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出会い③

 みんなの汗と努力の結晶である例の空堀と木の壁がついに完成した。これでレッサーゴブリンとフォックスの受け入れ体制が整ったのだが、なぜだ? なにやってんの? こいつは?


「フガ」


「いやいや、フガじゃないよ。なにしてんの?」


「フガ、フガ?」


「おいおい」


 空堀の中にボアがはまって、仲間になりたそうな顔でこちらを見上げている。


「しょうがないから、もう絞めて食べるか?」


「フガ」


「うん?」


「フガフガ」


「いやいや、そんなウルウルした目をしてもダメだからね。これ以上ウルフ以外をブラックドッグ家に連れて帰ったら、今度こそ俺が放逐されるから」


「フガ」


「『フガ』じゃねぇだろ!? おい」


 俺がそうツッコミを入れてから「こいつ、どうする?」と振り返ると、ゴブゾウたちが俺から離れて遠巻きでこちらを見ている。


「いやいや、なんか俺のせいみたいな雰囲気になっているけど、勝手に落ちているこいつが悪いからね」


 俺はそう言ったが、返事がない。


 お前らはただのしかばねか?


「それにさ、君たちも普段からボア食べているよね? なにその小学校で豚を飼ったからピーちゃんを食べるのかわいそう的なノリは?! お前たちは知らないうちにお母さんがおいしく料理したピーちゃんを食べているからね。とんかつも、ポークステーキも、角煮も、ホイコウローもみんなピーちゃんだからね!」


