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偵察①

 その日もコボルト狩りをしながらタマに案内してもらい。コボルトの村に来た。


 近くまで行って木に登ると、木で造られた柵でぐるっと囲まれた村の全体が見えた。


「思っていたよりデカイな」


「あたしがいたときより大きくなっているっす」


 タマが「あそこにあたしの家族がいるっす」と前足で示した場所はほぼ村の真ん中で、そこも木の柵で小さく囲まれていて、その中にフォックスたちが入れられていた。


 まだ、大丈夫だけど、みんな怪我しているし、だいぶ細く見える。


「怪我の治療ぐらいしやがれ、馬鹿野郎どもが」


 俺が思わずそう呟くと、タマがギリと歯を食いしばる音が聞こえた。


「それにしてもレッサーゴブリンたちがいないな」


「いや、いるっす」


 俺はタマが示した先を見て「嘘だろ?」と言葉がもれた。


 丸々と太ったレッサーゴブリンがみんな倒れている。もちろん死んでいるわけでも、怪我しているわけでもない。


「もしかして食べ疲れて寝てるのか?」


「たぶん、そうっすね」


 タマがうなずくと「なるほどな」と俺は言う。


「よくできたシステムだな、クソ野郎が」


「アニキ?」


「あぁ、悪い。俺の兄さんは4ヶ月ほぼ毎日ホーンラビットを食べていたけど、ゴブリンに進化してなかった」


「えっ?!」


 タマが驚くので俺は「驚くよな」とうなずく。


 だって、約120匹のホーンラビットを食べても進化しなかったのだ。それに引き換え俺は格上の魔物を10匹ぐらい食べただけで進化した。


「でもでも、あたしもアニキも同格のコボルトを食べて進化したっすよね?」


「そうだな、魔石をどのぐらい食べた?」


「えっ? えっと50個ぐらいですか?」


「そうだな、つまり最低でも人型の魔石は獣型の肉の3倍以上は効率がいいんだ」


「つまり、レッサーゴブリンをホーンラビットの肉で進化させたいなら3倍の150匹分を食べさせないといけないんですか?」


「いや、あくまでも最低3倍だから5倍10倍ってこともありえる」


 タマが「嘘、それじゃあ……」と俺を見る。


「そうだ。つまりホーンラビットを250匹とか、500匹とか、食べないとレッサーゴブリンはゴブリンに進化しないんだ」


「あの、アニキ? もしかして、養殖って無謀なんじゃ……」


「そうだな。おそらく空の上から俺たちを見て楽しんでいらっしゃる方は、ヌルゲーにするつもりがないんだろうな」


「ヌルゲー?」


 タマがかしげる。


「あぁ、同じ相手ばかり倒して食べる周回プレイや、今回の養殖みたいなプレイは許さずに、自分より少し強いやつを倒して食べないとなかなか進化しないように調節してあるんだ」


 俺はそこまで言って目を見開いた。


「くっそ、そうか!」


「どうしたんすか?」


「いや、俺たちが次に進化するには、コボルトの魔石を大量に食べるか? コボルトの上位種グラディアトルの魔石50個か、オークの魔石50個ってことになる」


「えっと、それって……」


「あぁ、オークに手を出すのは怖いから、今まで通りコツコツコボルトを狩ってここを壊滅させるぐらい狩らないとダメだな」


 俺がそう言うとタマは「それじゃあ」と呟いた。


 まぁ、気持ちはわかる。今まで通り森で見つけたコボルトを片っ端から狩るのはどう考えても時間がなさすぎる。オークに見つからないようにオークを1匹ずつ狩るほうが現実的だけど、リスクが高過ぎる。


