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偵察②

 アビーがジローをテイムしてから数日が経って、俺とタマは再びコボルトの村に来た。


 近くまで行き、いつもの木に登って村を見る。


「クッ」


 タマが声をもらした。


 フォックスたちはこのまえより明らかに衰弱していた。傷も多くなっていて、あと何日持つのかわからない。


 レッサーゴブリンたちも相変わらず転がっているが、ここから見ても気持ち痩せて見える。


「なんかさ、レッサーゴブリンたちが痩せてない?」


「そうっすね。あれぐらいなら避難もできそうっす」


「でも、なんで痩せたんだ?」


 俺が首をかしげると、タマが「アニキのせいっすよ」と笑う。


「うん?」


「あれだけコボルトを狩っていれば狩りが滞って、レッサーゴブリンに回すだけの分がないのではないっすか?」


「あぁ、そっか」


 俺がうなずくと、タマは「マジっすか?」と再び笑う。すると、村の真ん中にある大きな建物から緑の立髪のコボルトが出てきた。


「まったくよ。どいつもこいつもベラトール1匹程度にいいようにやられやがって、しょうがないから俺たちが出向くしかないか? まったく」


 そのグラディアトルに進化したコボルトが吐き捨てるようにそう言って、近場にいたコボルトを蹴る。


 吹き飛んで地面に転がるコボルトを横目に見ながら建物から続いて出てきたグラディアトルたちが「仲間に暴力を振うのはやめなさいよ」と顔をしかめた。


「コボルトを蹴ったグラディアトル以外は女の子ばかりっすね」


「そうだな、差し詰めハーレムってところだろうな」


 俺がそう答えるとタマが「ハーレムってなんすか?」と聞く。


「うーんとね。一夫多妻、メスをかけてオスたちが戦って勝ったオスがメスを総取り的な、金持ちの俺様系が後宮に女の人たちを囲う的な、もしくは異世界行ったらキモおっさんになぜか女の子が群がってくる的な、例のアレだよ、アレ」


「どれっすか?」


「まあ、簡単に言うとみんなあの男のパートナーってことだよ」


「ぱっ、ぱっ、パートナー? 全員っすか?」


 タマが驚いたが、俺のほうが驚いた。


「たぶんそうだと思うよ」


「ありえないっすね」


「そうなの?」


「えっと、アニキはその、ハーレムに憧れるんっすか?」


「まあね」


「えっ?!」


 タマが信じられないって目をするので、俺は「いやいや」と言う。


「そりゅあ、俺だって男だからいろんなタイプの女の子たちに無駄にチヤホヤされるのに憧れはあるさ。だけどさ、実際にはハーレムなんて良いことばかりじゃないと思うよ」


「どういうことっすか?」


「だって、常に1対多数なんだよ。考えてもみてよ、フルボッコにされる未来しか描けないよ。なにを決めるにしてもきっと俺の意見なんて通らないし、誕生日や記念日ラッシュで覚えきれる自信もないし、貢ぐためにめっちゃ働かなきゃいけないし、ケンカなんかしようもんなら全員があっちの味方につくだろうし、そんなのもはや奴隷でしょ?」


