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洞穴①

 俺たちが族長の洞穴を出ると、ズラズラとレッサーゴブリンたちがついて来た。


「ゴブスケ!」


「うん? なに?」


「私たちも行くわ」


「ありがとう、ゴブナ姉さん」


 俺はそう言ったが、後ろからついて来ている100人ほどを見て頬を引きつらせた。


「思ってたより多い」


「はぁ?」


 ゴブナは呆れ顔になると「進化したのに、やっぱり中身はゴブスケね」と笑う。


「あんたはいつもぼぉーとしてて、なに考えているのかわからないし、意味のわからないことばかり言ってたもんね」


「ひどくない?」


「ひどくないわよ。事実だし」


 ゴブナがそう言うとゴブゾウが「そうだな」と激しくうなずく。


「兄さん?」


「いや……」


 ゴブゾウが言い淀んで視線を泳がせると、ゴブナが「兄さんはどうしたの?」と笑った。


「ゴブエの命を救ってもらったからな」


「そうだったのね。それでゴブスケに頭が上がらないの?」


「まあな」


 ゴブゾウがうなずくので、俺はゴブナに「それと」と言った。


「ゴブスケはもういないからポチでお願い。統一しないとみんなが混乱するでしょ?」


「そっ、そうだったわね」


 ゴブナがさみしそうにそう言ったので、俺は「ごめんね」と謝る。


「なんであんたが謝るのよ」


「だってさ」


「名前なんて大した問題じゃないわ。あんたが私の弟じゃなくなるわけじゃないもの」


「うん、そうだね。ありがとう、ゴブナ姉さん」


 俺がそう言うとゴブナはギュッと抱きしめてくれた。


「それで兄さん。みんなが暮らせる洞穴ってある?」


「そうだなぁ」


 ゴブゾウがみんなを見ると、ゴブヨが「人族の住処に近くても良ければ、放棄された洞穴があります」と言った。


「おぉ、都合がいいね」


「なんでも住んでいたゴブリンたちは、かなり昔に冒険者って人族に壊滅させられたらしいです」


「なんと!」


 おぉ、やっぱり冒険者いるのか!


「まあ、とりあえずそこに行ってみよう」


 ということで、ゴブヨの案内でその洞穴に来た。


 中はなかなかに広いし、放棄されてから長いけど、問題はなさそうだ。


「じゃあさ、ちょっと出てくるからゴブキチたちで部屋割りとか掃除とか進めといて」


「わかりました。任せてください」


 その場はゴブキチ、ゴブヨ、ゴブナに任せて、俺とゴブゾウはゴブゾウの穴ぐらに戻ってきた。


「タマ、ありがとう。大丈夫だった」


 俺が中に入ると、タマが「あっ」と声をもらした。


「タマ……裏切ったのね!」


「いや、アニキ、これは、違うっす」


「どう違うのよ! 不潔よ、フケツ」


 俺がそう言うとゴブゾウが「それはなんだ?」と首をかしげた。そして、うれしそうにタマに抱きつきながらモフモフしているゴブエが「おかえりなさい」と言う。


「ただいま、姉さん、良くなったんだね」


「うん、すっかり元通りよ、ありがとね、ゴブスケ」


 ゴブエがほほえむと、ゴブゾウがゴブエにすがりつきながら、また泣いた。


 まあ、仕方ないよね。


 申し訳なさそうなタマが俺のところまで来たので、俺は「冗談だって」と笑う。すると、泣きそうなタマが「それでもやっぱり怖いっす」というので、抱きついて「留守番ありがとね」とモフモフした。


 ゴブゾウたちには、新しい洞穴に行っててもらい。俺とタマはディアを狩って、それを担いで洞穴に戻った。


「ただいま」


 俺がそう言って洞穴に入るとゴブキチが出てきた。


「おかっ、ええっ?!」


「うん?」


「ディアってポチさんが1人で狩ってきたのですか?」


「いや、相棒がいるから」


 俺がタマを紹介すると、ゴブキチが「なんでフォックスがいるんだ!」と怒鳴る。


「怒鳴るなよ、ゴブキチ」


「しかし、そいつらは……」


「うん、同じコボルトの被害者だ」


「えっ?」


 ゴブキチが目を見開き、奥から出てきたレッサーゴブリンたちも驚いている。


「フォックスたちもコボルトたちに無理やり従わされているだけだ。だから、俺はフォックスも救う」


「でも、我らとフォックスでは種族が違うじゃないですか?」


「そうだね。でも、同じ人族の従者として、これからは仲良くやってほしい。とりあえず、ゴブリンから5人、フォックスから5人、代表者が人族の従者となるが、その下の者たちも人族にはもちろん、味方同士としてお互いに手を出さないと誓ってほしいんだ」


