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成長②

 その日、朝目覚めると俺の腕の中で頬を赤らめながらこちらを見ていたタマの様子がおかしい。


「うん? タマだよな?」


「そうっす」


「なんで青いの?」


「そういうアニキも髪と瞳が茶色になっているっす」


「えっ?」


 俺は一度止まり、それからタマをギュッとして「キタァァァァァァ!」と叫ぶ。すると「朝からなに騒いでんだ」と言ったジェムが入ってきて、俺とタマを見るなり「不潔よ」と言った。


「うん?」


 俺は首をかしげたが、タマが「誤解っす」と言った。


「お前たち、その、どこまで……」


「はぁ?」


「だから、その……」


「出た! ムッツリ」


「なっ、なんだと!」


 ジェムが怒るので、俺が「ムッツリにムッツリって言ってなにが悪い!」と返す。


「俺は断じてムッツリではない!」


「じゃあ、なんだよ」


「うっ」


「ムッツリじゃないなら、モッコリか?」


「もっ、もっ、モッコリ?」


「そうだ、お前はシティーなハンターなのか?」


「シティー? ハンター?」


 ジェムが首をかしげると、タマが「アニキの謎ワードは気にしないに限るっす」と笑う。


「そうか」


 ジェムはそううなずいてから「それにしても2人揃って進化したのか?」と笑った。


「あぁ、そのようだ。時は来たな」


「アニキ」


「そうだ、コボルトたちの村をぶっ潰してタマの家族とレッサーゴブリンたちを救い出す」


「なんの話だ?」


 そうジェムが聞いてきたので、俺たちは事情を話した。


「なるほどな、だが、そんな簡単にいくのか? 数は多いし、下っ端だけじゃないんだぞ」


「そうだな」


「焦る気持ちもわかるが、村を襲うならきちんと進化しているコボルトの数を確認してからにしろ」


 ジェムがそう言うので、俺はうなずく。


「確かにちょっと焦っていたかもな」


「そうっすね」


 タマがそう言って顔をしかめるので、ギュッとする。


「アニキ?」


「きっと大丈夫だ」


「はいっす」


 タマがうなずくとジェムが「お前らがコボルトの数を減らしているから俺もまだ大丈夫だと思う」と続く。


「それよりも、ポチは剣を扱えるようになったんじゃないか?」


「おぉ」


「子供用の木刀で練習してきたからな、奥様がお前でも背負える軽い片刃の剣を用意してくれているはずだ」


「えっと……なんで?」


「お前が考えた娯楽のおかげで公爵家がバックについてくれたからな、ブラックドッグ家は立ち直りつつある」


「おぉ、マジか!」


 俺が笑うとジェムも「マジだ」と笑った。


「それからタマにも防具を作ってくれている」


「防具?」


「そうだ、テウメソスに進化したから革製の防具をつけても動きに問題ないはずだ」


「本当っすか? 自分の分まで作ってくれて、なんかうれしいっす」


 タマが喜ぶとジェムは「だから」と言った。


「2人とも無茶をして、その、死ぬなよ。お嬢様が悲しむからな」


「おう」


「はいっす」


「よし、じゃあ、お前たちは無事に進化もしたし、次の目標はウルフのテイムだ。コボルトの村を襲うにも仲間を増やしたほうがいいし、ウルフをテイムしてエクィテスに進化させれば、騎乗できる」


「騎乗!」


「そうだ、ゴブリンライダーになれば、機動力も上がるし、コボルトたちに後れは取らないはずだ」


「おぉ、マジか! カッコいいね」


 俺がそう言うとタマが「そんな……」と言った。


「うん?」


「アニキ、あたしを捨てるんすか?」


 タマがそんなことを言い出すので、俺は「はぁ?」と首をかしげた。


「だって、アニキ、ウルフに乗ったらあたしなんて……」


「おいおい、なに言ってんの? 捨てるわけないだろ?」


「本当っすか?」


「本当だよ」


 俺はうなずいたが、タマは「でも……」とうなだれた。


 口で言っても信用できないよな。わかるよ。


 昨日まで親友って言ってたやつが、新しい友達ができると手のひらを返したように相手をしてくれなくなったり、クラスが変わると疎遠になったりするもんな。


 言葉なんてなんの意味もない。


「タマ、俺はお前を捨てたりしない。これからそれを態度で示して行くから見ていてくれ」


「アニキ」


 タマが顔をあげるので、ガシガシと頭をなでる。すると、ジェムが「お前」と言った。


「本当にポチだよな?」


「はぁ?」


「いや……」


「進化のたびにこれか? 俺だってふざけていいときとダメなときぐらいわかるわ!」


「本当か?」


 ジェムが目を見開くので「おい!」とツッコミを入れる。


「だって、いつもふざけているだろ?」


「まぁ、そうだけど、今はダメだ」


 俺がタマを見るとタマはハッと明るい顔をした。


「なんだよ、やっぱり好きなんじゃないか」


「うん?」


「ポチもタマのこと好きなんだろ?」


「また、それか! だから種族が違うし、俺たちのはつがいのそれじゃなくて、家族愛みたいなもんだ」


「なにが違うんだ?」


「それは……」


 俺が言い淀むとジェムがニヤニヤと笑う。そして、入り口から顔を半分だけ出してこちらを覗いているキムとアビーが聞き耳を立てている。


「お前らなぁ? 俺たちをからかって楽しいのか?」


「楽しい」


「楽しいわよ」


「楽しいよ」


「おいおい、アビーがキムに毒されているけどいいのか?」


 俺がそう言うとジェムがハッとして振り返る。


「あのまま行くと、キムが2人になるぞ」


「なっ!」


「お前の大事なお嬢様が、楽しければなんでもいい女に成長するぞ」


「そっ、そんなわけあるか……」


 ジェムが目を見開くので、俺はアビーに「俺たちをからかって楽しいのか?」ともう一度聞く。


「楽しいよ」


 アビーがケロッとした顔で、そううなずくとジェムが「嘘だろ……」と呟く。


「これは現実だ。ジェム、アビーはいま、キムに進化しようとしている」


「嘘だ、ウソだ、うそだ」


 ジェムは膝から崩れ落ちると、地面に手をおいた。そして、サッとキムを見て「キム! お嬢様になにをした!」と叫ぶ。するとキムは「フッフッフッ」と笑った。


 どこの悪役だ。


「なんの茶番っすか?」


「まぁ、もうしばらくやらせてあげようよ。どうせ、そろそろ終わるし」


「えっ?」


 タマが俺を見たときに「あんたたちは朝からなにを遊んでいるのかしら?」と奥様がきた。


「「あっ?!」」


 ジェムとキムとアビーがシンクロすると「遊んでないで、朝の準備をなさい!」と怒鳴る。


 蜘蛛の子を散らしたようにジェムとキムとアビーが逃げて行くと、奥様が俺たちを見て「進化したのね、おめでとう」と微笑んだ。


「あっ、ありがとうございます」


「ありがとうっす」


「次はウルフのテイムね。首輪は準備させているから少し待って頂戴」


「はい、わかりました」


 俺が答えると奥様は「頼みましたよ、ポチ」と言って出て行った。

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