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洞穴②

 主従契約が結ばれたあとで、ゴブゾウたちには革の胴当てと弓が渡された。


 さっそくジェムの指導を受けて弓の練習を始めたが、もちろんすぐに狩りができるようにはならないので、しばらくはくくり罠で狩りをしてもらうことになった。


 そして……。


「ゴブゾウ穴を掘る、スコスコスコォ、スコスコスコォ。のぞみは東海道、スコスコスコォ、スコスコスコォ。女房は土運ぶ、トコトコトコォ、トコトコ」


「おい!」


「なに?」


「『なに?』じゃねぇ! なんだ、その歌は?」


「いや『ゴブゾウ』だよ。聞けばわかるでしょ? 演歌の大御所の名曲をアレンジしたんだよ」


 俺が「なに言ってんの?」と聞いたら「お前がな」と返された。


「いつものごとく、まったく意味がわからんが、とりあえず自分の名前を使え!」


「嫌だよ、だいたいポチじゃ合わないし、俺には女房もいないんだよ。嫌がらせ?」


「はぁ? 嫌がらせはお前だろうが!」


 ゴブゾウが怒るので「本当に兄さんはわがままだなぁ」と言ったら、ゴブゾウは「どこが?」と聞く。するとゴブキチが「いいからポチさんたちも口動かしてないで手を動かしてくださいよ」と言った。


