねぇよ、マジか!」
俺がそう言うとジローは「フガフガ」とうなずく。
「それは凄すぎるっすね。攻撃を受け付けないなら最強じゃないっすか?」
「たぶんアニキの投石は無理、それにネエさんの『ファイヤーボール』も無理」
「それでも充分すごいっすよ」
「本当だよ。すげぇよ、ジロー!」
「でも、やっぱりアニキがすごい」
ジローは「フガフガ」と鼻を鳴らして、俺のシミターを見た。
「あぁ、これな」
俺もシミターを見たが、まだ火をまとっている。
「どうなってんだ? これ?」
「わからない」
「わからないっすね」
「これ、振ると火が飛ぶんだよ。チートか?」
「「チート?」」
タマとジローが首をかしげるので、俺は「ズルって意味だよ」と笑う。
「確かに魔力を使わないで火を飛ばせるのはすごいっすね」
「いや、一応少しだけど魔力は使ってる」
俺が笑うとタマが驚いた。
「止めれば火が消えると思う」
俺がそう言って魔力を止めるとやっぱり火が消えた。
「なんか勿体無いっすね」
「いや、またタマに火をつけてもらえばできると思うよ」
そう言ってタマに火をつけてもらうと、またシミターが火をまとう。
「ほらね」
「いやいや、すごいっすね」
そう言ったタマが「また2人が強くなったっす」とうなだれるので、俺は「なに言ってんの?」と聞く。
「俺のシミターにはタマが必要だよ」
「アニキ」
「それに」
俺はそう言うと、ジローを見た。
「俺もジローも魔法を飛ばすことはできないからね。タマがうらやましいよ。なぁ、ジロー」
「フガフガ」
タマが「2人とも」と笑ったので、俺は「とりあえず食べようか?」と聞く。
「そうっすね」
「すごい量だから楽しみ」
そっからはビーの亡骸との格闘となった。倒されて地面に転がっている膨大な数のビーから魔石を取り出しては3人で食べる。
そして、追いついて来た旦那様たちには先に行ってもらい、残ってくれたオーティス商会の職員も目の色を変えながら解体の手伝いをしてくれた。
「ポチ様、ありがとうございます」
「うん? いやいや、こっちがありがとうだよ」
「なにを言っているんですか? こっちの緑色の奴はビーの上位種でDランクのアクス、結構な量こいつが混ざってますから素材がいい値になりますよぉ」
「そうなんだ」
俺が少し引きながらうなずくと、もう1人の職員が「話していないで手を動かせ、ほかのやつに取られるぞ」と言った。
ということで目の色を変えた職員たちのおかげで、あっという間に解体が終わった。
「ポチ様、ありがとうございます」
「だからいいって。こっちも助かったよ、本当にありがとう」
俺がそうほほえむと、職員たちは「あなたについて来て良かった」と涙を流し始めた。
うん?
「どうなってんの?」
「なんでも自分が集めた素材の1割が手当になるらしくて、少なく見積もっても今回だけで給料の3年分以上は稼げたそうっす」
「マジか?!」
「しかも3割はブラックドッグ家に入るので、奥様も喜ぶっす」
「おいおい、俺のところに還元されてないような……」
俺が言うと、タマが「なにを言っているんっすか?」と笑う。
「ジローの首輪に防具、それから鞍を買ってくれたじゃないですか? それに新しい小屋も建ててくれているっすよ」
「そうなの?」
「そうっす、今度は私たちの部屋とジローの部屋もあるっす」
「へぇ、それは楽しみだね」
俺がうなずくとタマは「そっ、そうっすね」とほほえんだ。