 俺がそう聞くとタマは「なるほどっす」とうなずく。


「俺は1人いればいいよ。たまにケンカしたりしても俺のことをわかろうと努力してくれて、一緒にいてくれる人がさ」


「アニキ」


 タマがそう言ったときに、例のグラディアトルが盛大なくしゃみをした。


「くそっ、また誰かがうわさしているぜ。これだからモテる男は辛いんだよ」


「また増やすつもりじゃないだろうね?」


「そうよ、今でさえ、手が回ってないじゃない」


「釣った魚には餌をやらない最低男が」


「そうよ、クズ」


「さっさと私たちのために魔石を用意しなさいよね」


 次々にグラディアトルの女の子たちから言葉が出てくるが、これ以上は聞こえなかったことにしてあげよう。


「アニキの言ったことが恐ろしいほどにわかったっす」


「なぁ、そうだろ」


 俺が笑った瞬間に、グラディアトルの男が俺たちのほうを見た。そして「ふん、出向くまでもなかったか」と笑う。


「嘘だろ?」


「どうしたんすか?」


「気づかれた」


「えっ?」


 タマが驚いて男を見ると男は足下から石を拾った。そして振りかぶる。


「いやいやいや、マジか?!」


 俺がタマを抱えて木から飛び降りると、俺たちがいた場所が吹き飛んだ。


「なっ?!」


「嘘だろ? おい!」


 木が砲撃でもされたかのように粉砕して、粉々になった木クズが俺たちに降り注ぐ。


 俺はタマを抱えたまま走り出していた。


「アニキ?」


「やばい、やばい、やばい」


「なかなかいい判断しているじゃねぇか」


「えっ?」


 俺が立ち止まると、俺たちのまえにグラディアトルが回り込んでいた。


 速い、マジかよ。


「さっきの石の威力といい、魔法か?」


「おいおい、すげぇな、お前。そうだ、お前のご明察通り、魔法だよ」


「でも、石を投げるとき詠唱はしていなかったように見えたよ。無詠唱、それとも詠唱のない世界なの?」


 俺が聞くと男は「クククッ」と笑った。


「なんだよ、同類がいたのか? なるほど、通りで犬コロどもが返り討ちにあうわけだな」


「同類?」


「探りを入れてきたくせに、とぼけんなよ。お前も転生者なんだろ? それにしてもずいぶんと良さそうな服に、武器と防具までそろっているなんてお前チート過ぎるだろ?」


「なに言ってんだ」


 俺は笑った。


「チーレムを楽しんでるのはお前の方だろ?」


「まあな、やっぱり異世界来たらチーレムだろ? コボルトは犬コロだけど、メスはなかなかにかわいいし、まぁ、楽しんでるぜ」


 男がニヤニヤと笑うので、俺は「同類のよしみでさ」と言った。


「レッサーゴブリンとフォックスを解放してくれないか? 養殖が非効率的だってことはもうわかっただろ?」


「そいつはできないな、これまでの苦労が水の泡になるし、強いものが弱いものを蹂躙するのが獣の掟だ。まあ、少しでも糧になるんだからおいしく頂くさ。俺はゴブリンたちを食べて、オークたちも食べてこの森の支配者になる」


「無駄だよ。オークの親玉はBランクのフリムニルだよ。敵いっこない」


「それなら俺もBランクになるだけだ」


 男がニヤニヤと笑うと、ほかのグラディアトルに囲まれた。


「同類なのに殺すのか?」


「あぁ、この世界は最高だろ? 殺人を犯しても捕まることもない。強ければ殴っても蹴っても文句ひとつ言われない」


 男が再び「クククッ」と笑う。


「お前を殺して武器や防具を奪えば、俺はまた強くなれる。そのうちに武器や防具を手に入れるために人族の村でも襲って男は皆殺しにして女でたっぷり楽しんでやるさ」


「おいおい、お前、正気じゃないな」


「ふん、綺麗事を言いやがって、どうせお前も俺も畜生道に落とされたんだ。好きにやろうぜ。力にものを言わせてのし上がるのが獣の世界だろ?」


「さっきの魔法があれば武器も防具も必要ないだろ? 石ナイフだって、俺の持っているシミターやダガーより切れるだろうし、革の防具もいらないんじゃないのか?」


「ふん、魔法はイメージの具現化が意外と難しいし、あくまでも元あるもののサポートだからな。お前の持っているシミターや弓をサポートすればどれほど戦えるのか、今から楽しみだぜ」


 男は俺たちを囲んでいるグラディアトルたちに「呼ぶまで手を出すな」と言った。


「なんのつもり?」


「少し遊んでやるよ。せっかくだから素手でやり合おうぜ。お前が俺を捉えられたらこの場は見逃してやるよ」


 男が俺の腕の中で震えているタマを見た。


「お前は、その、ずいぶんと変わった趣味してんだな」


「ちっ、違うわ!」


「違うのか?」


「お前の想像しているようなことはない。俺たちはプラトニックな関係だ」


 俺がそう言うと男は「お前はまだ童貞か? かわいそうに」と笑う。


「お前だってどうせ前世は童貞だろうが! このキモチーレムやろうが!」


「おぉ、やる気になったねぇ。ちなみに俺はこっちでもあっちでもやりまくりだぜ」


「言ってろ!」


 俺は震えているタマをギュッとしてからその場に下ろす。


「アニキ」


「大丈夫だから」


 俺はそう言って笑って防具を外すと、シミターと弓とダガーと一緒にタマの側に置いて男と向き合った。


「最後に名前だけ聞いといてやるよ」


「ポチだ」


「ポチ? マジかよ、傑作だな。俺はコボラス、まあ、楽しくやりあおうや」


 コボラスがボクシングスタイルの構えを取ったので、俺も構えた。

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