娯楽②
俺たちが屋敷に入るまえにアビーが呼ばれた。
「ポチ!」
ジェムに連れられてきたアビーがそう言って走ってきて、俺たちの近くまできたら思い出したように立ち止まる。
うん?
「ポチ、ハウス!」
「あっ」
俺はそう声をもらして、首輪のコマンドで吸い寄せられるようにアビーに抱きついた。するとアビーは満足げに俺の頭を「いい子ねぇ」となでる。
「いやいや、いいんだけどさ。そこまで走ってきたのにわざわざ止まってまで俺に抱きつかせる必要ある? ねぇ?」
「ポチ、嫌なの?」
アビーが少し瞳をウルウルさせながら、そう言って俺の顔を覗き込む。
「嫌じゃない! 嫌じゃないよ!」
「うん」
アビーはうれしそうに笑ってまた俺の頭をグリグリとなでた。
うん、勝てないね。だけど、かわいいは正義だから仕方ないよ。
そして、あのパパパパーン的な言葉の儀式が始まった。ジェムがアビーに確認してアビーが「誓います」と言った。
「ってか、アビーは自分でやるやつ忘れたのか?」
「うん」
「というか、覚える気ないよな?」
「うん」
「あとはウルフだけだからいいと思ってんのか?」
「うん」
おいおい。
しかし、もちろんアビーはニコニコと笑っているからよしとしよう。うん。
フォックスにも確認がおこなわれて、フォックスが「クゥ」とうなずくと首輪がキュッと首のサイズになってそれからピカァと光った。
おぉ。
「アビーだよ、よろしくね」
「フォミです、よろしくっす」
「フォミじゃないよ、タマだよ」
アビーがそう言うとフォックスは「タマ?」と首をかしげた。
「いやいや、しゃべれるの?」
俺がツッコミを入れると、ジェムが「なに言ってんだ?」と言う。
「お前だって首輪で話せるようになっただろ?」
「あっ」
「『あっ』じゃねぇだろ? お前はアホか?」
ジェムが「フフッ」と笑って、次に「お嬢様がタマと言えば、お前はタマだ」とフォックスに言った。するとフォックスが「わかったっす」とうなずくので、俺が「おい!」とツッコミを入れる。
「お前、簡単に受け入れすぎ! それになんで? タマ? フォックスならさ、ゴンとか、ダッキとか、あるよな? 有名なやつ。それにせめて猫的な名前ならポピーとか、ルナとか、そういうのにしてやれよ! いやいや、待て、確かタマって有名な狐もいたなぁ……うん?」
「ポチは嫌なの?」
「うっ」
またしてもアビーがウルウルしながら俺を見る。
「嫌……じゃない」
俺がそう言うと、ジェムが「はぁ」とため息を吐いた。
「ポチはいい加減に学習しろ、お嬢様に勝てるはずないんだから受け入れるんだ」
「おい! それでいいのか? いろいろと」
「いいんだ」
「いやいや、よくねぇだろ? アビーがわがまま娘になるぞ」
俺がそう言うとジェムは再び「はぁ」とため息を吐いてアビーを見た。
「じゃあ、お前は勝てるのか?」
「いや」
「あんな顔で見られて、ノーと言えるのか?」
「いや」
「じゃあ、諦めろ」
「マジか?」
「マジだ」
あははぁ。
俺が肩を落とすと、フォミ改めてタマが俺のところまで来た。
「アニキ、改めてよろしくっす」
「おぅ、ってか。なんでアニキ?」
「兄弟の契りを結んだっすから」
「えっと、どちらの筋の方ですか?」
「フォックスっす」
「だよな」
俺は苦笑いして、それから「タマって女の子だよな?」と聞いた。
「そうっす、自分は女っす」
「しゃべりかたはそれでいくのか?」
「うん?」
「いや、いい、それは、それでいい」
俺が「うんうん」とうなずくとアビーと一緒に来たキムが「プフッ」と笑う。
「キムはなんで笑ってんだ?」
「ポチは少女に弱い」
「うっ」
俺はそう詰まって「いやいや」と首を横に振る。
アビーにタマ……ロリー、違う! 断じて違う! ノー、ロリータ!
