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コボルト②

 コボルトの村はゴブゾウたちに制圧されていた。


 トップのグラディアトルが全員不在ではうちの兄さんたちに敵うわけなかった。35人のゴブリン全員が弓を持っているし、兄さんたちはベラトールなのだ。


 相手のコボルトが300人近くいても負けるわけないね。


 だから俺たちが到着するころには、抵抗したコボルトは全て殺されて転がっていたし、ほかのコボルトたちはフォックスたちが閉じ込められていた例の柵のなかに押し込まれていた。


「あのさ、兄さん?」


「おぉ、ポチ、お疲れさん」


「『お疲れさん』じゃないよ、誰が制圧しろって言ったの? レッサーゴブリンを逃がせって言ったよね?」


「そうなんだけどな」


 ゴブゾウが頭をかくと、柵の中に入れられていたコボルトたちが「コボラスを殺してくれ!」と叫んだ。


「うん?」


「ずっとあの調子なんだよ」


「どういうこと?」


「あぁ、よろこんで従ってフォックスをいじめたり、レッサーゴブリンにひどいことをしていたのは一部で、あとの者たちはみんなコボラスが怖くていやいや従っていただけみたいなんだ」


 俺が「なるほどね」とうなずいて「それで兄さんがコボラスを倒すつもりだったの?」と聞いた。


「あぁ、あそこまで『頼む、頼む』って頼まれたら断れないだろ?」


「あのさ、馬鹿なの? 正直に言って兄さんじゃ、コボラスには敵わなかったよ」


 俺がそう言うとゴブゾウが眉間にシワを寄せた。


「俺だって強くなっただろ?」


「そうだね。だけど、上には上がいるんだよ」


 そう言った俺がゴブゾウの顔を殴った「グゥ」と少し飛ばされて尻餅をついたゴブゾウが「なっ」と俺を見上げる。


「わかった?」


「嘘だよな? 全然見えなかったぞ」


「うん、同じことをコボラスはやってたよ」


 ゴブゾウは「マジかよ」と固まって、それから「すまない」と頭を下げた。


「俺が負けてたら、兄さんたちはみんな殺されてたよ」


「そうだな」


 ゴブゾウがうなずいてうなだれたので、俺は手を差し伸べた。


「殴って、ごめん」


「いや、俺が思い上がってた。ありがとう、ポチ」


「うん」


 俺がゴブゾウを引き上げてから、グラディアトルの女の子に「丸太を持ってきてくれる」と頼む。すると「わかったわ」と取りに行った。


「おい、なにをするんだ?」


「うん、コボラスを木にくくりつけてみんなに石を投げてもらって石打ちの刑にする」


「はぁ?」


「首を落として殺すのは簡単だけど、こいつには生き地獄を味わってもらう」


「お前、正気か?」


「うん、正気だよ」


 俺はそう言うとジローの背中からコボラスを下ろした。


「ちょっと待てって、ポチ。なに考えてんだ、お前」


「うん?」


「『うん?』じゃねぇよ、なにをしようとしているのかわかっているのか?」


「わかっているよ」


 俺がうなずくとゴブゾウは「わかってないだろ?」と俺の胸ぐらをつかんだ。


「そんなの惨すぎるだろ? って言ってんだ!」


「兄さんはさ、毎日意味もなく殴られる辛さがわかる?」


「えっ?」


「食べたくないものを口に無理矢理押し込まれて食べらせられたことは?」


「なに言ってんだ?」


「愛する旦那を殺されて、その男に抱かれ続ける辛さがわかる?」


「だから、なんなんだよ!」


 ゴブゾウがそう叫ぶと、グラディアトルの女の子の1人が「すべてコボラスがやってきたことよ」と言った。


「1番目はフォックスのことか? 2番目はレッサーゴブリンだよな、それじゃあ」


 ゴブゾウがそう言ってグラディアトルたちを見た。


「嘘だよな、そんな……同族にそんなことをするやつがいるのか?」


「いるのよ」


 女の子がギュッと顔をしかめると、ゴブゾウも「狂ってやがる」と顔をしかめた。


「でも、9人もグラディアトルがいれば、なんとかなったんじゃ……」


 そこまで言って俺を見た。


「同じベラトールでも俺とポチでは強さが違う。つまり、このコボラスってのはそれだけ強いんだな」


「そうよ、化け物みたいに強かったわ」


「そいつをポチは倒したのか?」


 ゴブゾウがそう言うと、女の子は「そうよ」とうなずく。


「どんだけだよ、お前」


 ゴブゾウはそう言って俺の胸ぐらから手を離すと「だけど、そんなことをしてなんになるんだ?」と俺に聞いた。


「こいつにも人の痛みをわからせる」


 ゴブゾウは「違うだろ?」と首を横に振った。


「そんなことをしても、辛い思いをした人たちの気が晴れるとは思えない」


「じゃあ、どうするの?」


「えっ?」


「兄さんならどうするの?」


 俺はゴブエを見た。


「あの日、姉さんが死んでいても同じことが言えたの?」


 ゴブゾウが「グゥ」と顔を歪める。すると、寝ていたコボラスが「クククッ」と笑った。


「そこの女か? この綺麗事を言っているキモやろうの女は」


「ゴブエ姉さん!」


 俺は怒鳴ったが、飛び起きたコボラスがゴブエに迫る。


 ニヤリと笑ったコボラスがゴブエの胸の突き刺そうとしたとき、コボラスの体をビビビッと震えて倒れた。


「グァァァァァァ」


 コボラスがのたうち回ると、グラディアトルの女の子たちが「これはいいわね」と笑った。


「なんなんだ?」


「奥様からもらった奴隷の足枷の力みたいだね」


 俺が答えると、まだのたうち回っているコボラスを見下ろしていたゴブゾウが頭をかいた。


「なぜゴブエを狙う? なんで無駄なことをする? ゴブエを殺しても自分は助からないだろ?」


「兄さん、意味もなく人を傷つけるやつに理屈は通じないんだよ。理解しようとしても、わかり合おうとしても無駄なんだ」


「だが、それでは……」


「そもそも話せば理屈を理解できるやつなら、意味もなく人を殴ったりしないんだよ」


 ゴブゾウがギュッと顔を歪ませた。


「兄さん、どっちにする? コボラスをここで殺して楽にしてやる? それとも石打ちの刑のあとも一方的に暴力を受ける辛さを思い知らせながら生かす?」


「殺すとこいつが楽になるのか?」


「そうだよ、死はなんの償いにもならない。そいつの存在が無くなってリセットされるだけだ」


 ゴブゾウが「わかった」とうなずく。そして、グラディアトルの女の子が持ってきた丸太を地面に打ち込む手伝いを始めた。


「やめろ、やめろ、やめてくれぇぇぇぇぇぇ」


 ドンドン、ドンと地面に丸太が打ち込まれるたびにコボラスが繰り返し叫んでいた。

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