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親子

「ゴブゾウ木を切る、コンコンコォン、コンコンコォン。はやては北海道、コンコンコォン、コンコンコォン。デデッテ、デデッテ、デッ、ゴブゾォ、ゴォブゥゾォォ、もう日が暮れる」


「暮れるか! ボケ!」


「なんだよ、盛り上がって来たところなのに」


「『なんだよ』じゃねぇ、まだ日が登ったばかりだろうが!」


「いやいや『ゴブゾウ』はあくまでも歌だから。冬なのに夏の歌を歌ったりするでしょ? まだ秋なのにサンタクロースの歌を歌って『慌てすぎだろ?』ってツッコミ入れられたりするでしょ? アレだから、アレ」


「意味わかんないし」


「えっ?」


「『えっ?』じゃねぇ!」


 俺とゴブゾウがそんないつものやり取りをしていると「ゴブスケ」と声をかけられた。


「うん? 父さん、母さん、もう大丈夫なの?」


「あぁ、お前たちのおかげだ」


「そうよ、2人とも立派になって母さん、うれしいわ」


「そう? 俺も兄さんも立派にはなってないと思うけど、2人が無事で、その、元気になってうれしいよ」


 俺がほほえむと母さんがギュッとしてくれて、父さんが真剣な顔をした。


「どうしたの? 父さん。父さんはゴブゾウ兄さんと一緒で、顔が、その……」


 俺が言い淀みながらゴブゾウを見ると、ゴブゾウが「そこで言い淀むな、こっちが気つかうわ!」とツッコミを入れる。


「顔がチャーミングだから、真面目な顔は似合わないと思うよ」


「なっ?」


 父さんが驚くと、ゴブゾウはガシガシと頭をかいた。


「まさかのオブラートの包みかたが雑だから余計に傷付くパターン」


 ゴブゾウがそう言うと母さんが「プフッ」と笑った。


「ゴブスケ、すまなかった」


「うん? 父さんはなんで謝ってんの?」


「俺はお前に」


 父さんが顔を歪めるので、俺は「あぁ」とほほえむ。


「巣立ちの時の話なら気にしなくていいよ。うっかり忘れちゃったんでしょ? 誰だってミスはあるさ。特に父さんは俺に似ておっちょこちょいさんだからね」


 俺がそう言って笑うと、ゴブゾウが「おい! そこは『お前が父さんに似て』だろ?」と続いて笑う。だが、父さんは顔をしかめた。


「忘れたんじゃない、俺は」


「わかってるよ」


 俺がうなずくと父さんは「グッ」と声をもらす。


「わかっているけどさ、それを今さら本人に言ってどうするの?」


「だが……」


「それにさ、父さんは間違ったことなんてしてないよ、ねぇ、母さん」


 俺が聞くと母さんは「そうね」とうなずく。


「だってすべては繋がっているんだ。泣きたいことも、怒りたいことも、悔しいことも、笑えることも、今日、この日に繋がっているんだ」


 俺はそう言ってゴブゾウを見た。


「穴ぐらを出されて3ヶ月のあいだ逃げ回ったことも、ゴブゾウ兄さんにいろいろ教わったことも、アビーに会って人族の従者になったことも」


 俺がそこまでいうと父さんは「俺が」と呟く。


「ジェムやキム、奥様や旦那、それからハンスたちに会ったことも、タマに出会えたことも、ギルやオーティスにだって会ったし、ゴブリンのみんなが協力してくれたことも、ジローのことだってそう、すべては今日に繋がっている」


