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狩り③

 翌日は罠を仕掛けてホーンラビットを狩り、とりあえず食べてもう1匹を持ち帰るとみんな喜んだ。進化は少し遅くなるが、仕方ないね。


 そして、次の日。罠を確認するために日の出と共に森に来たが、朝霧が立ち込める森の中で俺は苦笑いを浮かべていた。


 獲物は目を血走らせて、口の端には泡をためて、フンフンと鼻息は荒いが吊り上げられた足はおかしな方向に曲がっていて、暴れ疲れたのか足を吊られたままで体だけ横たわっていた。


「なんで、ボアがかかってんだ?」


 俺はそう聞いたのだが、ボアは弱々しく「フガ」と答える。とりあえずそのままは苦しいだろうから、注意しながら近づいてダガーで止めを刺した。


「うーん、持ち帰るの辛いな。だけど、テイクアウト袋をもらって店内で少し食べてから持ち帰りってわけにはいかないよな、持ち帰るなら手をつけないほうがいい」


 なので、とりあえず背負った。


 半分引きずりながら森を出ると、ぜぇぜぇと息が上がり玉のような汗が滴り落ちる。


「やべぇ、馬鹿みたいに辛い」


 俺が一旦おろしてその場に座り込むと、荷車を引いた農民風の男の人が「大丈夫かい?」と話しかけて来た。


「ゴブリン?」


「あぁ、俺はブラックドッグ家のアビーお嬢様の従者でポチと言います。悪いゴブリンじゃないよ」


 俺が首輪を見せると顔を柔らかくした男の人が「そうか」と笑う。


「俺はハンスだ。それにしてもずいぶん大きなボアを仕留めたなぁ、さすがはアビー様の従者、レッサーゴブリンなのにすげぇな」


「ありがとう。それでね、お願いがあるんだけど?」


「なんだ?」


「屋敷まで運ぶの手伝ってくれない。少しお肉を分けてもらえるように頼むからさ」


「おぉ、本当か?」


「うん」


 俺がうなずくとハンスは「まかせとけ」と言って仲間を集めてみんなで荷車にボアを乗せて運んでくれた。


「ありがとう」


「なに言ってんだ。こっちは肉にありつけるんだ。こっちがありがとうだぜ」


「あのさ、みんなも肉食べられないの?」


「まあな、農作業もあるし、やっぱり魔物は危ないからな」


「そっか」


 これは毎回運ぶの手伝ってもらって、分けるのもありかもな。


「今の時間は農作業は大丈夫なの?」


「あぁ、今の時期は刈り入れも終わっているし、みんな午前の作業も終わってる。日の高いうちは休んであとは夕方まえに作業するだけだ」


「あのさ」


「なんだ」


「たとえばなんだけど、ボアが取れるたびに運ぶの手伝ってもらうことって可能?」


 俺が聞くと「なっ?!」と運んでくれている村人たちがみんな驚いた。


「それは毎回分けてくれるってことか?」


「うん、たとえばだよ。旦那様にも相談してないし」


「そんなもの喜んでやるさ、なぁ、みんな」


 ハンスがそう言うとみんなが「おう」と返事をする。


「わかった。じゃあ、旦那様に相談してみるね」


 屋敷の裏に運び、村人たちが木に吊るして解体を始めると旦那様と奥様が「なんの騒ぎ?」と出てきた。もちろん、ジェムも一緒だ。


「ボア?!」


 旦那様がそう言って固まると、奥様が俺を見た。


「ポチ、これはあなたが獲ってきたのですか?」


「はい、奥様。それで1人では運べないので皆さんに手伝ってもらいました」


「そう」


「それでみんなに肉を分けてもいいですか?」


「もちろんよ。労働にはきちんとした対価が必要だわ。きちんと皆さんにお支払いしなさい」


「ありがとうございます」


 俺が頭を下げると、農民のみんなも「ありがとうございます」と頭を下げた。


「いえ、ポチを手伝ってくれてありがとう」


 奥様がほほえむので、俺は「奥様、お願いが」と言う。


「なに?」


「これからも、その、運べないときにみんなに頼んでもいいですか?」


 俺が言うと奥様は「そうね」と腕を組んだ。そして、ハンスに声をかける。


