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商人②

 ジェンガの話が終わったあとで俺は「奥様、お願いが」とレッサーゴブリンとフォックスが置かれている状況とゴブゾウとゴブエの事を話した。


「なるほどね。それで?」


「人族の薬なら助けられますか?」


 奥様は「たぶん大丈夫よ」と俺にうなずくとオーティスを見た。


「ポーションって売ってもらえるかしら?」


「はい、もちろんです」


「ですが、その子たちはどうするのですか?」


「どうって?」


 奥様が首をかしげるとオーティスは「テイムしましょう」と笑った。


「「はぁ?」」


 俺と奥様が驚くと、オーティスは「なにを驚いているのですか?」と言う。


「ポチさんはその兄弟をポーションで手当をし、肉や魔石を与えて進化させるんですよね」


「はい、そのつもりです」


「でしたら、せっかくなのでそのゴブリンたちは旦那様にテイムしてもらいましょう」


「でも、兄さんたちは、その、オーティスさんの思っているようなゴブリンじゃないと思いますよ」


 俺がそう言うと奥様が「ポチは変わってて馴染めなかったのよね」と苦笑いを浮かべた。


「それはもちろんわかってますよ。私だってポチさんみたいなゴブリンが他にもいるとは思ってません」


「じゃあ?」


「コボルトの件が終わったあとは、ディアやボアを狩って来てもらったり、薬草やイモムシの繭玉を取って来てもらうんです」


 オーティスはそう言うと紙になにかを書き始めた。


「ゴブリンたちからそれらを私共が買います。その代金の半分はお金としてブラックドッグ家に支払い、残りの半分はゴブリンたちに物として提供します」


 オーティスは俺を見て「そうですね」と言った。


「まずはそのゴブリンたちに支払う分から先払いで従属の首輪と子供服と武器、防具を提供しましょう」


「いいんですか?」


 俺が聞くとオーティスは「いいですよ」とうなずく。


「テイムするのは代表者だけでいいので、首輪はとりあえず5個でいいですか?」


 俺が「はい」と答えると、奥様が「だけど」と言う。


「オーティスにはあまり得がないんじゃないかしら?」


「そんなことはありませんよ、私共を信じてもらい、ポチさんやブラックドッグ家との繋がりを強固なものにできるならこれぐらい安いものです」


「信用を買うってことね」


「そうです、こんな機会はそうそうないですから」


 オーティスがそう言うと奥様は腕を組んだ。


「悪いんだけど、うちへの支払いからも前払いしてもらえないかしら?」


「いいですよ、なにが必要ですか?」


「従属の首輪を追加で5個」


「追加で5個?!」


 オーティスは苦笑いを浮かべてから「用意しましょう」と言った。


「この5個は私がフォックス5匹と契約するためよ。言いたいことはわかるわね、ポチ」


「はい」


 俺がうなずくとオーティスが「どういうことですか?」と聞いた。


「タマのためにゴブリンだけではなく、必ずフォックスたちも助けなさいってことです」


 俺がそう答えると奥様は「正解ね」とほほえむ。


「タマは私たちの家族だもの、タマのためにタマの家族を助けるのは絶対よ」


「そうですね」


 俺がそう答えると、オーティスが「わかりました」とうなずく。


「奥様、半分はウチが持ちますよ」


「「えっ?」」


「ウチの家訓に『損して得取れ』と言う言葉がありましてね。ここでさらにポチさんに恩を売って、そのうちにまた新しい娯楽を考えてもらいます」


 オーティスはそう言ってニヤリと笑った。


「俺が思いつかないとかは考えないのですか?」


「そうですね。まぁ、それでもポチさんはギルバート様のお友達ですからそちらからでも回収はできますよ」


「なるほど……」


 俺がうなずくと奥様が「素直じゃないわね」と笑う。


「利益は積み木で取れるから、健気なポチとタマを応援したいって言っちゃえばいいのに」


「こりゃ、参ったなぁ。ですが、そう言った顔を見せないのも商人ですから」


 オーティスがコホンと咳払いをすると「首輪は早急に用意します」と頭を下げた。


