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相談①

 コボーヌたちの契約が終わったあとで、俺とタマは奥様とジェムと一緒に応接間に来た。


「それで? 話って何かしら?」


「えっと、コボルトのボスなんですが、俺と同じ転生者でした」


「そう、彼女たちの話を聞いて狂った奴だと思ったけど、転生者だったのね」


「はい」


 俺がうなずくと、ジェムが「まあ、ポチもある意味で狂ってますからね」と笑った。


「俺はアレと一緒なのか……」


「おいおい、どうした? そんなのポチらしくないだろ? そこは乗るか、怒れよ」


「まあ、そうなんだけどね」


 俺がポリポリと頭をかきながら苦笑いを浮かべると、奥様は「そうよね」とうなずいてから眉間を押さえてもむ。


「コボーヌたちから話を聞いただけでも、やっていることが悪魔だもの。あんなのと一緒だと言われたら戸惑うわよね」


 ジェムはそれに「確かにそうですね」と首肯してから、俺に「悪かった、ごめん」と謝った。


「いいよ。冗談だったんだろ?」


「あぁ、そうだ」


 ジェムがうなずくと、奥様は「それにしても」と苦笑いを浮かべた。


「やっぱり希望的観測はダメってことね」


「そうですね。これでとりあえず、神様の手違いで魂の漂白がおこなわれなかったという可能性は消えたと思います」


「それで? あなたがわざわざ話したいと言いだすってことは、それだけじゃないんでしょ?」


「はい」


 俺はゆっくりうなずいて、ゴクリと唾を飲み込んだ。


「コボラスは前世の知り合いでした」


「「はぁ?!」」


 奥様だけでなく、ジェムも驚いて「知り合いって本当なのか?」と聞いてきた。


「うん、間違いないよ。しかも、10代のころに俺をいじめていた奴の1人だ」


 俺がそう言うと、奥様は「そうなると」と言ってため息をついた。


「間違いなく神様にはなんらかのお考えがありそうね」


「そうですよね。俺もそう思います」


 奥様の言葉に俺がうなずくと、ジェムが「ですが?」と言う。


「神様はポチになにをさせたいのでしょうか?」


「いまの段階ではまったくわからないわね。だけど、きっと他にもいるわね」


「例えば、そいつらが全員ポチをいじめていた奴らでポチにリベンジさせてやろうって話なんじゃ?」


 ジェムはそう言ったが俺と奥様は「それはないんじゃない?」と言った。


「どうしてですか?」


「ジェム、世の中にいじめられている奴がどれほどいると思う?」


「あっ」


「別に俺の話だって特別な話ってわけじゃないんだ。ごくありふれていて、なんならもっとひどい目にあってたり、中には命まで取られるケースもある」


「そうか……」


「神がその子たち全部にリベンジの機会を用意してくれるとは考えにくいだろ?」


 俺がそう言うと、ジェムは「だけどさ」と言う。


「考えにくいだけだよな? 神様は用意してくれるかも」


「それはないな」


 俺がそう言うと奥様も「そうね」とうなずく。


「例えばその場合の線引きはどうするのかしら?」


「線引きですか?」


「そうよ、世界は白と黒で塗り分けられるほどに単純ではないわ。もちろんいじめの場合は塗り分けられるケースが大半だろうけど、加害者と被害者だって明確に分けることのできないケースもあるし、加害者と第三者だって分けられないでしょ?」


「確かにそうかもしれないですね」


「それに止めたくても身分的に無理な場合もあるのよ」


「そうですね。貴族が平民をいじめていたとしても、それを見ている周りの平民にはなにもできませんからね」


「それは貴族の中でも一緒よ。侯爵家のご令嬢が男爵家の子供をいじめていたとしても、男爵、子爵、伯爵家の子供たちでは止めることはできないもの」


 奥様はそう言ってクシュと顔を歪めて「いずれにしても」と続ける。


「これからも出会うであろう転生者たちに注意が必要ね」


 俺が「はい」とうなずくと奥様は「本当にわかっているのかしら?」と首をかしげた。


「ポチの場合、うかつなことを言って相手に先に気づかれそうね」


 俺が「あはは」と笑うと、ジェムが「確かに」とうなずく。


「これからは……と言っても無理でしょうけど、少し気をつけなさい。私は嫌よ、ゴブリンの葬式を出すなんて」


「はい、気をつけます」


 俺がうなずくと、奥様はタマを見て「タマも気をつけてやってね」と言う。


「はいっす」


「それで、フォックスたちのようすはどうかしら?」


「みんなケガしてますし、衰弱もしてますが、命に別状はないっす」


「そう、よかったわ」


 奥様はホッとした顔をしてからほほえむ。


「ゴブゾウたちとあの場所で一緒に暮らしていくの?」


「うちの家族はそうするつもりっすけど、まだ決めかねている人たちもいるっす。コボルトも一緒だし、やっぱりゴブリンたちをさらうのに自分たちも手を貸しているっすからね」


「そうよね。それしか道はなかったとはいえ、自分たちも加害者になってしまったものね」


 奥様がそう言うとタマが「申し訳ないっす」と小さく言うので、俺はその頭をなでる。


「アニキ」


「これからはそんなことにはならないさ」


「そうっすね」


 タマが俺を見てうなずくと、奥様も「そうね」とうなずく。


 タマの兄と姉で奥様の従者となったフォランとフォルナが、ゴブゾウとゴブエのパートナーとして狩りに出かけるようになってから、ゴブリンとフォックスの関係もだいぶ良くなったらしい。


 そもそも種族が違うし、いきなりはうまくいかないだろうね。それでも少しずつ信頼関係を築いていけば俺たちはうまくやっていけると思う。


「問題はコボルトね」


「はい、コボーヌたちの『償いたい』という気持ちはありがたいのですが、正直兄さんたち以外のゴブリンと打ち解けるのは難しいかと」


 俺がそう答えると、奥様は「なにを言ってるの?」と笑う。


「コボーヌたちは本当に『償いたい』と思っていても、ついて来ているコボルトの大半は違うと思うわよ」


「えっ?」


「考えてもみて、コボラスはあの森で好き勝手やってきたの。そのコボラスが力を失えば、それに従ってきたコボルトたちはどうなると思う?」


「今まで虐げてきた者たちに仕返しされる」


「そうよ。だとするなら少し賢い奴なら多少嫌な思いをしてでも、ポチの庇護の下に入りたいと思うわよ」


 それを聞いて俺はついつい「うぇ」と言ってしまった。


「だから、奥様はコボーヌたちに釘を刺したんですね」


「えぇ、そして、1番落ち着きがあるコボリノに仲間たち監視を頼んだわ」


「監視?!」


「打算で従ってくる奴ほど信用できない者はいないのよ。ゴブゾウとフォランにも注意するように言ってちょうだい」


「ですが、それだと兄さんたちはコボルトたちと打ち解けられないかと」


「そんなことないでしょ? 少なくともコボーヌたちは信用できる。信頼できる者と付き合っていけばいいの」


「そっ、そうですよね」


 俺がそううなずくと奥様は「納得できてないわね」と笑う。


「いきなりはうまくいかないわよ。それに全部うまくはいかないわ」


「そうか、ダメだったらあとで別れてもいいのか?」


 俺がそう言うと奥様は「そうよ」と言ってから「フフッ」と笑った。

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