久しぶりの場所で
ちょっと文字数少な目にして、三日に一度くらい更新できるように頑張ります
あと、ソロ神官の六巻が今月発売です! よろしくお願いします!
昼食が終わり、午後の時間。
俺はFEOにログインし、とある場所を訪れていた。
「……って、ことがあったんですよ。まったく、酷いと思いませんか? シルさん」
「えっと……それはしょうがないんじゃないかしら? 少なくとも、ワタシだったら神官さんの周りにいる人たちと同じ反応をしてしまうと思うの」
「シ、シルさんにも分かってもらえなかった……」
がっくりと肩を落とした俺を見て、ウェーブの掛かった紫紺の髪を揺らす清楚な印象の女性――シルさんは困ったような笑みを浮かべた。綺麗な女性にそう言う表情されると、なんというか、少し心に来るものがあるなぁ。
俺が訪れているのは、第一の街『アンヴィレ』に存在する『スキル屋』だ。清潔感のある店内には、スキルブックがいくつも置かれている。
約一か月ほど前、FEOを始めたての俺が最初に入った店で、その時は閑古鳥がこれでもかって鳴いていたっけ? シルさんも、今の『憧れのお姉さん』みたいな感じじゃなくて……言葉を選ばずに言うなら、大変不気味な感じだった。あの時は、初対面で悲鳴上げたからなぁ。
そのあと、その場の流れで彼女の相談に乗ったところ、SQを受けることになり、その報酬として《狂信の聖戦士》の元となったスキル、《信仰の剣》と《信仰の盾》をゲット。
で、その後も店の改築案だったりシルさんの服装指導だったりを俺やサファイアやアッシュで行って、今のシルさん&『スキル屋』になった。
俺が活動範囲を広げた後も、この『スキル屋』にはちょくちょく訪れている。とはいえ、一般プレイヤー向けのスキルブックを扱っているこの店に、『ソロプレイ前提の殴り神官』用のスキルは置いていないので、ここに来てやることと言えば大体は世間話か、俺がいらない素材をタダ同然で売り払うかのどちらかである。
とまぁ、これが俺とシルさんが出会ってからこれまでの経緯だ。因みに今日は、最近の俺に対する周りの反応に対しての愚痴を零していたのだが……まぁ、結果は御覧の通りである。
……チクショウ。俺が戦いから離れるのがそんなにおかしいのか。しゃ、釈然としねぇ……。
「俺だって、平穏を楽しんだりするんだぞ……? というか、俺は基本的に温厚なんだし、戦闘狂みたいな扱いを受けることが納得いかないんだが。確かに戦うのは好きだけど、大概の戦闘系プレイヤーがそうじゃん……俺だけじゃないじゃん……」
「……うーん。ワタシは何も言わないでおこうかしら?」
「うぐっ……その気遣いが心に痛い……」
シルさんの言葉でがっくりと項垂れ、カウンターに額を打ち付ける。
「ほら、そんなに落ち込まないで。そうだ、美味しいお茶が手に入ったのだけど、神官さんもどうかしら? アヤメちゃんも呼んで、お茶にしましょう?」
そんな俺の姿を見て、苦笑しつつも優しい言葉をかけてくれるシルさん。ああ、優しさが傷ついた心にしみわたるぅ……。
「……そうですね。『我がうちより目覚めよ、我が使い魔。その名はアヤメ』っと」
シルさんのありがたい提案に、俺は顔を上げて頷き、詠唱。俺がさっきまで頭を打ち付けていたカウンターに魔法陣が現れ、そこから巫女服に身を包んだ狼耳の少女――アヤメが現れた。
カウンターの上でぺたんと女の子座りをし、いつも通りの無表情できょとんと首を傾げている。
きょろきょろとあたりを見渡した後、俺を紫眼に映したアヤメは、頭の上の耳をピコピコさせながら俺の方へと寄ってきて……。
「アヤメちゃ~ん!」
「………………(びくっ!)」
俺に手が届くよりも早く、シルさんに捕獲された。
「あぁ~~~! アヤメちゃんアヤメちゃんアヤメちゃんアヤメちゃん! んぅ~~~! 今日も可愛い~~~~~~!!!」
「………………(じたばた)」
「アヤメちゃんアヤメちゃんアヤメちゃんアヤメちゃんアヤメちゃんアヤメちゃん~~~~~~~~~~!!」
「………………(もがっもがっ)」
そしてそのまま、シルさんの母性の象徴に埋もれていくアヤメ。何とか脱出しようと藻掻いているが、一行に抜け出せる機会はない。ステータス上ではアヤメの方が圧倒しているので、抜け出そうと思えばすぐにでも抜け出せるはずなんだけどなぁ。それでも捕まったままになっているということは、アヤメも嫌がっていないということだろう。
それともあれかね? サファイアやらアッシュやら後輩やら。俺の知り合いの女性陣はアヤメと会うたびに今のシルさんと同じような行動をとるので、アヤメも慣れたのかね?
「はぁ、可愛いわねぇ……。アヤメちゃんがこの店で看板娘をしてくれたら、それだけで売り上げが倍くらいになりそうなくらい可愛いわぁ。…………ねぇ、神官さん。物は相談なのだけど、アヤメちゃんをこの店でアルバイトさせてみる気はない?」
「それ、自動的に俺も一緒に働くことになるんですけど? あと、うちのアヤメを客寄せパンダにしないでください」
「それは残念。……って、あれ? アヤメちゃん?」
シルさんがきょとんとした声でアヤメの名を呼ぶ。おや、そう言えばさっきからやけに大人しいというか、静かというか……抵抗を諦めたのかな? と思い、アヤメの方に視線をやると……。
「………………(びくびく)」
そこには、シルさんの胸に顔を埋められ、身動きの取れないアヤメが、全身を弛緩させビクビクと痙攣し……って、窒息してる!?
「ア、アヤメちゃん!?」
「シルさん、それよりも先に手を! 手を離して!」
「そ、そうですよね! えいっ!」
シルさんが手を離したことで、ふらりと倒れそうになったアヤメを両手で受け止める。アヤメ、無事か……!?
「………………(ぐったり)」
「ア、アヤメーーーーーーー!!?」
「きゃぁあーーーー!? ご、ごめんなさぁーーーーーい!!」
俺の腕の中で、物の見事にぐったりとしているアヤメを見て、俺とシルさんは思いっきり悲鳴を上げるのだった。
読んでくれてありがとうございました!
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