「ゴブナが言った通りに、ゴブナにお前の……」


「それだと俺は姉さんに甘えて、本当にダメな奴のままだったろうね」


「えっ?」


「言ったでしょ? 俺はちっとも立派になんてなってないし、あわよくば楽しようとするし、いつも適当なことばっかり言っているんだ」


 俺はニンマリと笑った。


「だけどさ、父さんのおかげで少しだけ立ち向かえるようになったんだよ。人生の荒波ってやつに」


「人生の荒波」


「そうさ、もちろん俺はまだ1人じゃダメダメだし、いちいちツッコミを入れてくれる兄さんがいないとダメだから、差し詰め俺たちは『兄弟船』だね」


 俺がそう言うとゴブゾウが「なっ」と驚いた。


「急にどうした? 熱でもあるのか?」


「まあね、だからさ、ここのみんなのことはゴブゾウ兄さん、よろしく」


「はぁ?」


 ゴブゾウが「ちょ、お前、なに言ってんだ?」と聞くので、俺は真面目な顔をした。


「兄さん、俺は今のままじゃダメなんだ」


「どういうことだよ」


「まあ、それはまだ話せないけど、そのうちに話すよ」


「マジか?」


「うん、マジだよ」


「おいおい、いつも無茶苦茶だけど、ありえないだろ? それは……」


 ゴブゾウが言い淀むので、俺は「なんで?」と聞いた。


「ここの奴らはみんな、お前について来たんだよ。それを」


「大丈夫だよ、兄さんなら」


「いやいやいや、ダメだろ?」


「だって兄さんは俺より優秀でしょ?」


 俺はドヤ顔を作ると「『兄より優れた弟など存在しねぇ!』って鉄仮面な人が言ってたよ」と言った。


「誰だ? 鉄仮面な人って?」


「えっとね、ディ◯プリオじゃなくて世紀末的な残念なほうの鉄仮面。知ってるでしょ? ヒャッハーの親玉みたいなあの人」


「いや、知らないし、よくわかんねぇ」


 ゴブゾウがガシガシと頭をかくので、俺は「まあ、兄さんなら大丈夫ってことさ」と笑って、父さんを見た。


「父さんたちはどうするの?」


「あぁ、俺たちもここに残ろうと思う。だが、フォックスやコボルトとの共存をよく思わない人たちも多いからその人たちは出て行くだろうな」


「そっか」


 俺はうなずくと「じゃあさ」と続ける。


「ゴブエ姉さんとゴブナ姉さんもいるし、ゴブキチたちもいるから大丈夫だとは思うけど、父さんたちも兄さんを支えてあげてね。こう見えても兄さんは意外と繊細ですぐ泣くから」


 俺がそう言うとゴブゾウが「なっ、なに言ってんだ?!」と慌てる。


「だって、ビビってるんでしょ?」


「べっ、別に、ビビってねぇ」


「本当に?」


「あぁ」


「本当に、本当に?」


「ビビってなんかねぇ! もう仕方ないから、俺がやってやるよ」


「おおぉ、やる気出ちゃったねぇ」


 俺がそう言うと母さんが「フフフッ」と笑う。


「本当にゴブスケは変わらないわね。意味のわからないことばかり言って、いつのまにか周りを巻き込んで行く」


「そうかな?」


「そうよ。だから私は心配してなかったの。ゴブスケみたいな子はなんだかんだで生き残るから」


「まあね、父さんと母さんの子だから図太く生き残るさ」


 俺がニッと笑うと母さんは「そうね」と言いながら俺を抱きしめている腕に力を入れた。


「だからゴブスケはこれまで通りでいなさい。誰かのためになんて頑張りすぎなくていいの。ゴブスケはゴブスケのために頑張ればいいし、笑えばいいのよ」


「母さん?」


「背負いすぎてはダメよ。ひとりが担ぐことのできる量なんて限られているんだから」


 俺が「うん、わかったよ。ありがとう」と言うと、母さんは「いいのよ」と俺の背中をなでた。


 それがうれしくて俺はほほえむ。


 父さんに母さん、ゴブゾウ……前世の俺にも兄がいたら少しは違ったのだろうか? 


 それはないな。


 前世は逃げてばかりだった。だけど今世はみんなのおかげで少しだけ立ち向かうことができるようになった。それにきっと前世の惨めなあの日々も今日に繋がっているんだよね。


 もうちょっとだけ頑張るか? 


 俺はそう思って、母さんをキュッと抱きしめ返した。

1章はこちらで終了となります。お付き合いくださりありがとうございます。引き続き2章を投稿していきますので、よろしくお願いします。

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