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第12話 黒い風

 ゴブリンの腕力は一般的な成人男性より少し高い程度だ。

 なので一般的なモンスターの中ではかなり弱い、しかしそれは単純な戦闘能力に限ればの話だ。

 高い知能で作戦を立て、手先の器用さで武器を扱う。その二つの能力のおかげで彼らゴブリンは自分より強いモンスターに勝つことも珍しくない。


 今商人を襲っているゴブリン達も手にはナイフや棍棒などの武器を手に持っている。

 中には品質が高い武器もある、おそらく襲った人間から奪ったのだろう。


『ゲギャギャ! ニンゲン、コロスッ!』


 甲高い耳障りな声を出しながらゴブリンは怯える商人にナイフを向ける。

 護衛代をケチったのが運の尽き。戦闘能力皆無な商人は剣をぶんぶん振り回してゴブリンを追い払おうとするが全くゴブリンには届かなかった。


「く、くるなあ!」


 その商人は若い男だった。年は二十にも満たないだろう。

 彼はまだ駆け出しの商人であり護衛を雇う金すら無かったのだ。そんな状態でゴブリンに目をつけられるとは運がないとしか言いようがない。


「ひ、ひい……」


『ゲギャギャ……!』


 必死の抵抗虚しく、ゴブリンは手に持った歪なナイフを商人の首元に押し当てる。後は刃を手前に引けば彼の命はないだろう。

 絶望に染まり青ざめる商人の顔を見て、ゴブリンは嬉しそうに醜悪な笑みを浮かべる。

 そして存分にそれを堪能した後、ナイフに力を込める。


 終わった。

 商人がそう観念した瞬間、奇跡が起こる。


「させる……かッ!!」


 その声と同時に黒い風が吹き、ゴブリンの頭部が宙を舞う。


「へ……?」


 突然のことに呆然とする商人。

 そんな彼に声が投げかけられる。


「大丈夫ですか? こいつら僕がやっつけるので安心してください」


 そう彼に話しかけたのは自分よりも年下の少年だった。

 駄目だ、危ないよ……と声をかけようとしたが、少年の持っている黒い剣が目に入りその言葉を引っ込める。


「さっきのは君が……!?」


 年端もいかない少年がゴブリンを一瞬で倒すなど想像できないが目の前の光景がそれを証明している。

 そして何より……自分の心が目の前の少年を信じろと叫んでいた。


「任せて……いいのかい?」


 少年はその言葉に力強く頷くとゴブリン達に刃を向ける。


「僕が相手だ! かかってこい!」

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