 俺がそう言っても『うわぁ』と言う顔でゴブゾウたちが後ずさる。


「おい!」


 俺がもう一度見下ろすと、ボアがまだウルウルした目で見るので、俺は「はぁ」と息を吐いた。


「わかった、わかったから。今回はノーカンな、堀から出してやるから森に帰れよ、いいな?」


 ということでみんなで丸太を斜めにかけて、出られるようにしてやる。ボアは「フガ、フガ」と言って丸太を登って堀から脱出した。


 うん、全身を確認したが堀に落下したくせに怪我はないみたいだ。


「良かったな、悪いがつぎ会ったら敵だからな」


「フガ、フガ」


 うなずいたボアがなぜか俺の体に自分の体を擦り付ける。


「おい、なんの真似だ?」


「フガ」


「だから、なにしてんの?」


 俺が聞くと近くにいたゴブゾウが「懐かれたな」と言った。


「いやいや、これからも俺はボアをおいしく食べるからね」


「いや、完全に懐かれただろ?」


「えっ?」


 俺はボアの頭に手をおいて「お前とは仲良くやっていけないと思うよ」と言ったが、クンクンと鼻を動かしたボアが俺の手の匂いを嗅ぐ。


「お前、絶対わかってないよな?」


 俺はボアにそう聞いてから、ゴブゾウに「どうするの、これ?」と聞いた。


「絞めたらいいんじゃないか?」


「えっ?」


「絞めれるものならな」


「うっ」


 俺がそう声をもらしてボアを見ると、ボアはまたうれしそうに俺の体に自分の体を擦り付けている。


「うー」


「どうした?」


「絞めれない……」


 俺はそううつむいて、ゴブゾウを見た。


「兄さん」


「なんだ?」


「やって」


 俺がそう言うと、ゴブゾウが「ばっ、馬鹿なのか?」と後ずさる。


「なんで?」


「『なんで?』じゃねぇだろ? そんなのやれるか!」


「兄さんだから大丈夫だよ」


「そんなわけないだろ。俺はお前の中でどんな奴ってことになってんだ? 鬼か? 悪魔か?」


「じゃあ、どうすんの?」


 そう言った俺がボアの頭をなでると、ボアは「フガフガ」と目を細める。


「馬鹿、お前、そんなことをしたら……」


「うん、強そうなウルフで通じるかなぁ」


「それは無理なんじゃないか?」


「だよねぇ」


 そして、いつも通りに追い込み猟でディアを倒して、それをボアの背中に積むと、ボアは「フガフガ」とうれしそうに運ぶ。


「なんか、アニキの役に立ってうれしいみたいっすね」


「タマ、わかっているから言わないで、どうするの? 奥様に『そいつも絞めなさい』って言われたら……」


「無理っすよね」


「そうだろ? これ以上、愛着が湧いたら俺はこいつと逃げるしかないよ」


「それだけはダメっす」


「うん?」


 俺が首をかしげると、タマは「いや、そのときは私もついて行くっす」と言った。


 おいおい。それだとアビーの従者が誰もいなくなるぞ。アビーが泣くだろうね。


「でもこいつは力があるな」


「そうっすね、ディア運ぶのも楽勝っすね」


 森を抜けるといつも通りハンスたちが待っていて、俺の後ろからルンルンと歩いてくるボアを見て「おい!」とツッコミを入れた。


 あんまりにも驚くとみんな揃うらしい。


「ポチ、これは?」


「うん、拾った」


「いやいや、さすがにダメなんじゃないか?」


「うん」


 俺がうなずくとハンスは呆れ顔になって、タマが「ピーちゃんっす」と笑う。


「タマ? あのさ、ピーちゃんは仮だから、名前はまだないから、我輩的なやつだから」


「えっと?」


「あのさ、いろいろあるんだよ。著作的なノリが『いやぁ、黒豚じゃないし、首にスカーフ巻いてないし、いいよね?』とか言っても、豚と猪の線引きあたりからツッコミを入れてくる人とかいるから」


「でも、こいつ自分のことピーちゃんだと思っているっすよ」


「えっ?」


 俺がボアを見るとボアは「フガフガ」と言う。


「いやいや、まずいよぉ」


 俺が困るとハンスたちから「そこじゃねぇだろ!?」とツッコミが入った。


 ボアがディアを背中に積んだまま運び、ハンスたちも「これは楽だな」と言っていたが、屋敷の裏まで来ると素早くボアの背中からディアを下ろして解体を始める。


 そして、奥様とジェムが屋敷から出てきた。


「おい!」


「うん?」


「ポチ、そいつはなんだ?」


「うん?」


「『うん?』じゃねぇだろ?」


「ジェムはなに怒ってんの?」


 俺がそう聞くとジェムが「それだ!」とボアを指差した。


 どんなに上手に隠れても、俺の背後では全身見えている。


「あんまり大きな声を出すから怯えているじゃないか? まったく」


「あぁ、そうか、すまない……じゃ、ねぇだろ?!」


 ジェムが怒鳴ると、奥様がゆっくりと口を開いた。


「ポチ、今度はその子なの?」


「はい、奥様」


「役に立つのね?」


 その質問に俺が「はい」とうなずくと、奥様は「はぁ」とため息を吐いて「仕方ないわね」と言った。だけど、ジェムが「奥様」と止める。


「ボアは知能が低いので、テイムしても役に立たないと言われていますよ」


「わかっているわ、だけど、ジェムはあの子の知能が低いと思うの?」


「えっ?」


 驚いたジェムが俺の背中になんとかして隠れようとしているボアを見て「嘘ですよね」と笑った。


「あいつ、怖がって隠れようとしているんですか?」


「そうね。きっと帰ってくるまでにポチとタマがなにか言ったのでしょう。怖い人に会って、その人が認めてくれなければポチとタマと一緒にはいられないと思ったんだと思うわ」


「ありえない……」


「ありえるのよ。だって、ポチみたいなゴブリンだっているのよ、もう私はこの程度で驚いたりしないわよ」


「だって奥様、馬鹿で猪突猛進、突っ込んでくることしか知らないボアがゴブリンの背中に隠れるなんて……」


 ジェムが目を見開くと、タマが「ピーちゃんは意外とかわいいっすよ」と笑った。


「タマだからピーちゃんはまずいって」


「じゃあ、なんて名前にするんっすか?」


「いやぁ」


 ゴブスケの猪だから、やっぱりここは、イノ、スケ、いやいや、それだけはまずいよ! 強くなる理由を知るまえに闇に葬られる未来しかみえん。


「それはアビーに決めてもらおうか?」


「そうっすね」


 タマがうなずくと奥様が「ジェム、アビーを呼んでいらっしゃい」と言った。


「奥様、本気でテイムするんですか?」


「仕方ないじゃない。それともあなたはあんなにもポチに懐いているあの子を絞めれるの?」


「えっ?」


 ジェムがボアを見る。


「どうなの?」


「どんなんだ?」


「どうなんっすか?」


「うぁぁぁぁぁぁ」


 ジェムが頭を抱えると、ハンスたちが「落ちたな」と呟いた。

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