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新年

 異世界も新年を迎えた。あけましておめでとうございます的な挨拶はないが、ブラックドッグ家も少し浮かれ気味だ。


 まあ、新年が理由ではないが……。


「ポチ!」


「はい」


「あんたも遊んでないで手伝って」


「えっ?」


「『えっ?』じゃないでしょ? これからさらに忙しくなるの、こっちに来て荷物運びを手伝いなさい」


 奥様がそう言ったので、俺は「はーい」と答える。


「アビー、ちょっと手伝ってくるからまたあとでな」


「嫌」


「いやいや、仕方ないだろ?」


「だって誰も遊んでくれないんだもん」


 アビーがふくれるので俺はその頭を「そうだよなぁ」と言いながらなでる。


「タマ、アビーと遊んでて」


「はいっす」


 アビーとタマが中庭で追いかけっこを始めたので、俺は空にあげていた凧を回収した。


「ポチ、おはよう!」


「オーティス。いらっしゃい」


「それは?!」


「うん?」


 俺が中庭に入ってきたオーティスに手をあげて答えると、駆け寄ってきたオーティスが俺が回収した凧を見る。


「あぁ、凧だよ」


「たこ?」


「うん、風にのせて飛ばすんだ」


「なっ?!」


 オーティスが驚くと「どうやるのですか?」と聞くので、俺は「奥様から遊んでないで手伝いなさいって言われているから」と答える。


「大丈夫です。私が代わりに怒られますから、それを教えてください」


「うっ、うん、大丈夫? 奥様は基本的に優しいけど、怒ると怖いよ」


「そっ、そうですね……」


 オーティスが言い淀むと「あんたたちねぇ」と奥様が屋敷から顔を出した。


「オーティスはその凧に興味があるの?」


「はい」


「そう、わかったわ。ポチを貸してあげるからあんたのところの従業員を貸してくれないかしら?」


「もちろんです。そのつもりで連れてきましたから使ってやってください」


「ありがとう、助かるわ。オーティス」


 ということで、オーティス商会の従業員たちが奥様の手伝いに向かうと、俺とアビーとタマはオーティスを仲間に入れて再び凧あげを始めた。


 タマが糸をくわえて走り、俺は凧を持ってあとについて行って充分に加速したら凧が風に乗るように手を離す。


 風に乗り始めたら、クイクイと引っ張りながら、糸を伸ばしていくと凧はグングンと空に登って行った。


「嘘ですよね」


「うん?」


「これは魔法道具ですか?」


「いや、ただの紙と木材だよ」


 俺が笑うと、オーティスはしばらく凧を見つめていたが「これは売れるな」と呟く。


「凧をあげるのはコツがいりますか?」


「うん」


「むずかしいのですか?」


「そうだね。1人ではむずかしいし、たぶん子供が1人であげるのもむずかしいと思うよ」


 オーティスはむずかしい顔をしたけど、俺は「だからいいんだよ」と笑う。


「お父さんと一緒にあげれば楽しいし、親子のコミニュケーションにもなるよ。しかもひとりではあげられないから、友達もできると思う」


「なるほど」


「あとは、大きなものを作って村のみんなであげたり、いくつも連ねても面白いね。それからシンプルな凧で」


「大会!?」


 俺が「そうそう」とうなずくと、オーティスは腕を組む。


「積み木はインドアですから、アウトドアが好きな方々に受けるかもしれませんね」


「そうだね。色をカラフルにしてかわいい物を作ったり、逆にシンプルな色使いでかっこよくしたり、文字や絵を入れてもいいし、形もやっこ型や、四角、大会ならカイト型がいいかも」


 俺がそう言うと、オーティスは「少し待ってください」とメモを始めた。


「ポチ、アビーはかわいいのがいい」


「そうだね。アビーにはかわいいのが似合うね」


 俺がアビーの頭をなでると凧がぐらついた。だけど、俺がクイクイと糸を引いて風を当ててやると、凧は体勢を持ち直した。


「ポチは本当に器用ですね」


「そう?」


「そうですよ、しかもこのアイデアも素晴らしい。これも商品化してよろしいですか?」


「もちろん、いいよ。それに、たぶん奥様もそのつもりだろうからね」


 俺がうなずくとオーティスは「ありがとう」と頭を下げる。


「アビーにかわいいの作ってあげてね」


「はい、わかりました」


 オーティスはうなずくと「これは」と笑う。


「今年も社交界ではブラックドッグ家の話題で持ちきりになりそうですね」


「そうなの?」


「そうですよ。あの積み木はいまや王都で知らぬ者がいないほど流行ってますし、トランプの新たな遊びとしての『八並べ』が子供から大人まで大人気です」


「そっか、みんなが楽しんでくれているならうれしいね」


 俺がそう言うと、オーティスは「あなたは」と言う。


「我が商会はおかげさまで大忙しですし、ブラックドッグ家は新年の集まりで子爵に陞爵するそうですよ」


「えっ? 嘘」


「本当ですよ。だから奥様は大忙しなのです」


「そうだったんだ。なんか新しく従者やメイドが増えたし、屋敷の改築とか始まったから『なんだろう?』とは思ってたんだよね」


 俺が屋敷を見ながらうなずくと、オーティスは「マジですか?」と聞く。


「マジだよ」


 俺が答えるとオーティスは「フフッ」と笑う。


「いまブラックドッグ家は飛ぶ鳥を落とす勢いだと言われていますよ」


 オーティスがそう言うと奥様が「あなたのところでしょ?」と屋敷から顔を出した。


「オーティス商会はいよいよ『商会10本指』に入ったと言われているじゃない」


「はい、長いこと高い壁に悩まされていましたが、やっと10本の指に入ることができました」


 奥様が「おめでとう」と言うので、俺も続く。


「ありがとうございます。もちろんこれはブラックドッグ家とポチのおかげです」


「良かったね」


 俺がそう言ったときに、旦那様が帰ってきた。俺たちが揃って「おかえりなさい」と言うと、青い顔をした旦那様が「やってしまった」と答える。


「なっ? どうしたの?」


 奥様がそう聞くと、旦那様が「『八並べ』で伯爵を怒らせてしまった」と言って頭を抱えた。


「嘘よね?」


「いや……」


 旦那様が言い淀むと、旦那様の後ろから青い顔をしたギルが中庭に入ってきた。


「ポチ、すまない。俺もやってしまった」


「えっ? それでギルは誰を『八並べ』で怒らせたの?」


「いや『八並べ』ではない」


「うん?」


 俺が首をかしげると、ギルが顔をしかめる。


「王子に『面白いゴブリンがいる』と自慢してしまった」


「おい! なにやってんだ!」


「すまない」


「いやいや『すまない』ではすまないんだろ?」


 俺が聞くと、ギルは「あぁ」とうなずく。そして、旦那様と並んで俺に向かって「すまん」と頭を下げた。

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