ジロー①
旦那様とギルの取り調べのあとで応接間にオーティスが来て、奥様から凧の販売の許可をもらった。
話を聞いていた旦那様とギルが食いついて、あげ方を教えると2人が中庭で遊び始めたので、俺たちは屋敷の外の道に出てオーティスが持ってきてくれた鞍をジローにつけてみる。
「どう?」
「大丈夫だよ、アニキ」
「痛いところとかない?」
「ない」
というので、俺とタマはジローに乗ってみた。
「走ってみる?」
「ちょっ、ノォォォォォォ!」
急加速で体を思いっきり後ろに持っていかれたが、とっさに鞍をつかんで堪えた。
「アニキ、大丈夫?」
「むりむりむり、とまっ」
「とまっ?」
「止まっれ!」
俺が叫ぶとジローが地面をザザザッと削って止まるので、今度は体が前に持っていかれたが倒れ込みながらしがみついて堪えた。
「ジロー! いきなり走るな!」
「フガ?」
「『フガ?』じゃない!」
俺が言うとジローは首をかしげる。
「タマ、大丈夫か?」
「だっ、大丈夫っす。だけど、前が見えないから怖いっす」
「そうか、前に座るか?」
「えっ?」
タマはなぜか赤くなってモジモジしてから「試してみるっす」と俺の前に移動したので、俺は後ろからタマを抱きかかえる形で鞍をつかむ。
「ジロー、ゆっくりな。慣れてからだんだん加速してくれ」
「わかった」
「本当にわかっているよな?」
「わかった」
「まずはゆっくりだぞ」
俺がそう言うと、ジローが「フリ?」と首をかしげる。
「いやいや、フリじゃねぇ! ってか、そんなことどこで覚えた!」
「ゴブゾウ」
「まさかの兄さん!?」
俺が驚くと、ジローは「フガフガ」と鼻をならす。
「ゴブゾウが『ポチになんども念押しされたときはやれってことだって』言った」
「いやいや、それはマジで違うから、念押しされたらやるな! いいな?」
「わかった」
まったく『なんども念押しされたらやれってこと』ってどこのお笑い芸人だよ。
俺は苦笑いを浮かべてから「じゃあ、頼む」と言う。すると今度はゆっくりと歩き出したジローが、少しずつ加速していった。
「思ったより揺れないな」
「そうっすね」
タマがそううなずいて俺を振り返るが、ジローはさらにどんどん加速していく。
「おい! ジロー!」
「なに? アニキ」
「お前はどれだけ速く走るつもりなんだ?」
「フガ?」
「だから『フガ?』じゃねぇ!」
俺がツッコミを入れると、ジローは少しスピードを落としたが、かなり速い。おいおい。
「ジロー、このスピードだとどのぐらい走れる?」
「フガ?」
「えっと、どこまで走れる?」
「わからないけど、あの山は越えられると思う」
「「はぁ?」」
俺とタマは驚いた。ジローが言う山は目の前に見えるがかなり遠い。
というか、下手をしたら隣の領地まで行けるってことか?
「いやいやいや、マジで?」
「大丈夫」
「すげぇな」
それなら俺たちだけなら2、3日で伯爵領に着いちゃうんじゃないか? うーん。
「ジロー。とりあえず止まってくれる?」
ジローが「わかった」と止まってくれたあとで、俺はタマとジローにさっきの話をした。
「ついて来てくれる?」
「もちろんっす」
「フガフガ」
2人がうなずくので、俺は「ありがとう」と2人の頭をなでる。
「ジローに乗って移動できるなら、たぶん俺たちはかなり速く移動できるから、旦那様たちの馬車より少し先に行って街道沿いの森で狩りでもするか?」
「そうっすね。うちの森だとこれ以上の進化はオークに手を出さない限り無理っす」
「そうだよね。まぁ俺たちには魔法もあるし、タマとジローがいれば相手がオークでも負ける気しないけどね」
俺が笑うとタマが「油断は禁物っす」と言う。
「そうだね。死んだら終わりだからね」
「そうっすよ」
そうだ。慎重過ぎるぐらい慎重にいくべきだよね。
「それに、伯爵家が手を焼いているアンデッドがどれほどの強さかわからないから、とりあえず向こうに着く前に少しでも強くなっておきたいんだ」
「伯爵領までどのぐらいなんですか?」
「あぁ、伯爵領まで馬車で1週間だそうだ」
「少し強い魔物を倒せれば、いけるっすね」
「うん」
ジローが折り返してブラックドッグ家の屋敷までの道を戻ると、森の中をディアが並走してきた。
「ジロー、足下の石を1つ蹴り上げてくれるか?」
「わかった」
うなずいたジローが蹴り上げた石を俺はパシッと受け取ると、石に魔力を少しまとわせて投げる。
ブォン!
石が風を切ると、バァン! とディアに当たった。
「よし!」
「やったっすか?」
「たぶん」
俺はタマにそう答えて「ジロー。ディアを倒したと思うから戻ってくれ」と言うとジローが「わかった」と戻ってくれた。
だけどさ……。
うん? どうなってんの?
「あのぉ、アニキ?」
「フガフガ」
「うん、魔力は抑え気味にしたんだけど、まだ加減がわからないんだよね」
「それ、怖いっすね」
「あぁ、仲間に誤爆したらシャレにならないね」
俺がそう言うと「本当っすね」とタマも苦笑いを浮かべる。
石で風穴があけば、そりゃあ、苦笑いにもなるね。
「まぁ、少しずつ練習して慣れるしかないよね。大きい石でできるようになれば砲撃とかできそうだし」
「砲撃?」
「うん、大きい石を飛ばして硬いものを粉砕するんだ」
「粉砕」
タマがブルッとして、ジローが「怖い」と呟く。
「いやいや、もちろん仲間に投げたりしないから」
「「わかってる」っす」
そして、3人でもう一度ディアを見て、俺は「フフッ」と笑った。
「どうしたっすか?」
「うん、タマとジローで良かったなって思ってさ」
「えっ?」
「フガ?」
「だってさ、これを見て例えば『すごい!』とか喜ばれたり褒められてもたぶん引くし……」
「そうっすよね」
「フガフガ」
2人がコクコクとうなずくからそれがうれしかった。
「俺たちは強くなったけどさ、力に溺れたらダメだよな?」
「確かにこれを見て『ファファファ……ついに手にいれたぞ! 最強の力!』とか言われても引くっす」
「おいおい、どこのラスボスのお話ですか?」
「ラスボス?」
タマがかわいらしく首をかしげたので、とりあえず、ジローにディアを乗せようとして「あっ」と俺は声をもらした。
「アニキ、どうした?」
「これだと帰りは俺たちも走らないとダメなんじゃない?」
「そうなるっすね」
「フガフガ」
ということで、ブラックドッグ家まで3人でゆっくり走って帰った。




