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成長①

 その日、目覚めると体がおかしなことになっていた。


 うん? なんか腕が太くなってる。気がする……というか、全体的にひょろひょろだったのに、ほっそりと筋肉がついている。気がしなくもない。


「なっ、なんじゃこりぁー?!」


 俺がそう叫ぶと「どうした?」と小屋に入ってきたジェムが俺を見て「ポチなのか?」と聞く。


「えっ? 聞くほど変わっているの?」


「あぁ、ゴブリンに進化したようだな」


「進化?」


 俺はそう言いながら両手で自分の顔をおさえる。


「俺のかわいいベビーフェイスが残虐非道なゴブリン顔に……」


「なに言ってんだ?」


「だって『ヒャッハー』なゴブリンに進化したんでしょ?」


「なんだ? その『ヒャッハー』なゴブリンって」


「歯がすきっ歯で、舌を出しながらかわいい女の子を見て『グヘェ、グヘヘェ』って笑う例の奴らだよ」


「なんだ、ポチそのままじゃないか?」


「なっ? そんなわけあるか! 俺は紳士でかわいいレッサーゴブリンだよ。ちゃんと歯磨きだってしてるからすきっ歯なんかになるか!」


 俺がそう言うと、ジェムは「なに言ってんだ」と言う。


「進化して強くなったのに、うれしくないのか?」


「そりゃあ、強くなったことはうれしいよ。だけどさ、だからっておぞましい姿になっていくのは複雑だよ」


 俺はそう言いながら、自分の頭にある小さなコブをさすった。


「このコブが伸びて立派な角になったり、牙が伸びたり、手が4本になったり、背中に羽が生えたり……」


「はぁ?」


「筋肉も隆々になり、胸に目ができて、口から火を吐いたりするんだろ?」


「馬鹿なのか? いや、馬鹿だったな」


「うん?」


「そんなものになるわけないだろ? ゴブリンはどこまで行ってもゴブリンだし、魔物をたくさん食べたからってお前が言うように姿形まで変わったら怖いわ!」


「えっと、じゃあ、なにが変わったの?」


 俺がそう言うと、ジェムは俺の髪をくしゅくしゅと触った。


「髪の色と瞳の色だ。髪と瞳の色が黒色に変わったんだよ」


「えっと、緑から黒になったの?」


「そうだ。確かベラトールは茶色だな、その上は見たことないけど」


「そうなのか、なんかしょぼいね」


「って、どっちなんだよ!」


 ジェムがツッコミを入れて、俺が「複雑なお年頃なんだよ」と答えた。


「はぁ?」


「いや、背はもう少し欲しいし、今はかわいい系だからできれば少し精悍な顔にしてもらって、こう筋肉も細マッチョ的な感じで……」


「なに言ってんだ?」


「モテたい!」


「馬鹿やろう!」


 ジェムは呆れ顔でそう言うと「お前は魔物なんだからまず強くなって生き残ることを考えろ!」と言って「はぁ」と息を吐いた。


「だって……」


「『だって』じゃない!」


 ジェムは怒鳴ると俺の腕や肩をつかんだ。それから背中も触る。


「ちょっと、ちょっとやめてください! 駅員さんを呼びますよ!」


「なんだ、その駅員さんってのは?」


「うん、乗り物の運営をする人」


「ふーん」


 ジェムは空返事をしてから続ける。


「冷たくないか?」


「うん?」


「だから、冷たくないか?」


「だっていちいちツッコミ入れていたら先に進まないだろ?」


「まあ、そうなんだけどさ」


 俺は首肯して「でも」と続ける。


「世の中には無駄が必要なんだ」


「はぁ?」


「それにコミュニケーションを円滑に行うには、会話のキャッチボールが必要だってなんか偉い人が言ってたような、言ってなかったような」


 俺がそう言うとジェムは眉間にシワを寄せて「どっちなんだ?」と聞く。


「ツッコミを入れて」


「はぁ?」


「だからツッコミを入れて」


「いや、聞き取れてるわ!」


 ジェムがそう言って俺の頭をパシッと叩く。それから再び背中の筋肉の確認を続けた。


「渾身のボケをスルーされた人の気持ちを考えたことがあるのか?」


「ない」


「なんで?」


「ボケる奴が悪い」


 俺は「あっ」と言いながらうなだれた。


「どうした?」


「いや、いい」


「なんだ?」


「なんでもないよ」


「いや、気持ち悪いから言えよ」


 ジェムがそう言うので、俺は振り返る。


「ツッコミを入れるやつは良いよな。こっちは必死にボケを考えてボケているのにさ、結局ウケるのはいつもツッコミだし、ボケはスベる心配もあるのにさ、ツッコミはスベリ知らずだもんな」


「お前はなんの話をしているんだ?」

 

「うん? 悩める若手芸人のごっこ」


「なんだそれ?」


「えっ?」


「『えっ?』じゃねぇ!」


 再びジェムがペシッと俺の頭を叩いて、それから「弓は使えそうだな」と笑う。


「マジで?」


「あぁ、子供の弓で練習して来たからな、今日から試してみたらどうだ?」


「おぉ、いいね」


 ということで、弓を持って裏庭に来た。


 構えてしっかり引いてから放つ。


 ヒュッと飛んで行った矢が的にビシッと刺さる。


「よし!」


「やるな」


「まあ、ジェムに教わったからね」


 俺がそう言うと、ジェムは「そうか」と鼻の下をさすった。


「感覚はどうだ?」


「うん、子供の弓を扱うのと変わらないよ。一気に筋力が上がったから、同じように扱えるのかもしれないね」


「おい!」


「なに?」


「本当にポチなのか?」


 ジェムがそんなことを言うので、俺は「はぁ?」と聞く。


「なに言ってんだ?」


「だっておかしいだろ? あのポチが真面目なことを言うなんて……」


「あのさ、俺はジェムの中でどんなやつになっているの?」


「あぁ、いい加減で、馬鹿みたいなことばっかり言っているやつだな」


「おい!」


 俺がツッコミを入れると「なに怒ってんだ? 本当のことだろ?」と返された。


「いやいや、そこは冷静に返すのはやめてね。いろいろ痛いから」


 そこから何本か射ってみたが問題なさそうだ。


「大丈夫そうだな」


「うん、今日の狩りから使ってみるよ」


 俺がそう言うと、ジェムは「ベラトールになれば剣も使えるようになるはずだ」と言う。


「本当に?」


「あぁ、元々ベラトールは戦士って意味だからな」


「おぉ、なんかカッコいいね。少し背が伸びて精悍になったりするの?」


「ならない」


「いやいや、少しぐらいはなるよね?」


「ならない」


「微塵も?」


 ジェムが「微塵も!」と言うので、俺は「そんなぁ」とうなだれた。


 おいおい、普通は進化するとホブゴブリンとかになって、体も大きくなったりするんじゃないのかよ!

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