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身支度③

 倉庫にはいろんな物があった。金属の甲冑から、木製の農具っぽい物まで。これは見ているだけでワクワクする。


「見ろよ、ジェム」


「なんだ?」


「これなんに使うんだ?」


「知るか!」


「なんだよ、そんな言いかたしなくてもいいだろう」


 俺がそう言いながら再び罠を探し始めるとまた面白そうな物が出てきた。


 おぉ、シャベルか? 木製だけど先端が鉄で補強がされている。


「おぉ、鍬もあるじゃん」


「なにやってんだ?」


「うん、農具があるぞ」


「違うだろ? お前が探すのは罠だ」


「そうだったね」


 俺が首肯して、再び探し始めると糸車があった。それから織り機、こっちには……。


「おぉ、これは革をなめすやつじゃないか?」


「おい!」


「うん?」


「『うん?』じゃねぇ、遊んでないで探せよ」


 俺が「だけどさ」と笑うと、ジェムは「なんだ?」と聞く。


「なんか、こういう作業ってワクワクするし、他の物に目移りするじゃん?」


「いやいや、真面目にやれよ。奥様に『あなたたちはあなたたちの仕事をなさい』と言われただろ?」


「お前は真面目か?!」


「そうだ!」


「委員長みたいなやつだな」


「委員長?」


「奥様の言いつけをきちんと守るいい子ってこと」


 ジェムは「そんなの当たり前だろ」と言って作業に戻った。


「当たり前じゃないだろ? 人生は遊びも必要だよ」


「お前の場合はほとんど遊びだろが!?」


「そんな言いかたしなくてもいいじゃない」


 俺が「ぐすん」と泣き真似すると、ジェムは「遊んでないで罠を探せ」と言う。


「なんだよ、つまんねぇやつだなぁ」


「なんだと!」


「おぉ、何度も言ってやろう、つまんないやつだな、つまんないやつだね、つまんないやつだよ」


「殺す! そこへなおれ、切り捨ててやる」


「待て待て待て、冗談だって、なんで剣に手をかけてんだ。お前はアレか? 冗談の通じない残念な人か?」


 ジェムが「あぁ、そうだ」と目を血走らせるので、俺は「おい!」と笑う。


「わかった、わかった。ごめん、ごめんって」


 俺が謝るとジェムは「真面目にやれ」と再び罠を探すのに戻った。


「なんか、必死だな」


「うん?」


「そんなに奥様に認められたいのか?」


「あぁ」


「なんで?」


 俺が聞くとジェムは探していた手を止めて俺を見た。


「奥様が俺とキムを拾ってくださったからだ」


「えっ?」


「俺たちは孤児だ。奥様が拾ってくださったから生きていられる」


「だから恩を返したいってわけか?」


「そうだ」


 ジェムがうなずいて作業に戻るので、俺も探し始めた。


「あった。これじゃないか?」


 俺が鉄線と鉄の輪っかで出来た仕掛けを見せると、ジェムは「これなのか?」と聞く。


「うん、ここを木に引っかかけて、この輪っかを地面に埋めるんだと思う」


「それで、輪っかに足が入ると、この仕掛けが動いて鉄線で吊られるってわけか?」


「そうそう」


「そんなにうまくいくのか?」


「わかんない」


 俺が言うとジェムは「はぁ?」と聞く。


「だから、わかんないって」


「おい! わからないのか?」


「うん」


「なんだよ、それ!」


 ジェムが呆れ顔で俺を見るので、俺は「そんなもんやってみないとわからないだろ?」と聞いた。


「やったことはないのか?」


「あるわけないじゃん」


「おいおい、マジか?」


「マジ」


 俺がうなずくとジェムは頭を抱えた。


「奥様は言わなかったが期待していると思う」


「そうだろうね」


「じゃあ、なんとかしろ」


「だから、それはやってみないとわからないって」


「いや、それでもなんとかしろよ」


「無理」


「はぁ?」


 ジェムが首をかしげるので、俺を両腕を広げて見せた。


「俺は誰だ?」


「ポチだろ?」


「そうだ。そのポチ様がやったこともないことをなんとかできるほどハイスペックだと思うのか?」


「うっ」


 ジェムはうめき声をもらしたあとで「思わない」と言う。


「ねっ」


「『ねっ』じゃねぇ!」


「おぉ、元気出てきたねぇ」


「マジか? お前は本当に、本当の馬鹿なのか?」


「うぃー」


 俺がうなずくと、ジェムが「はぁ」とため息を吐いた。


「真面目にやってるのがアホらしくなった」


「そうだよ。ジェムはもっと肩の力を抜いたほうがいい」


 俺がそう言うと、ジェムは「お前はもう少し肩に力をいれようか?」と返す。


「よし、罠は見つかったからあとは武器だな」


「おう、ナイフだろ? さっきその辺にあったぞ」


 ジェムが指差す辺りを見るとあった。


「ダガーかな?」


「そうだな、ポチにはちょうどいいんじゃないか?」


「うん」


 俺が引き抜くとやっぱり少し錆び出ていた。


「研げば問題ないね。あとは」


 俺がナイフを下げるベルトや胴当てを探したが、どれも大人用だから大きい。


「俺には無理だな」


「胴当てとベルトか?」


「うん」


「俺が小さいときので良ければ部屋にあるからやるよ」


「おい! お前はまだ小さいだろ?」


 俺がそうツッコミを入れるとジェムが「あん?」と首をかしげた。


「お前よりは大きいだろが!」


「そりゃあ、そうだろ。ゴブリンなんて成人しても人族の半分ぐらいの大きさにしかならないし」


「それは種族だから仕方ないな」


 そう言ったジェムが俺の頭をペシペシと叩くので、俺は「くそっ」と歯噛みする。


「籠手もある?」


「あるぞ」


「くれる?」


「あぁ、俺は使わないからな」


「ありがとう」


 俺が礼を言うと驚いたジェムが「おう」と答えた。


「あとは弓が使えたらいいんだけどね」


「進化して筋力が増せば使えるようになる」


「まあ、そうだけど、弓を使えるようになっても狩りができるレベルで扱えるようになるには練習が必要だろ?」


「確かにな……じゃあ、今のうちから子供用で練習だけしとけばいいんじゃないか?」


「おぉ、それだ」


 俺がジェムを見ると「俺が教えてやるよ」と笑った。


「とりあえず、そんなところか?」


 ジェムがそう聞くので俺は「うん」とうなずく。


「明日狩りに行って、この罠を仕掛けてくる」


「うん? 今行ってこないのか?」


「ばか言え、夜の森は魔物がウヨウヨいるんだぞ」


「お前だって魔物だろ?」


「お前は馬鹿か? 馬鹿なんだな! 俺はレッサーゴブリン、最弱種なんだぞ。あいつらから見たら餌みたいなもんなんだよ」


「自分で言ってて悲しくないのか?」


「悲しいわ! ボケ!」


 俺が涙目になるとジェムが「頑張って進化しような」と笑う。


「同情すんな!」

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