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タマ

「今日からここがお前の家だからくつろいでくれ」


 俺がそういうとタマは入り口で「なっ」と戸惑ったあとで、笑顔を作ってから中に入った。


 うん?


 屋敷の中庭の端に立っている小屋が俺に与えられた家。広さは6畳ほど、ベッドはアルプスに住んでいらっしゃる幼女が愛用していたことで有名な干し草で、収納は小さなタンスが1個、他に物はない。


「まぁ、ちょっと狭いけど大丈夫だよな?」


「だっ、大丈夫っすよ」


「そうか、じゃあ、俺は水浴びしてくるけど、どうする?」


「そっ、そうっすね」


 タマはそう言いながら自分の体を見た。


「傷だらけだもんな。拭いて薬草を塗るだけにしとくか?」


 俺がそう言うとタマは「なっ!」と目を見開いた。


「うん? 拭くのも痛いか?」


「いやいや、違うっす。ちょっと恥ずかしいっすけど、自分で水浴びするっす」


「そうか? でも水浴びしてもタオルでちゃんと拭かないと風邪引くぞ」


 タマは「そうっすね」と言いながらモジモジした。


 なんだ?


「だから、俺が洗って拭いてやるよ」


「はっ、はいっす」


 中庭に出て井戸に近づいて水を組み、魔法道具で温める。それからそばの木に脱いだ服をかけると、タマが「ひやぁ」と言うので、俺は振り返る。


「どうした? 転んだか?」


「いや、大丈夫、大丈夫っす」


 タマが赤い顔でそう言うので、俺は「そうか」とうなずく。


 転んだのが恥ずかしかったのか?


 俺が全部脱ぐと、タマが「しっ、刺激が」と呟く。


「どうした」


「刺激が……」


「うん?」


「いや、なんでもないっす」


「そうか」


 俺は水が温まっていることを確認して、水浴びを始めた。石鹸を使ってゴシゴシと頭を洗ってから流して、体もゴシゴシと洗う。


「よし、タマも洗ってやるよ」


「はっ、はいぃ」


「ちょっとしみるかもしれないが、がまんしろよ」


「わっ、わかったっす」


 俺がゴシゴシと洗うとタマは「ひやぁ」とか「そこはダメっす」とか「もう、お嫁に」とか言っているが、手早く洗ってやってからお湯をビシャアとかける。


 タオルで全身拭いてやって「先に戻っててくれるか?」と声をかけた。


「はっ、はいっす」


 そして、タマが少しフラフラしながら小屋に歩いて行ったので、俺は自分の体も拭いて新しい服を着ると、タライで着ていた服をもみ洗いする。


 それから、それを木に吊るして干して、ドライヤーみたいな魔法道具を借りて小屋に戻るとタマが干し草の上にきちんと座っていた。


 うん?


