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契約④

 数日後、ブラックドッグ家には3人のグラディアトルが来ていた。


 コボラスの石打ちの刑が終わったあとで、これからについてコボルトの中でも大きく意見が割れた。


 自分たちもコボラスの被害者だと主張する者たち。悪かったとは思うがそもそも他種族と争うのは普通なことだという者たち。そして、俺たちの仲間になり償っていきたいという者たち。


 今日ブラックドッグ家に来ているのは、丸太を持ってきてくれたコボーヌとコボニャ、それから2人と仲良しのコボリノの3人。


「本当にいいの?」


「しつこいね、あんたも。あたしらは償って決めたのさ」


「それならいいんだけどね」


 俺がコボーヌにそう答えると、俺に腕を絡めてコボニャが「そうよ」と続く。


「だいたいあんたが私たちを死なせなかったんだから責任取ってよね」


「えっ?!」


 俺が驚くと、タマが「ダメっす」と俺に抱きついた。すると、グラディアトルの3人は「ゲラゲラ」と笑う。


「心配するなって、タマ。私たちだってなにも取ってくゃあしないよ」


「嘘っす、騙されないっすからね」


「まぁ、あわよくばとは思ってるけどね」


「やっぱり思っているんじゃないっすか!」


 俺を挟んでタマとコボニャがなにやら言い合いを始めると、ゴブゾウが「ポチの奴は、ゴブリン以外にはモテるんだよな」と苦笑いを浮かべた。


「なに言ってんの? あんた。ポチはゴブリンにも人気よ」


「えっ? 嘘だろ?」


 ゴブゾウが言うと、ゴブエは俺のところまで来たゴブナを見て苦笑いを浮かべた。


「ちょっとあんたたち、離れなさい。ポチは私の弟なんだからね」


 ゴブナが俺からタマやコボニャを引き離そうとすると、タマは「横暴っす」と俺にしがみつき、コボニャは「このブラコン女が」と言った。


「ブラコンでなにが悪いのよ」


「開き直らないでくれる? あんたのせいでゴブリンたちは近寄れないってぼやいてたわよ」


「なっ、なんですって! どのゴブリン? どの子が言ってたの?」


 ゴブナがコボニャにつかみかかると、コボニャは「教えるわけないでしょ」と抵抗した。


「あんたたちは種族が違うんだから諦めなさいよ」


「愛があれば種族の壁は越えられるって母ちゃんが言ってたっす」


「そうよ、タマは無理でも私たちは人型同士だし、大丈夫よ」


「なんすかそれ? 裏切るんっすか、コボニャ!」


「裏切るもなにも初めから恋敵でしょうが!」


 再びタマとコボニャが言い争いを始めると、屋敷から奥様とジェムが出てきた。


「その子たち? ずいぶんと元気ね。タマと仲が悪いようだけど本当に大丈夫なのかしら?」


 奥様が首をかしげるとゴブエが状況を説明して、奥様を俺を見ながら「おやおや」と笑う。


「それで、今回の契約はその3人でいいのかしら?」


「はい」


「従属は理解しているのよね?」


「はい、何度もしつこく確認したので大丈夫です」


「それで?」


 奥様はそう言うとゴブゾウたちとタマを見た。


「ゴブリンとフォックスたちは納得しているのかしら?」


 ゴブゾウが「はい」とうなずく。


「今回のコボルトたちは償いたいと言ってくれていますし、レッサーゴブリンたちもフォックスたちも納得してくれています。今回袂を分つコボルトたちとは『次に会ったら敵』ということになりました」


「そう、それならいいけど、よく見ておいてあげなさい。我慢している子たちもいるかもしれないわ」


「わかりました」


 ゴブゾウがうなずく、奥様は「それから」と続けた。


「そのポチにしがみついている子に『弁えなさい』と通訳してくれるかしら」


「「えっ?!」」


「あなたたちはなにを驚いているの? それができないなら契約はしないと伝えなさい。タマが優先よ」


 そう言って俺を見た。


「ポチもタマと一緒に暮らしてみて、タマの気持ちが変わらなかったら責任を取ると言ったのだからそういうところはちゃんとしなさい」


「はい、すみません」


 俺がそう答えると、ゴブゾウたちが「えっ」と驚いた。


「ポチ、お前。タマの気持ちが変わらなかったら責任とるって……」


「うん?」


「『うん?』じゃねぇ! 本気なのか?」


「本気だよ。まあ、子供は作れなくてもつがいの形は人それぞれでしょ? 俺は俺を理解しようとしてくれて、一緒にいてくれるならそれでいいよ」


 俺がそう答えると、ゴブゾウは「マジかよ」と目を見開いたが、ジェムが「いやいやいや」と笑う。


「こいつはポチじゃない! 絶対に偽者だ」


「じゃあ、俺は誰なの?」


「それはだな……」


 ジェムが言い淀むと、ゴブナが「いいわね」と笑う。


「姉さん?」


「すごくいいわ。なんか真実の愛って感じで、私はそういうの好きよ」


「「えっ?」」


 俺たちがみんな驚くと、ゴブエは「なによ」と口を尖らせる。


「いや、姉さんからそんな乙女チックな発言が」


 ベシッと頭を叩かれた。


「あんたの中で私ってどんなことになってんの?」


「ガサツ」


 ベシッ。


「男勝り」


 ベシッ。


「いやぁ、繊細な乙女だよ」


 俺が「あはは」と笑うと、ゴブゾウが俺を見ながら「大人になったな」とうなずく。


 コボニャたち3人は「これからは弁えます」と奥様に誓って、それから主従契約が行われた。


「よろしくね。初めにハッキリと言っておくわ。あなたたちはマイナスのスタートよ。正直言ってポチに頼まれたから契約はしたけど、私は完全に信じたわけじゃないわ」


「「はい」」


「行動を持って信頼を勝ち取ってちょうだい。あなたたちの『償いたい』という言葉が嘘ではなかったとゴブリンたちやフォックスたちに示しなさい。いいわね」


「「はい」」


 コボニャたち3人が頭を下げると、奥様は表情を和らげた。


「でも、無理はしないでね。信頼を勝ち取ろうと頑張った結果、あなたたちが死んでしまっては意味がないわ。時間がかかってもいいのよ」


「「奥様」」


 コボニャたちが顔を上げると奥様はしゃがみ込んで「辛かったわね」と言うと3人をまとめて抱きしめた。

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