第11話 走る
「うう、もうお嫁に行けない……」
村を出て一時間後、カノンはそう落ち込みながら街道を歩いていた。
「いつまで落ち込んでんだ、減るもんじゃおるまいし男らしくないぞ」
「僕の尊厳はゴリゴリ減ったよっ!」
そんな感じに喧しく騒ぎながら歩く二人は街道を南へ進んでいた。
彼らが目指すのはここミナリカ大陸の中央に位置する『ラジア王国』だ。
レヴィアの記憶を探すのも大事だが、今は生活を安定させるのが最優先。カノンはラジア王国でまた一から畑を作る生活をして生活基盤を整えようとしていた。
「早く畑作りたいなあ」
「カノンは本当に土いじりが好きだな、そんなに楽しいのか?」
「あの楽しさを知らないなんてレヴィアは人生を損してるね。自分の植えた種が芽吹いて大きく育っていく喜びは何ものにも代えがたいんだよ。レヴィアも戦うことばっか考えてないでやってみるといいよ」
「農作業、ねえ。私には向いてないと思うんだけどなあ」
乗り気じゃないレヴィアにカノンは農作業の素晴らしさを説きながら街道を進む。
すると道の先に
すると道の先に商人のものと思わしき馬車が見えてくる。しかし様子がおかしい。その馬車は一向に進んでおらず道の真ん中で止まったまんまだ。
「あれはマズそうだな」
「へ? どういうこと?」
「血の匂いがする、これは馬の血の匂いだな。そしてもう一つ特徴的な悪臭……こりゃゴブリンだな。こんなくせえ臭い、忘れたくても忘れられねえ」
「ゴブリン!? それはマズいよ!」
ゴブリンはEランクのモンスター。最低ランクがFなので単純な戦闘能力は低い部類に入る。
しかし残虐な性格と狡猾な知能、さらに武器を扱い集団で行動するので戦士でない者が襲われればひとたまりもない。身ぐるみを剥がされ骨の髄までしゃぶり尽くされてしまうだろう。
「……っ!!」
気づけばカノンは走り出していた。
考えなんて何もない。誰かが危険な目に会っていると助けにいられない、それが少年の性格だった。
この良く言えばお人好し、悪く言えば騙されやすい性格のせいで少年は過去何度も辛い目に会っていた。王都での契約打ち切りの件だってもっとうまく立ち回れたはずなのにそうしなかった。
しかし少年は生き方を変えない。
この生き方を曲げてしまったら自分が自分でいられなくなってしまう気がするから。
「……ったく、どうやら私の主人は底抜けのお人好しのようだ。先が思いやられるよ」
今までその性格で色んな人に裏切られた少年、しかしそんな彼にもようやく理解者が現れる。
彼女は彼の無謀な行為を咎めることなく、その手を握り協力する意を彼に伝える。
「協力、してくれる?」
「当たり前だ、私とお前は一心同体なのだから」
その言葉の後に二人の姿は一人と一振りになる。己の信念を貫くために。
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