「だって、俺が真面目にやってるのに、兄さんがチャチャいれるんだもん」


「ちょっ、おまっ」


「ゴブゾウ、真面目にやってくれよ。なんだかんだでポチさんが1番進んでいるんだぞ」


「えっ?」


 ゴブゾウが驚いて俺の掘った穴を見て「嘘だろ?」と言った。


「マジか?」


「マジだよ」


「なんで、そんなに早いんだ?」


「やっぱり『ゴブゾウ』が効いているんじゃないの? 歌だけに」


「違うだろ!?」


「じゃあ、俺がベラトールだからだよ。きっと」


 俺が言うとゴブゾウが「ずりぃな」と呟くので、俺は「兄さん、遊んでないで真面目にやってよね」と言う。


「お前にだけは言われたくない」


「なんで?」


「『なんで?』って自分の胸に聞いてみろ」


「ポチは自分の胸に問いかけてみた。返事がない、ただの胸のようだ」


「おい!」


「うん?」


「『うん?』じゃねぇだろ?」


 俺たち兄弟がそんなほほえましいやりとりをしていると「あなたたちはいつも楽しそうね」とゴブエがこめかみをピクピクさせた。


「ゴブエ」


「姉さん」


「みんな真面目にやっているのだから、あなたたちも少しは真面目にやってくれないかしら?」


「はい」


「「えっ?」」


 ゴブゾウとゴブエが驚くので、俺が「どうしたの?」と首をかしげるとゴブゾウが「なんでそんなに素直なんだ?」と聞く。


「だって、兄さんがまた捨てられたらかわいそうだろ」


「おまっ、マジか?」


「マジだよ」


 ゴブゾウが「ゴブエ」とゴブエを見ると「なにを馬鹿なこと言っているの?」と言った。


「私があなたを捨てるわけないでしょ? だいたい『また』ってなに? 私は一度もゴブゾウを捨てていないでしょ?」


「本当か?」


「ばっ、馬鹿なことを言っていると怒るわよ」


「大丈夫なんだよな?」


「もう、ばか」


 土を持ったゴブエが赤い顔をして逃げて行くので、俺がニヤニヤしながら見送ると、ゴブゾウ兄さんが「本当に大丈夫なのか?」と呟くので、俺は「本当に馬鹿だね」と言う。


「なんだと!」


「ゴブエ姉さんが兄さんを捨てるわけないよ。愛してるからね」


「あっ、あっ、あっ」


「兄さんが壊れたレコードみたいになった」


「レコードってなんだ?」


 兄さんがそう聞いてくると、ゴブキチが「いいから真面目にやってくださいよ!」と怒鳴った。


 いま俺たちは洞穴の入り口の周りに堀を造っている。


 斧で木を切り、洞窟の前を切り拓いたら丸太を地面に並べて打ち込んで、洞窟の入り口を囲んだ。そして、今はその周りに堀を造っているのだ。


 ゴブキチが「あの、ポチさん」と声をかけてきた。


「これはどれぐらい掘るつもりなんですか?」


「そうだね。とりあえずは俺たちの背丈の倍ぐらいかなぁ」


「マジですか?」


「マジだよ」


 俺がそう言うとゴブキチはうんざりした顔をした。


 まあ、深さはまだ10分の1も行ってないもんね。それでも18人で掘っているから進み具合は悪くない。


 掘った土は、ゴブエたちが丸太の壁の内側に運んで、積んで踏み固める。


「内側を土で固めて壁の強度を上げながら、その盛り土を足場にして内側から弓を射れるようにするつもりだから」


「なっ!」


 ゴブキチが目を見開くと、土を取りに来たゴブヨが「こちらから一方的に攻撃できるのですか?」と聞く。


「どうだろうね。コボルトならそうなるかも」


「すごいですね、それ?」


「だけど、オークはきっとそんなに甘くないよ」


 3人は「えっ?」と驚いた。


「兄さんたちゴブリンはEランク、俺がベラトールのDランク、コボルトが兄さんたちと同じEランク、上の方のグラディアトルがDランク。それはわかるよね?」


「あぁ、その辺はジェムさんに教わった」


「オークの親玉はBランクだよ」


「B……」


 ゴブゾウが固まると、ゴブキチが「Bってどのぐらい強さなんですか?」と聞く。


「俺の2つ上のランクだよ」


 俺が答えるとゴブキチは「嘘だろ」と目を見開く。


「そんなの絶対無理じゃないですか?」


「そうだよ。だからこちらからオークには手を出さない。そして、最終的にコボルトはオークに潰してもらうつもり」


「森の支配者は伊達じゃないんですね」


 ゴブキチの言葉に、俺は「そうだね」とうなずいた。


「ポチ、お前」


「うん? なに、兄さん?」


「いずれはオークもやるつもりなのか?」


 ゴブゾウがそう言うので、俺が「なんで?」と聞く。


「お前、俺を騙せると思ってんのか?」


「兄さん」


 俺はほほえんでから「そうだね、いずれは倒すよ」と答えた。


「旦那様と奥様が大事にしていたウルフたちはCランクに進化するたびにオークの親玉に殺されたんだ」


「「なっ?!」」


 3人が驚くので、俺はガシガシと頭をかいた。


「報いを受けさせる。絶対に」


「ポチ……」


 ゴブゾウが言い淀んだときに「アニキ」とタマが帰ってきた。


「動きがあったの?」


「はい、コボルトたちが狩りに出かけるみたいっす」


「了解。兄さん、あと任せていい?」


「おう、任せろ」


 ゴブゾウがうなずくので、俺はタマに「じゃあ、行こうか?」と言って笑った。


 日の光が薄く差し込み、石にびっしりと生えた苔がキラキラと光を返す先に、コボルトたちに連れられたタマの兄弟たちが見える。その姿は傷だらけで、足も引きずっている。


「おら、早く歩け! まったく」


 1人のコボルトが姉を小突くと、兄のほうがかばって、兄も叩かれた。


 タマが「グッ」と歯を食いしばるので、俺はその頭をなでた。


「アニキ」


「さてと、さすがにこのところ俺たちがコボルトを乱獲しているから少しは警戒はしているみたいだね」


「そうっすね。だったら村から出なきゃいいのに」


「まあ、そうだけど、自分たちの食料の問題もあるし、プライドもあるんじゃない?」


「プライドっすか?」


「うん、なんの役にも立たない、ウルフにでも食わしておけばいいものだけどね」


 俺はニヤリと笑うと「じゃあ、やろうか」と言った。


 コボルトは10人。俺は後ろから1人ずつ矢で頭を射抜く。タマも1人ずつ襲って首を噛みちぎる。


 ドサッ、ドサッ。


 音に反応して「なっ、なんだ?」と振り返った男の眉間を射抜いた。


 最後のコボルトもタマが押さえつける。


「なっ、ふぉ、フォックス?」


 そう言ったが「グフゥ」と血を吐いてタマに倒された。


「もっと周りを警戒しないとダメだよ。タマの兄弟をいびって遊んでるからこういう目にあうのさ」


 俺がコボルトを見下ろしながそう呟くと、タマが「ゴブゾウさんやジェムさんが聞いたら苦笑いを浮かべるっすね」と笑う。


「そう?」


「そうっす」


 俺たちが近づくと意味がわからないのだろう。タマの兄弟は寄り添い合って震えていた。


 タマが近づいてなにかを話しかけて、俺を紹介した。


「なんだって?」


「『ありがとうございます』って言ってます」


「そっか、じゃあ、コボルトの魔石だけ回収して、とりあえず帰ろうか?」


「はいっす」


 俺たちがブラックドッグ家の屋敷に帰ると、さっそく待っていた奥様とタマの兄弟の契約が行われた。


 例のパパパパーンな儀式かと思ったが、初めて1人で行う契約を見た。


 相変わらず言葉は誓いの言葉に近いけどね。


 そして、タマの兄弟の救出とゴブゾウたちの弓のトレーニング、堀の建造が並行して行われて、コボルトの魔石をバリバリと食べていたゴブゾウとゴブキチが無事にベラトールに進化した。

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