「そうですか」


 ゴブキチは複雑な顔をしたが「逆の立場なら俺たちもフォックスたちと同じことをしていたでしょうからね」と言った。


「ゴブキチ?」


「俺はポチについて行くって決めたから、もちろん従いますよ」


「ありがとう、ゴブキチ」


 ほかのレッサーゴブリンたちも「わかりました」と言ってくれたので、とりあえずディアを任せて、奥に入った。


「ゴブゾウ兄さん、従者には誰がなるの?」


「あぁ、俺とゴブエ、ゴブキチとゴブヨ、あとはゴブナか、ゴブザだな」


「ゴブザ?」


「あぁ、ゴブヨの弟だ」


「コボルトを襲ったっていう?」


「そうだ」


 ゴブゾウがそう言うと、ゴブザが「兄さんを助けてくれてありがとう」と頭を下げた。


「気にしなくていいよ」


 俺はほほえんで、それから「うーん」と困った。


「ゴブナ姉さんにも、ゴブザにも戦う理由があるもんね」


「そうだな」


「わかった。1人追加できないか、聞いてみるよ」


 俺がそう言うと、ゴブザが「いいのか?」と聞いてきた。


「なにが?」


「『なにが?』って、俺が裏切るとか思わないのか?」


 ゴブザが首をかしげるので、俺は「あのな」と言う。


「従属をわかってないみたいだから言うけど、簡単に言えば奴隷だからね。俺の主人はとてもいい人たちだから酷いことになってないけど、そもそもこの首輪をはめられた時点で裏切るとか無理だから」


「そうだったのか……」


「よく考えてね。人族たちに危害を加えることはできない。その代わりに進化を手伝ってもらえるし、戦いかたも教えてもらえる」


 俺がそう言うと、ゴブヨが「迷うならやめておいたほうがいいわ」と言った。


「姉さん」


「私もゴブキチも全面的にポチさんを信じることにしたから、ポチさんに従って強くなって私が父さんと母さんを助けるわ」


「だが、人族に逆らえなくなるんだぞ」


「それでもいいの、あのままだったらゴブキチは死んでいたし、あそこにいても父さんと母さんを助けることはできないもの」


「そうなのだが……」


 ゴブザが言い淀むので、俺は「決まったね」と言った。


「えっ?」


「従者はゴブナ姉さんにする」


「俺は……」


「悪いけど、それがいいと思う」


 ゴブザがギュッと顔をしかめる。すると、ゴブキチが「俺たちのことは気にするな、人族への従属が嫌ならここを抜けてもいいんだぞ」と言った。


「ゴブキチ兄さん?」


「ほかのやつらにもさっき言ったのだ。一度足を踏み入れたらやっぱやめたとか許されないし、引き返すことなどできない。覚悟がないなら手遅れになるまえに降りたほうがいい」


「覚悟……」


 ゴブザがうつむくので、俺は「まあ、人族との契約はまだ先だしゆっくり考えてよ。みんなにもそう言ってくれる?」と言った。


 ディアはみんなに食べてもらい、俺は「また明日来るね」と洞穴を出た。そして、少し歩いて洞穴を振り返る。


「堀と木の囲いが欲しいな」


「どうかしたっすか? アニキ」


「うん、洞穴の入り口の前に『堀と囲いが欲しいな』と思って」


「ほり? かこい?」


「えっとね、空堀って俺の身の丈ほどの溝と、コボルトの村に囲んでいるよりも頑丈な木の壁かな」


 俺がそう答えると、タマは「なっ?!」と驚いた。


「そんなものを造れるっすか?」


「うん、人族の道具を借りればやれると思う」


「すごいっすね」


「うん、一時的でもここにコボルトの村から連れ去ってきたレッサーゴブリンとフォックスたちを匿うことになると思うし、オークのこともあるから守りは堅めたいんだよね」


「そうっすよね」


 タマがまた険しい顔をしたので、俺は「とりあえず、奥様に相談だな」と言った。


「勝手にやったら怒られる未来しか見えん」


「確かにそうっすね」


「優しいけど、奥様は怒ったら怖いからね」


「わかるっす」


 俺たちはうなずきあって笑う。


「じゃあ、俺たちの家に帰ろうか?」


「はいっす」


 タマが返事をしたので、俺たちはまた歩いて帰る。

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