11 月の花
○学校・教室(夜)
静寂までもが囁き嗤う。
机に突っ伏して声を殺し泣く岸波無月(17)。
それを見守る水縹春海(17)。
二人を取り囲む何か。
それは子供のような形のない虹色の痛み「永劫回帰を否定しろ!永劫回帰を否定しろ!」
突然のシュプレヒコールに戸惑う春海。
× × ×
(フラッシュ)
屋上から身を投げる少女。
× × ×
それは子供のように脊髄を揺さぶる感傷「すべては君がはじめたんだよ」
春海と無月、どちらからともなく怯える。
○学校・教室(昼)
黒板の前に立つ春海。前列中央の席に座る無月。
教卓に両手をついて、春海が問う。
春海「スノードロップは?」
無月「希望、慰め、逆境の中の望み」
春海「フクジュソウ」
無月「幸せを招く、永久の幸福、悲しき思い出」
春海「ローダンセ」
無月「……変わらぬ思い、終わりのない友情」
春海「ムスカリ」
無月「……忘れちゃったな」
春海「じゃあ、これらはいつの誕生花?」
無月「2月26日」
春海「正解」
微笑む春海。無月は自分の影に視線を落とす。
○あの空間・あれの前(時)
黒い翼の少女(N/A)、懐中時計を落とす。
春海、それを拾い上げる。
飛び去ろうとする黒い翼の少女。
春海「待って、天使さん」
少女「驚いた、私を死神と呼ばないのね」
春海「落とし物……違う、忘れ物です」
少女「もういらないから捨てたのよ、何もかも、もういらないの」
背を向け歩き出す黒い翼の少女。
少女「お下がりの世界であなたは何を見つけられるのかしら。始まりと始まりが出会う場所に愛はあるのかしら。そんなこと、どうだっていいのだけれど」
少女、振り向きうっとりとした表情で
少女「私は始まりが好きよ。世界の始まりと私の始まり、それは優しく美しいものだから」
少女「終わりはない方がいい。始まりを始まりたらしめる要素が消えてしまうくらいなら」
少女「連続性を担うのは片方の役目。一人がつらいのなら引き継ぎ引き継がれ繰り返しを繰り返せばいい」
呪詛に囚われる春海。恐怖、怒り、衝動を抑えきれず
春海「永劫回帰を
〜暗転〜
○学校・屋上(夕)
佇む黒髪の少女。
その姿は包帯に包まれている。
少女「Must be a way to get out of this cul-de-sac.」
「找我、我们重复多少次?(中国語訳)」
「L'importante è non arrendersi mai.(イタリア語訳)」
「あなたのための光はあるよ(日本語訳)」
黒髪が風に煽られなびく。
少女「ねえ、なんで無月は死んでしまったの」
○学校・教室(朝)
金髪の少女と前髪で片目を隠した少女が自分の前に立っている。
金髪の少女は自らを"承諾"、片目を隠した少女は自らを"原初"と名乗った。
承諾は春海の右に、原初は春海の左に立って耳元で囁く。
承諾「強迫観念にも似た支配から抜け出して」
原初「全ての元凶を始まりの場所に還して」
二人「春海、あなただけが私達の祈り」
○公園(夜)
アーチに蔦を這わせたヨルガオの花が咲き乱れる。
侵食していくアラームの音。
アラームを止めようと、寝起きのおぼつかない手つきでスマートフォンの画面をなぞる。薄目で時間を確認して、あと5分だけ……と枕に顔をうずめた。たった5分で新学期が始まる絶望と決着をつけられる気もしないが。
やたらと長い夢を見ていた気がする。内容はもうあまり覚えていない。でも良い夢ではなかったような。寝起きだというのに何故かひどく疲れているから。
目が覚める寸前、ヨルガオを眺めていたのはまだ覚えている。白く輝き夜に咲く姿はまるで月のようだった。夜に浮かび上がる白、といえば……無月の腕の包帯。散歩したあの夜をぼんやりと思い出す。
眠気と戯れていれば、階下から母親の声が聞こえる。返事をして、仕方なく布団から這い出た。新学期こそは無月と平和に過ごしていきたい、そう思いながら。