「あの様子だと、あたしの家族はそこまで保たないっすね」


「そうだな、それにレッサーゴブリンもゴブリンになってしまう者が出るだろうな」


「ゴブリンになれば」


「あぁ、絞められて魔石を食べられる」


 俺は「あぁ」と頭をポリポリかいた。


「アニキ……」


「どの道、これほどの村を襲うとなると仲間が必要だな」


「そうっすね」


 タマはうなずく。そして「あの」と言った。


「あたしは捨てられてもいいっす。ウルフを仲間に入れて、進化させてゴブリンライダーに」


「うん? なに言ってんだ?」


「えっ?」


「『えっ?』じゃねぇよ」


 俺はタマの頭をなでる。


「だから何度も言ってるだろ? 俺の相棒はタマだから捨てることはない。それには、ゴブリンライダー1匹でこの村がどうこうなるわけないだろ?」


「じゃあ、どうするっすか?」


「あぁ、仕方ないから俺の家族に援軍を頼む」


「えっと……」


「レッサーゴブリンだけどな、兄さんたちが捕まっているとは思えない」


 俺はそう言うと木から降りて、まずは自分が生まれた父さんの穴ぐらに来た。中を覗くと誰もいない。


「アニキ……」


「大丈夫だ。父さんと母さんのことだからしぶとく生き残っているさ」


 俺はそう笑って次に来た。コブゾウ兄さんの穴ぐら、外には誰もいない。


「大丈夫だ。ゴブゾウ兄さんは俺より優秀だからな」


 俺はそう言ってから「ゴブゾウ兄さん!」と外から声をかけた。


 だが、返事がない。


「ゴブゾウ兄さん!」


「アニキ……」


 タマがそう言ったとき「お前らは誰だ?」と後ろから声をかけられた。俺が振り返ると見慣れた顔がある。


「ゴブゾウ兄さん!」


「うん? おい! ゴブスケなのか?」


 俺が「うん」とうなずくと顔を歪めたゴブゾウが走ってきて俺に抱きついた。


「良かった、良かった。お前は捕まってしまったんだと思ってた」


「うん、ある意味捕まっているんだけどね」


「えっ?」


 ゴブゾウが驚くので、俺は簡単にこれまでの話をした。


「そうだったのか。でも良くしてもらっているんだな」


「うん、アビーはいい子だから大丈夫」


「そうか」


 ゴブゾウはうなずくとタマに「ありがとう」と頭を下げた。タマは言葉がわからずに戸惑っていたが、俺が「『ありがとう』って言ってる」と言うと恐縮した。


「ゴブエ姉さんは?」


「あぁ」


「どうしたの?」


 顔を歪めたゴブゾウ兄さんに連れられた俺たちが穴ぐらに入ると、穴ぐらの中には大怪我をして寝ているゴブエがいた。


「なにがあったの?」


「コボルトたちがゴブエの両親の穴ぐらを襲ってな」


「ゴブエ姉さんは、家族を助けようとしたの?」


「そうだ」


「なるほどね」


 くそっ、奴ら……。


 俺はギュッと歯を食いしばってから、ゴブゾウを見た。


「兄さん、頼みがある」


「なんだ?」


「俺と一緒にコボルトと戦ってくれないか?」


 俺がそう言うとゴブゾウは顔を歪めた。


「もちろん戦いたいし、奴らをぶっ飛ばしたい。だけどな、俺はしょせんレッサーゴブリンだ」


「どうしたんだよ、兄さんらしくもない」


「えっ?」


「諦めなければ願いは叶うんだろ?」


「しかし……」


 言い淀んだゴブゾウは「そうだな」と笑う。


「まさか、ゴブスケにそんなことを言われる日が来るとはな」


「なっ! それはひどくない?」


「フフッ」


「プフッ」


 俺とゴブゾウは笑いあう。


「俺たち兄弟を怒らせたことを奴らに後悔させてやる」


「そうだね、あの尖った口の中に手を突っ込んで、奥歯ガタガタ言わしてやるよ」


「なんだそれ?」


「まあ、気にしないで、そのぐらいの意気込みってことだから」


「おう」


 さてと、まずは兄さんたちを強くして、コボルトたちを泣かしに行きますか?

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