出会い②
弓による狩りは控えめに言って最高だ。
投石より真っ直ぐに飛ぶから当てやすいし、しかも矢尻が尖っていて、ホーンラビットはヘッドショットの1発で倒せる。
次々に倒して食べていると、声が聞こえた。
「うん? 誰かいるのか?」
俺がそちらに歩いて行くと「おい!」とか「ちゃんと働きやがれ!」とか聞こえる。
「うーむ、なんとなくオラオラ系の匂いがする」
俺はそう呟いて踵を返した。
「うん、触らぬ神に祟りなし、関わらないほうがいいやつってのはどこの世界にもいるものだ」
俺が「うんうん」とうなずくと「キャイン」と鳴き声が聞こえた。
「ほらほらチャッチャと歩けよ、クズ」
「おらよ」
ボゴッという音に合わせてまた「キャイン」という鳴き声が聞こえて俺は振り返る。
「元々、オラオラ系は好きじゃないんだよね」
声のするほうに歩いていくとコボルト2匹がフォックスをいじめていた。
「あれはコボルトだよな? 父さんがゴブリンと敵対しているって言ってたっけ」
俺は弓を構える。
「やめろ!」
俺が怒鳴るとコボルトたちは「あん?」と俺のほうを見た。
「もう一度だけ言う、乱暴はやめろ! さもないと射つ」
「おぉ、威勢のいいゴブリンだな、やるのか?」
1人がそう言うと「おいおい、レッサーゴブリンからゴブリンに進化して、しかもたまたま人族から装備を奪って、もしかして調子に乗っちゃってるのかな?」と続いたコボルトが「やってみろよ!」とフォックスを蹴ったので俺は矢を放った。
ビュン!
飛んでいった矢が、ストンとコボルトの頭に刺さる。
俺は震える手で次の矢を番えた。
「なっ、てめぇ、やりやがったな!」
「退け、お前も死ぬことになるぞ!」
「上等だ!」
そう言って剣を抜いたコボルトが走って来るので、俺はある程度引きつけてから矢を放つ。
ストンと矢が刺さったコボルトが、俺の目の前に倒れた。
ブルブルと震えが上がってくる。
「あはは、だらしないな。相手は魔物だよ」
俺はそう呟いたが、手足の震えは止まってくれない。俺はとりあえずその場に座り込んで「ふぅ」と息を吐いた。
「俺が殺した。人型でしゃべるやつを……」
俺がそう呟くと、殴られたり蹴られたりしたのだろう身体中傷だらけのフォックスが足を引きずりながら歩いてきた。
「おぉ、ずいぶんと派手にやられたな」
「クゥーン」
そう言ったフォックスは俺の震える手を舐めた。
「なんだ、俺の心配をしているのか? ばっ、馬鹿だな。自分の心配をしろよ。傷だらけじゃないか?」
「クゥーン」
俺はそう鳴いたフォックスをなでようとしたが、傷だらけなのでやめた。
「これからどうするんだ?」
「クゥーン」
「行くあてはあるのか?」
「クゥーン」
「かっ、家族……」
俺はそう言ってコボルトたちを見た『こいつらがこの子の家族を生かしているわけないよな?』そう思って「フフッ」と笑う。
「俺はずいぶんと自分勝手だな。普段からホーンラビットやボアを殺しているのに、コボルトたちがフォックスをいじめていたら憤りを感じるなんて……」
俺は手を見て、ギュッと歯を食いしばる。
「これが魔物の世界なんだよな。弱者は虐げられるか、殺されて食べられるだけだ」
俺は手を握りしめる。
「覚悟が足りない」
俺はフォックスを痛くならないように軽くなでてから、立ち上がってコボルトの胸を開いて魔石を取り出した。
「これか? 人型の魔物にある魔石。ジェムの話だとこれを食べればいいんだよな」
緑の石を見つめて、俺は「食べられるのか? これ?」と呟く。そして、とりあえず保留にして、もう1匹からも魔石を取り出した。
「なぁ、1個ずつ食べようぜ」
「クゥ?」
「要は兄弟の契りみたいな物だ。付き合えよ」
俺が魔石をフォックスのまえに置くと、フォックスは魔石を見て、俺を見て「クゥ」と鳴いた。
「『わかった』ってことか?」
「クゥ」
「よし『せーの』で行くぞ、いいな?」
「クゥ」
「『せー』あのさ、『の』でいく、それとも言い終わってからいく」
「クゥ?」
フォックスが首をかしげるので、俺は「いやいや、毒味させようとか、そういうのじゃないよ」と言ったが、フォックスはまた「クゥ?」とかしげた。
「なんだろうか? ものすごく後ろめたいな。よし、ちょっと待ってろ。俺が先に食べて大丈夫だったら、お前が食べる。いいな」
「クゥ」
そして、俺は意を決して魔石を口に入れてバリバリと噛んで食べた。おぉ?
「うぉ、うわぁー、マジか、マジか」
俺がその場でのたうち回ると、フォックスは俺の周りを回りながら「クゥーン」「クゥーン」と慌てる。
「うん、うまい」
俺が動きを止めてフォックスを見ながら笑うとフォックスは「クゥ?」と首をかしげた。
「ツッコミがこないとかなり気まずいな、これ? 冗談だ。俺は大丈夫だから」
俺は体についた埃を払いながら立ち上がり「お前も食え、うまいぞ」と言う。するとフォックスは「クゥ」とうなずいてバリバリと魔石を食べた。
「さてと、困ったな。この子を連れ帰って大丈夫か?」
俺は「うーん」と唸りながら、フォックスを見た。
「悩むよりまずは薬草で手当だな」
俺はそう言って薬草を集めると、すり潰してフォックスに塗ってやる。痛いだろうにグッと歯を食いしばってたえる姿は健気でかわいい。
「よし、じゃあ、次は罠を見に行こうか?」
「クゥ」
フォックスが鳴いて、俺たちが罠を見にいくと、待望のアレがかかっていた。
「ディア、キタァァァァァァ!」
「ワォォォォォォ!」
「おぉ、お前も喜んでいるのか?」
「クゥ」
「よし、待ってろ」
俺はダガーでディアに止めを刺して、それから担いだ。
「すまないが、これを土産に交渉するからな」
「クゥ」
そのまま2人で森を出ると、ハンスたちが待っていて、ディアを見て喜んだ。
「ディアだ!」
「マジか? やばいな!」
と喜んだが、フォックスを見て固まった。
「あの、ポチ? その子は?」
「拾った」
「その、大丈夫なのか?」
「うん、大丈夫だよ」
俺がうなずいてフォックスを抱えると「マジか」と目を見開く。
「襲ってきたりしないのか?」
「うん、俺が抱えて運ぶから大丈夫」
「そうか、頼むな」
「だからディアはお願い」
「わかった、まかせろ」
ハンスたちも初めはおっかなびっくり運んでいたが、段々と慣れて、屋敷に着くころにはフォックスを気にしている者は誰もいなかった。
屋敷に着くといつものように裏に運んでハンスたちのによる解体が始まる。そして、旦那様と奥様、それからジェムが出てきた。
「ディアなのか?」
「ディアね」
「マジか!」
3人は笑顔で俺を見て、俺が抱えている者に目を止めた。
「ポチ? それは?」
「あぁ、えっと、強そうなウルフを」
「いやいや、それは無理があるんじゃないか?」
旦那様がそう言って奥様を見ると、奥様は眉間にシワを寄せた。
「ポチ、あなたのことだから事情があるのでしょ?」
「はい」
「正直に話しなさい」
奥様がそう言うので、俺は「わかりました」と頭を下げた。