「農作業に支障は出ないかしら?」


「大丈夫です」


「気を使ったりしてないわよね?」


「はい、俺たちも肉を食べたいので絶対に支障が出ないようにやります」


 ハンスがそう答えると、旦那様が「多少の支障はいいよ」と言った。


「「はぁ?!」」


 俺とハンスたちが驚くと、奥様も「そうね」とうなずく。


「ポチの狩り次第だけど、無理をされる方が困るわ」


「みんなに倒れられたら私たちが困るからね」


 おいおい、マジか? やべぇな、この2人。


「ポチ、獲物を運ぶときに皆さんにお願いする許可を与えます。だけど、なるべくご迷惑はかけないようになさい。いいわね」


「はい、奥様」


 俺が再び頭を下げると「ありがとう、ポチ」と奥様がほほえむ。


「それにしてもやっぱりポチは優秀だね。ありがとう、ポチ」


「いえ、ありがとうございます。旦那様」


 2人がジェムに「あとのことはよろしく」と屋敷に戻っていくと、ハンスたちはそれぞれに喜びながら解体を進めた。


「よくやったな、ポチ」


「うん、たまたまだよ。ジェム」


「だが、結果を出した。大したものだよ」


「ディアじゃなかったけどね」


「あぁ、確かにな。でもボアもうまいぞ」


「そうなの?」


 俺が首をかしげるとジェムは「あぁ、楽しみにしておけ」と笑った。


 解体を終えたハンスたちは、みんな自分の取り分をもらいホクホク顔だけどさ。


「少なくない?」


「なに言ってんだ。これで家族みんなの口に肉が入る」


「でもさ、まだまだあるよ。もう少しずつもらったら?」


「ありがたいがな、ポチ。領主様たちに食べてもらいたいのさ」


「えっ?!」


 俺が驚くと「なに驚いてんだ」と笑う。


「この地は土地が痩せてて、作物は豊作とはいかないんだ。それなのに俺たちがやっていけるのは領主様が重税をかけずに質素倹約をしてくださるからだ」


「そうなのか」


 俺はそう思いながら外を見た。土地が痩せているのか、近くに森も小川もあるのに……。


「あのさ、腐葉土って知ってる?」


「腐葉土?」


「うん、森の土は豊かでしょ?」


「あぁ、そうだな」


「あれは葉っぱが落ちて腐って土になるからなんだ」


 ハンスたちは「うん?」と顔を見合わせながら首をかしげる。


「いまの時期、木の葉が落ちるでしょ?」


「あぁ」


「その葉を集めてどこかで土に混ぜてみて。それで葉っぱが腐って土になり始めたら畑の土と混ぜればいいと思う」


「本当か?!」


「わかんない」


 俺が即答するとハンスたちはみんな「はぁ?」と声をそろえた。するとジェムが「またか」と笑う。


「やったことないのか?」


「ない」


「できるかわからないのか?」


「わからない」


「でも可能性はあるんだよな?」


「うん」


 俺がうなずくと、ジェムはハンスたちを見た。


「やってみる価値はあると思う。ポチはおかしなやつだが、まったく根拠のないことは言わない」


 そう言って「その結果があれだ」とボアを指さした。


「一昨日、急に罠猟を始めると言い出した。しかもやったこともないし、出来るのかわからないと言う。俺も正気なのかと思ったが、こいつはボアを獲ってきた」


「なるほど、試す価値はあるかもな」


「そうだな、森も近いし、最近は寒くなって来て落ち葉なんてそこらじゅうに落ちているからな」


 ハンスたちがそう言うと、ジェムは「だが」と言う。


「森に近づくときは充分に注意してくれ、これからはポチが近場の魔物を間引くから危険度は下がるが、危ないからな。出来れば柵は越えないでほしい」


「わかりました」


 ハンスたちがもう一度「ありがとな」と俺の頭をなでて礼を言いながら帰っていく。


 俺はうれしそう帰る人たち背中を見ながら『もうちょびっとだけ頑張るか?』と思った。

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