俺がそう決意すると、旦那様が「そろそろいい?」と聞いてきた。
「すみません」
「いや、大丈夫だよ」
旦那様はほほえんで、タマを見た。
「タマ、私はフレディ、こちらは妻のマギーだ。よろしくね」
「はい、旦那様、奥様。よろしくっす」
タマが頭を下げると奥様も「よろしくね」と笑った。
屋敷に入るとテーブルにトランプが並ぶ。
なるほど、絵柄は4種類だし、数字も1からふってあって、基本的には一緒だけど、もちろん絵柄は魔物だし、数字が15までだからトランプの枚数も多い。
それにジャックやクイーン、キングはない。なのに、ブラックジャック……まあ、いいか。
「これ、なんだが」
「なるほど、どのように遊ぶのですか?」
「あぁ、ほとんどがブラックジャックだよ」
旦那様がそう言ってトランプを集めるとシャッフルして1枚目は数字がわかるように配る。そして、2枚目は伏せて配って、プレイヤーは伏せてあるトランプを見ながら追加のトランプをもらったりしてオーバーしないように21に近づける。
10以上が全部10なのも、1が1と11を兼任するのも一緒だけど、10以上が多いから20も出やすいがオーバーも出やすい。よりギャンブル性が高い気がする。
だけど、基本的には俺の知ってる『ブラックジャック』だ。
「そうですか、これは俺たちには難しいですね」
「うん?」
「俺は人が使う数字がわからないので」
俺がそう笑うと、旦那様は「そうか」と肩を落とした。
うん、ごめんね。本当は『ポーカー』とか、ほかのギャンブルも思いつくけど、まだこちらにないなら持ち込みたくない。なので……。
「旦那様、すみませんがまたトランプを並べてもらえますか?」
「うん、かまわないが」
「お願いします」
俺がそう言うと旦那様はテーブルに1から絵柄ごとに並べた。俺はそれの真ん中の8だけを残して、他を集めた。
そう、皆さんご存知の『七並べ』をやろうと思う。これなら『チルドレンゲーム』だから大丈夫だよね。それに……。
「旦那様、これをさっきみたいに混ぜてもらえますか?」
「あぁ、かまわんよ」
旦那様に混ぜてもらって、配ってもらった。プレイヤーは、旦那、奥様、ジェム、キム、それから我らがアビーチーム。
「俺とタマは数字がわからないので、アビーと一緒にやります」
「いいよ。それでどうするんだい?」
「はい、順番に8の横のトランプを並べていきます」
「えっと?」
旦那様が首をかしげるので、俺はアビーの持っているトランプからゴブリンの9を取り出して、ゴブリンの8の隣に並べた。
「おぉ、なるほど。そうやって1と15に向かって並べて行くのか?」
「はい」
俺がうなずくと奥様が「ないときはどうするの?」と聞く。
「パスと言って、一回休みます」
俺がそう答えると、奥様は「そう」とうなずいて、自分の手札を見ながら、ウルフの7をウルフの8の横に並べた。
「パスは2回までにしましょうか?」
俺がそう言うと奥様は俺を見て「なるほどね」と笑う。そこからゲームは進み。
「ポチ、これは?」
「いや、それはあとにしようか?」
「そうなの?」
「アビー、そういう遊びなんだ。勝ちたいだろ?」
「勝ちたい!」
そううなずいたアビーは別のトランプを出した。
「あのぉ、誰ですか? ここ止めてるの」
「そうですよ、早く出してくれないとパスがなくなっちゃいます」
ジェムとキムはそう言ったがもちろんアビーというか俺である。
「くぅ、私も出せない。パス3回だな」
「では、旦那様は負けなので、トランプは正しい場所に置いてください」
「わかった」
うなずいた旦那様がトランプを置くと、どうやら別の場所を止められていたらしい。チラッと俺を見た奥様がニヤニヤと笑った。
おいおい、マジか?! 初回でこのゲームの意味を理解しているだと!
もちろんゲームはそこから奥様とアビーチームの一騎打ちになった。
「残念だけど、私もパス3回だわ」
奥様がそう言うとアビーが「勝ったの?」と聞いてくるので、俺は「うん」とうなずく。
「勝ったぁぁぁぁぁぁ」
アビーはよろこんで俺を抱きしめるが、ギリギリだった。俺がアビーに抱きしめられながら奥様を見ると奥様は悔しい顔をしながら、どこか満足げだ。
「これは面白いわね、ポチ」
「ありがとうございます、奥様」
「まさか、パスの数でゲームが変わるとは思わなかったわ」
おいおい、やっぱりか!
隣の旦那様が「なんのことだい?」と聞くと奥様はうなずく。
「パスの回数に制限が無ければ、子供たちが数字を学ぶ遊びに。パスが4回程度なら駆け引きをしながら他の人より早くすべてを並べる遊びに。そして、パス2回ならいかにして他の人にパスをすべて使わせるのかという遊びになる」
どんだけだよ、やばいだろ、奥様。
「そういうことよね? ポチ?」
「はい」
俺はうなだれた。
ゲームに勝って勝負に負けた気分だ。




