表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/97

ゲームチェンジャー

 応接間では先に来ていた奥様がソファに座って険しい表情をしていた。俺とジェムが顔を見合わせたあとで、対面に並んで座る。


「それで? あなたは何者なの? ゴブリンになる呪いでもかけられた他国の王族とかじゃないわよね?」


 奥様が真面目な顔でとんでもないことを言い出したので、俺は「いやいや、違いますよ」と笑う。


「笑い事じゃないのよ。あなた、ゴブリンじゃないでしょ?」


「そうですね。でも間違いなくゴブリンとして生まれましたよ」


 俺がそう答えると、奥様はギュッと眉間にシワを寄せた。


「悪いけど、信じられないわ。あなたの言動や行動はどう考えてもゴブリンではないもの」


「そうですよね」


 俺はもう一度首肯して「本当のことを話したら気持ち悪い貴族や研究者に売り飛ばさないと約束してくれますか?」と聞いた。


「そうね。約束したいけど内容によるわ。他国の王族や貴族、間者などだったら我が国の上層部に売らないわけにはいかないのよ」


「そういうのではないです」


「じゃあ、どういうのよ」


 奥様が俺をにらんで、それから頭をガシガシとかいた。


「私だってあなたを手放すのは惜しいのよ。でもね、ブラックドッグ家やアビーに厄災をもたらす存在だったら手放すしかない。私には家を守る義務があるの」


「わかりました」


 俺はうなずいた。


「俺はゴブリンですが、前世の記憶があるんです。そして、前世は人族でした」


「なっ!? 嘘よね?」


「いいえ、嘘ではないです。死んだはずなのにつぎ目覚めたらゴブリンになっていて、よくわからないうちに1ヶ月でひとり立ちとか言われて穴ぐらを追い出されました。そこから兄に助けられながらなんとか生きていけると思ったらアビーに出会いました」


 俺がそう言うと奥様は「あなたは馬鹿ね」と頭を抱えた。


「それが仮に本当のことだとして、そんなことを話したらタダじゃ済まないわよ」


「はい、ジェムにも同じことを言われました。貴族に売られるか、研究者に売り飛ばされるか、教会に」


「そうよ、神の子である人族がゴブリンに転生なんて話、許されるわけないもの」


 奥様は顔をあげて俺を見た。


「それをわかっていながら、なぜ素直に話したの?」


「奥様が俺を家族と呼ぶからです」


「はぁ?」


「家族に嘘は言いたくない……なんて言ってみたけど、本当はいい言い訳が思いつかなくて、だけど、奥様なら素直に話せばわかってくれるんじゃないかと思いました」


 俺がそうほほえむと、奥様は「本当に馬鹿ね」と笑う。


「貴族に売られれば、ひどい目にあうかもしれないのよ。研究者に売られれば、身体中をいじくりまわされて死ぬかもしれないし、教会は間違いなくあなたを殺すわよ」


「そうでしょうね」


 俺はゴクリと唾を飲み込んだ。すると奥様はフッとほほえんで、それから「それで?」と続けた。


「前世はなにをしていたの?」


「なにも、なにもしていませんでした」


「はぁ?」


 奥様が俺を見るので、俺は頭をかいた。


「前にいじめられていたと言いましたよね。10代のころに学園でいじめられて、世界に絶望した俺は部屋に引きこもっていました」


「だけど、あなたはいろんなことを知っているわよね?」


「ほとんどが本を読んだり、絵で見たり、映像という事象を映し取る魔法道具みたいな物で見たりしただけです」


「それがあなたのいた部屋にあったの?」


「はい、壁一面に世界の叡智を収めた『小説』や『漫画』と呼ばれる本がならんでいたのでそれを日がな一日読んだり、すぐに世界のことを知ることのできる『スマホ』と呼ばれる魔法道具や、各地から物を取り寄せる『宅配』というシステムや、ほかの場所の様子を映す『テレビ』という魔法道具もあったので」


「嘘よね?」


「どう思いますか?」


 俺が笑うと、奥様は「そんな嘘をついても意味ないわね」と目を見開いた。


「そんなあなたがなぜゴブリンにされたの?」


「それはわかりません。残念ながら生まれ変わるときに神様や女神様には会わなかったので……ただ、たぶんゲームチェンジャーなんだと思います」


「ゲームチェンジャー?」


「はい」


 俺はうなずく。


「この世界の神様や女神様は1人ではないと思います。天地を想像し、水や大気などを生み出し、人族を生み出した。この方たちはもしかしたら一緒の方かもしれませんが、間違いなく、魔物を生み出したクソやろうは別にいると思います」


「ポチ、神様に失礼よ」


「いいんですよ。人族を襲う魔物を生み出して、その魔物に人族にはない進化を設定し、わざと魔物同士を争わせるように仕向けて、天の上からそれを見て楽しんでいるんですから」


