表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/22

12 フィーネ


「春海、おはよう。あの、聞きたいことがあるんだけど……って、春海?」


近づいて話しかけてきた無月を無視して席を立つ。

私は無月と距離を置くことに決めた。急に無視するようになったから、無月は戸惑っているようで、正直心が痛む。けれどこれも無月の為なんだと思う。


「ねえ、春海」


「春海」


「春海、どうしたの」


「ねえ!」


幾度もすれ違い、無視をするのが何度目かもう分からない頃、無月に手首を掴まれる。振りほどきたいけれど振りほどけない。ここで拒絶したらすべてが終わってしまう気がするから。


「無視しないで。何かあったなら私に言ってよ……」


鼻の奥がじんじん痛む。気を抜けば涙が溢れてしまいそうだった。


「ねえ、あの絵があの場所から無くなった事と関係あるの……?」


涙を堪える。ちゃんと、ちゃんと終わらせる。でないと無月が不幸なままだ。


「ねえ、答えてよ、春海……」



「関係ないよ」

「あの絵は、私が捨てたんだよ」

「無月、今までごめんね。ばいばい」



「春海っ……待って!」


手を振りほどいて、一思いに階段を駆けのぼる。あの日の事を思い返しながら。


ーーーーーーーーーー


「何……してるの……」


愕然として、言葉が出なかった。理由なんて本当は聞きたくもなかった。それでも聞かずにはいられなかった。


「え〜?なんでって……んー、水縹さん、最近岸波さんと仲良くしててなんかムカつくから」

「岸波さんは水縹さんと違う階級にいるんだから、仲良くしちゃだめでしょ」


その人は落書きする手を止めて、笑いながらそう言った。あの日二人で描いたヒマワリ畑は、その人の手元で黒くぐしゃぐしゃに塗りつぶされていた。まるで、私達の日々をすべて否定するかのように。


「は……そんな……事で……?」


わけが分からずその人に掴みかかる。上げた拳は振り下ろす前に制されて、胸ぐらを掴み返された私はそのまま壁に強く打ちつけられた。


「こんな所に絵なんて飾ってるあんたが悪いんでしょ!?大体、なんでそんな怒るのよ!絵ごときで!」

「ちょっと、暴力振るうと内申に響くよ」

「分かってるよ。もう行こう」


その人は私から雑に手を離すと、グループの人達と一緒に逃げるように去っていった。

絵ごとき。ああ、私の生きがいも否定されてしまった。存在も生きがいもあの日々も、全部全部否定された。


……私と無月じゃ階級が違うって言ってたな。そうなんだ、私なんかが無月と仲良くしちゃ駄目なんだ。私といるだけで、無月に迷惑がかかる。二人だけの世界を作ること自体、許されないことだったんだ。


ーーーーーーーーーー


本校舎の屋上に着いて、柵を越える。

一歩踏み出せば落ちてしまう。

下を見ると足がすくむ。

けれど、今ここから飛び降りる事より、これから無月のいない世界を生きる方が怖くて、好きな人を裏切って生き続ける方がよっぽど痛いのだと思う。


……だから、ごめんね、無月。



「待って!!」



飛び降りるのを躊躇った瞬間、腕を掴まれる。振り返るとそこには、見知らぬ長い黒髪の女の子が立っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