「ありがとうございます、オーティスさん」


「気になさらずに、ポチさん」


「えっと……ポチでいいです。なんか痒いんで」


「わかりました。では私のこともオーティスとお呼びください」


 俺たちは「ポチ」「オーティス」と呼び合うと握手をした。


「というか、奥様もテイマーだったんですね」


 俺が聞くと奥様は頭をかいた。


「そうよ、だからウチには首輪が2つあったの」


 奥様がギュッと顔をしかめて、それから「話しておいたほうがいいわね」と言った。


「ポチ、あの森の支配者であるオークに気をつけなさい」


「はい、わかってます」


「本当にわかっているの?」


「えっ?」


「私たちもわかったつもりになっていたのよ」


 奥様は悲しげな表情をしてから続けた。


「私とフレディのパートナーは全てハティまで進化したわ」


「ハティ?」


 俺が聞くとオーティスが「Cランクの銀色の毛並みをした綺麗なウルフです」と答えた。


 Cランク?! おいおい、ジェムの話だとウルフがEで、エクィテスがDだから、さらにその上。進化した俺やタマ、それからオークよりも1つ上ってことだね。


「だけどね。その度にあっさりとオークのリーダーに殺されたの」


「えっと、Cランクがあっさり?」


「そうよ」


 嘘だろ?


 俺が唖然となるとオーティスが「ってことは、あの森にいるオークたちのリーダーはBランクのフリムニルですか?」と聞いた。


「そうだと思う。旦那様の話だと最後に見たときは赤色の髪だったと言ってたわ」


「赤髪のオーク、フリムニルですね。でも、なぜこんなところにBランクが……ありえない」


 オーティスが首を横に振るが、俺も同じ気持ちだ。


「本当ですよ、どうやったらあの森でBランクなんかになれるんですか?」


 俺はそう言ってから「嘘だろ」と呟いた。


「旦那様と奥様のウルフがCランクに進化するたびに倒して食べて自分が進化したってことですか?」


「半分はそうね。あとは支配者になることを狙ったコボルトやゴブリンがオークを食べてCランクになるたびに倒して食べていたのね」


 マジかよ……。


「そう考えると、どこまでもコボルトたちのやっていることが滑稽に見えますね」


「そうね、あくまでもオークのリーダーの手の上で踊らされているんだわ」


「手下にはCランクのオークもたくさんいるんでしょうね」


「そうだと思うわ」


 俺は頭をかいた。1匹ならまだわかるが、Bランクがもし他にもいたら、普通に考えて詰む。


 いや、もう詰んでるのか? 


 どちらにしてもコボルトたちを潰すならオークか、コボルトのDランクであるグラディアトルを食べて、最低でも俺とタマはCランクになるしかない。


 いや、逆にCランクになったらオークから狙われるというなら、遠慮することはないこっちからオークに手を出すか?


「やめなさい!」


「えっ?」


「ポチ、あなた今『こちらからオークに手を出すか?』とか思ったわよね」


「あれ?」


「あんたは頭がいい割に顔に出るのよ」


 奥様はそう言って「フフッ」と笑った。


「ですが、俺たちがコボルトの村を潰すにはCランクになる必要がありますよ」


「なにを言ってるの? あなたがわざわざ潰す必要はないわよ」


「えっと……」


「目的と手段を履き違えてはいけないわ。あなたの目的はなに?」


「仲間の救出ですね」


「そうよ、あくまでも救出。コボルトの壊滅ではない」


「俺とタマが奴らの相手をしているあいだに逃せばいい」


「そうね。だけど、そのときにポチとタマだけではなくゴブリンは手強い、今のままでは殲滅するのは難しいと思わせれば、コボルトはどうするかしら?」


 奥様が首をかしげるので、俺は「あっ」と声をもらした。


「俺と同じことを考える」


「そうよ、コボルトは必ずオークを狩って先にCランクになろうとするはずよ」


 奥様はニヤリと笑う。


「コボルトの壊滅はオークに任せればいいのよ」

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