「ふっ、不束者ですが、よろしくお願いします」


「はぁ?」


「ふつつか……」


「なに言ってんだ?」


 俺が首をかしげると、タマは「えっ?」と驚く。


「『えっ?』じゃないだろ? こっちが驚くわ!」


「ですが、その……男女が共に暮らすとはそういうことかと……」


「えっ?」


「しかも、その……」


「うん?」


 タマが頬を赤らめながら「もう、お嫁に行けません」と言った。


「えっと……」


「責任とってください!」


「あのぉ……」


 俺が言い淀むと「これは責任取らないとまずいわね」と入り口でキムがニヤニヤした。


「きっ、キム? なぜここに?」


「いや、中庭を見たら面白、とんでもないことになってたから」


「おい! いま面白いことって言いかけたよな?」


「なっ、なんのことかしら?」


 キムはよそを見ながら口を尖らせて「ふぅー、ふぅー」と息を吐く。


「キムは楽しんでるだけだよな? 口笛も吹けてないし」


「ポチ! あんなことしといて、男として責任を取りなさい!」


「あんなこと?」


 俺が聞くとキムはタマを見た。タマは顔を赤くして「身体中を蹂躙されました」と言った。


「えっ?」


「『えっ?』じゃないわよ、タマちゃんは女の子なのよ」


「あぁ」


「『あぁ』って最低!」


 俺が「グッ」と声をもらすと、キムが「どうするの?」と言った。


「いやぁ、種族も違うし、俺には幼女趣味もないし……」


 俺が言い淀むとタマは「問題ないっす」と笑う。


「母ちゃんが言ってたっす。愛があれば種族の壁なんて関係ないって」


「マジか?」


「マジっす」


「いやいやいや、落ち着こう、いったん落ち着こうかぁ?」


「自分は落ち着いてるっす」


 タマがそう言うと、キムが「さぁ、どうする? どうする?」とニヤニヤする。


「あのさ、キムはちょっと黙っててくれる?」


「なんでよ!」


「いやいや、茶々を入れられると、ややこしくなるからね」


 キムが「出たわね」と何回もうなずく。


「ポチ、逃げる気ね、まったく」


「逃げる?」


「いるのよねぇ、はぐらかしながら自分は責任を取らずに、付き添いで来た彼女の友達を糾弾して、とりあえずその場を逃げようとするやつ」


「おいおい、どこの世界の話だ? 子供ができちゃったけど逃げようとしている男と彼女と彼女の友達の話に聞こえるよ?」


「似たようなモノでしょ?」


「はぁ?! 全然違うわ! 俺はペットを洗ってやっただけだし」


「ペット? 言うに事欠いて女の子をペット呼ばわり? 最低ね!」


 キムがそう言うとタマが「いいんです!」と言った。


「はぁ?」


「いいんです。あたしは……」


「待て、タマ、そんな言いかたをされるとだな……」


「命を救われましたし、すべてアニキに捧げます」


 そう言ったタマが目を閉じて顔を突き出すので、俺は「おい!」とツッコミを入れる。


「わかったわ、私が立会人になってあげる」


「ちょっと待て、 いや、ちょっと待とうか? いやいや、ちょっと待ってください!」


「なによ?」


「馬鹿なのか? お前ら2人は馬鹿なのか?」


「馬鹿はあんたよ。ほれ、女の子に恥かかせてんじゃないわよ。さっさとチューしちゃいな」


「はぁ?」


「ほれ、チューッ、チューッ」


「ばっ、馬鹿やろう! チューってのはそんな風にするもんじゃないだろがい!」


「じゃあ、どうするのよ?」


 キムが小さくなっているタマを見た。


「とりあえず、一緒に暮らしてみてタマの気持ちが変わらなかったら……その……」


「責任を取るのね?」


「いやいや、やっぱり、ほら、種族が違うし」


「なんなのよ! 煮え切らないわね」


「いっ、一生のことなんだし、そんな簡単に決められるか!」


 俺がそう言うとタマが「とりあえずそれでいいっす」と言った。


「まぁ、タマちゃんがいいなら、いいけど」


「キムはあからさまにつまんなそうにするな!」


「だって、つまんないし」


「おい!」


 俺はそうツッコミを入れたあとで「そっちはどうなんだ?」と聞いた。


「うん?」


「『うん?』じゃねぇ! ジェムとはどうなんだ」


「ジェム?」


「とぼけんな!」


「いや、だって、とぼけるもなにも私たちは幼なじみだし」


 キムがそう言うので、俺は「出た!」と言う。


「なによ?」


「イケメン系主人公の幼なじみなんて1番の不遇ポジションだぞ。ちょっとした出来事ですぐに惚れて唇を許してしまうチョロインに横からあっさりさらわれても知らねぇぞ」


「そんな子、いるわけないじゃない」


「アホか? さっき囃し立ててタマをチョロインにしようとしたのは誰だ?」


「あっ!」


「『あっ!』じゃねぇ、マジか? キムは楽しければなんでもいい、マジモンのアレか?」


 俺が聞くと、キムは「まぁ、そうだけど」と首肯した。


「そこは認めんな! 否定しよう、全力で否定してくれよ」


 俺はそう言って肩を落としてからキムを見る。


「ハッキリしとかないで、親友ぶったゆるふわ系にかっさらわれて闇堕ちしても知らねぇからな」


「闇堕ち……」


「俺は嫌だよ『いいよ、一緒にいてやるよ』と言いながら死ぬのは」


「なにそれ?」


「いや、こっちの話」


 俺が苦笑いを浮かべるとキムが「どっちの話よ!」とツッコミを入れる。


「いやいや、そこはビビッと察してくれよ。これ以上はいろいろデリケートだから……」


「よくわからないけど、わかったわ」


 キムが「なかよ、クフフ」と笑って出て行ったあとで、タマをドライヤーみたいな魔法道具で乾かしてやる。


「あの」


「どうした?」


「アニキにお願いが……」


「うん?」


 タマが振り返るので、俺は手を止めた。


「家族を救ってほしいっす」


「家族って……もしかして、みんなコボルトに捕まっているのか?」


「そうっす……」


「なるほどね」


 俺は天井を見上げてから再びドライヤーでタマを乾かす。


「いいよ」


「いいんっすか?」


「うん、だけど」


「だけど?」


「助けるのはタマだ」


 俺がそう言うとタマが「えっ?」と驚いてまた振り返るので、俺は「前見てないと乾かせないだろ」と言ってから「フフッ」と笑う。


「俺と一緒に強くなってタマが助けるんだ」


 少し間があって「わかったっす」とタマは言った。

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