「その神様がゲームチェンジャーとしてあなたを送り込んで来たの?」


 俺は「それも可能性の1つだと思います」とうなずく。


「人族は魔法道具などで魔物に対応し、魔物もなんとなくそれぞれが生息域を確保してバランスを取り始めたので天から見ているそいつは退屈して、世界に俺を投入したのかも知れません」


「どういうこと?」


「前世の俺は世界に絶望していましたから、魔物に対応している人族を襲って国を滅ぼしたり、魔物の作るバランスを壊すかもしれないと考えたんだと思います」


「だけどあなたは……」


「そうですね。俺は俺をいじめた奴らはみんな死ねと思っていましたけど、俺以外の奴らはみんな死ねと思うほどには絶望していなかったので、無差別に人族を襲って殺すなんて考えられませんし、魔物だって意味もなく殺してやろうとは思えなかった」


 俺が笑うと奥様は顔をしかめた。


「ほかの可能性ってのは?」


「ほかの神様が俺をこの世界に送り込んだ可能性です」


「ほかの神様? なんのために?」


「わかりません」


 俺は首を横に振った。


「ただ、だいたいこちらのパターンは、その魔物を生み出した神が仕掛けるなんかしらの暴挙を止めるためというのが多いと思います」


「なんかしらの暴挙?」


「すみません。あくまでも憶測なので、それもわかりません」


 俺がそう答えると、奥様はまたガシガシと頭をかいて「そうなるとわかっているのは」と言った。


「神様がなんらかの思惑で、前世の記憶を残したままあなたをゴブリンに転生させたってことだけなのね」


 奥様がそう言ったので、俺は「いえ」と笑う。


「もう1つの可能性は、神様の不手際で魂の漂白がおこなわれずに転生してしまった可能性です」


「魂の漂白?」


「はい、俺は前世では働きもせずにろくな奴ではなかったので、輪廻転生でその咎を受けて人族ではなくゴブリンに転生させられたけど、不手際で記憶が消されないまま転生してしまった場合です」


「神様が故意にやったことではないイレギュラーな形で記憶を残したままゴブリンに転生してしまったってことね」


「そうです。たぶんこの場合だと俺には特にやるべきことも使命的なこともないので、俺的にはこの可能性が1番うれしいです」


 俺がまた笑うと、奥様は「なにを言ってるの?」と言う。


「私もその可能性がうれしいわよ。だって、そのゲームを楽しもうとされている神様が、あなたは失敗だったと他のゲームチェンジャーが送り込んでくる可能性もあるってことでしょ?」


「そうですね。それにこの世界に送り込まれているのが俺1人ではない可能性もありますから」


 俺がそう言うと奥様は「嘘でしょ?」と頭を抱えた。


「それはポチみたいな者がすでにこの世界にほかにもいるかも知れないってこと?」


「そうです。前世の記憶を残したままで人族や魔物に転生している人がほかにもいるかも知れません」


 そうだ。俺だけが特別なんて考えないほうがいい。


「確かになにもわかっていないから、ほかにはいないと言い切ることはできないわね」


 そう言って「はぁ」とため息を吐いた奥様が「さてと、どうしたものかしらね」と俺を見た。


「話を聞く限りだと、あなたを放り出したほうが我が家は安全でしょうね」


「そうですね」


 俺は首肯する。


「それに今なら高く買ってくれそうな貴族もいるのだから、売ってしまうのが1番ね」


 奥様はそう言って苦笑いを浮かべた。


「そうやって割り切れる性格だったらきっと苦労もすくないのでしょうけど……いいわ、ジェムと同じように私も背負ってあげる」


「奥様!?」


「ジェムも一緒に背負っていくことにしたんでしょ?」


 奥様がそう言ってジェムを見ると、ジェムは「はい」と答えた。


「それにしても、ポチは変わっていると思ってたけど、変わっているなんて生やさしい話ではなかったのね。転生、神様……そんな話、目の前に人族みたいなゴブリンがいなかったらきっと信じていないでしょうね」


「はい、俺も自分が転生するまで夢物語だと思ってましたよ」


「夢物語、確かにそうね。それで、これからどうするの?」


「わかりません。とりあえず、俺にはやれることをやることしかできないので、目の前の問題をクリアしていくだけです」


「そう、わかったわ。ここでした話は旦那様にだけ話しておくわ」


「わかりました」


 俺がうなずくと、奥様は立ち上がって眉間にシワを寄せた。


 うん?


 テーブルを回って近くまで来たので俺も立ち上がると、奥様はしゃがみながら俺を抱きしめる。


「信じて話してくれてありがとね。だけど私たちは家族なんだし、これからはもっと話をしてちょうだい。いいわね?」


「わっ、わかりました」


 俺がうなずくと奥様を俺を離してほほえんで俺の頭をなでた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